両方が同時に

『俺のはただの自業自得だよ。あいつらが悪いんじゃねえ……』


そう言った時のボリスの笑顔がすごく悲しそうに見えて、安和アンナは胸がギュっとなるのを感じた。だからつい、ボリスの丸太のような脚に抱きついてしまった。


「……俺を慰めようとしてくれんのか……?」


ボリスの言葉に、


「分かんない……分かんないけど、なんかこうしたくなったんだよ……」


安和は彼の腿に顔をうずめながら言った。


正直、まったく好みのタイプじゃなかった。それどころか子供を殴るような奴が子供に愛想を尽かされたって確かに『自業自得でしょ!?』としか思わなかった。ボリスがそうだったというのなら、それこそ軽蔑の眼差しを向けてやりたいとさえ思った。


でも、今の彼からは、過去の自分を恥じて心から反省しているという<匂い>がしてくる気がした。


なのに、ちゃんと反省してるのに、それが彼の子供達には伝わらないというのがすごく悲しかった。『どうして上手くいかないんだろう…』って思った。


一緒にいる時には最低の父親で、でも子供に見捨てられてからそうじゃなくなるとか……


本当に人生というのはままならないものだ……


これがフィクションなら、ひょっこり妻子が現れて、


<感動の和解シーン>


になったりするだろうに、現実はそんなこと起こらない。


それが悲しかった。


涙が勝手に溢れてしまう。


「アンナは本当に優しい子だな……俺も、自分の子を、アンナやユーリみたいに育ててやりたかったと今頃になって思うよ。


まったく、俺みたいな馬鹿な奴は、なんでも手遅れになってから気付くんだ……


お前らはそうならないようにな……」


自分の足にしがみついて肩を震わせる安和の頭を、ボリスはそっと撫でた。すごく優しい撫で方だった。


『こんな風に撫でてやれてたらな……』


ボリス自身もそんな風に思い、胸が締め付けられた。武骨な顔が悲しげに歪んで、涙が頬を伝う。


人間の愚かさと誠実さがそこにはあった。その両方が同時に存在するのが<人間>というものなのだと、改めて実感させられた。


セルゲイが自分達を彼に会わせた理由が、悠里にも分かった気がした。




こうしてボリスのところで二日間を過ごし、でもアオが心配のあまり怒っているので予定を早めてコロンビアの側へと移動することに決めた。


とは言え、コロンビアも決して安全な国ではないけれど。


それでも、セルゲイやミハエルと一緒なら何も怖くはなかった。そして、どれほど危険な国であってもそこに住んでいるのはやっぱり<人間>なのだと思えた。


人間が諍いを起こすのは、それなりの理由があるからだ。ただただ愚かでどうしようもない無価値な存在というわけじゃない。


悠里と安和にもそれがすごく実感できていたのだった。


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