寝てるなんてもったいない!
椿の朝は早い。今よりずっと小さい頃はそれこそ空が白み始めると目を覚ますことさえあった。
「え? もう起きたの?」
とアオは言ったものの、実はそういうこともあるというのは、さくらの子供達の
それは、遠足を楽しみにしている子供が、普段はなかなか起きないのに遠足の日だけは早く起きるのと同じことなのだろう。
つまり、毎日が楽しくて勝手に目が覚めるという感じだろうか。
『寝てるなんてもったいない! 遊ばなきゃ!』
ってことで。逆に、夜はすぐに眠そうにするから九時頃には寝かしつける。
その時間、さくらはまだ仕事で帰っていないことが多いので、エンディミオンが。
子供達と一緒にベッドに入って、寝付くまでそばにいてくれる。だから子供達も安心して眠ることができた。
そんな
さすがに今では夜明けと共に起きてくることはなくなったけれど、それでも起こされなくても六時くらいには目を覚まして、自分でトーストを焼いて、ミハエルが用意してくれたハムエッグと一緒に食べるのがいつものパターンなのだった。
また、起きるのが早いので、学校に行く用意を済ませてもまだ時間には余裕がある。その間に
しかも、家事を一段落させたミハエルが椿の隣に座ると、ゲームを一旦停止させて、
「えへへ~、お父さんのおひざ~♡」
ミハエルの膝に座ってきた。
と言っても、正直、もう椿の方が身長も高くなっている。体重も上だ。
だけど、吸血鬼であるミハエルにとってそんな体格差はなんの問題にもならない。座椅子に座っているような確実な安定感がある。だから椿も安心してそうできた。
「椿は、学校、楽しい?」
自分より大きくなった娘を膝に抱いてミハエルが穏やかな表情で問い掛ける。
「うん、楽しいよ♡」
椿は嬉しそうにそう応えた。その上で、
「学校は楽しいんだけど、山下さんがしつこく自分の<推し>の布教してくるのがちょっと困るんだよね。だからって『興味ない』みたいに言うとキレるしさ。
それで藤木さんとケンカになっちゃったりしてたんだ」
と、学校での出来事を素直に話してくれる。
「そうか。それは大変だね」
ミハエルも素直に相槌を打つ。
「何が好きかは人によって違うからね。自分が好きだからって他の人もそれを好きになってくれるとは限らない。だから自分の好きなものを他人に押し付けるのはトラブルの素なんだ。椿もそれは感じるよね」
父親であるミハエルがそう話し掛けると、椿も、
「うん。それはすっごく思う」
大きく頷いた。
「だからね。山下さんが<推し>を好きなのは別にいいんだ。でも人にそれを押し付けるのは違うよね」
「そうだね。強引にそういうことをすると、山下さんが好きなものに対しての印象が悪くなることもあるよね。だとしたら強引に他人に勧めるのは逆効果だよね。
だけど、自分が好きなものを他人にも好きになって欲しいって思っちゃうのも自然な気持ちだっていうのも、椿には分かって欲しいんだ」
「うん、それも分かってる」
こんな感じで学校に行く時間まで父と娘のコミュニケーションが続けられたのだった。
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