チェックイン

「ベネズエラは一時滞在するだけって言ったじゃん! それがゲリラの戦闘に巻き込まれるとか、どういうことよ! プンスコ!!」


コロンビアに移動し、それなりにまともなネットワーク回線を使って、十分とはいえないものの何とかビデオ通話もできるようになって顔を合わした途端、アオがそう言って怒ってた。


「ごめんごめん。どうしてもベネズエラ側のギアナ高地で確認したいことがあったんだ。子供らのことはちゃんと守れる算段もあったし、子供ら連れて帰ったら美味しいもの奢るから許して」


セルゲイが両手を合わせながら何度も頭を下げる。すると安和アンナも、


「セルゲイのことあんまり責めちゃダメだよ! ママ! 私達、ちゃ~んと他ではできない良い経験したんだから!」


とセルゲイの腕に抱きつきながら言った。


確かに結果論にすぎないとは言え、得がたい経験をしたことも事実。だから悠里ユーリも、


「安和の言うとおりだよ。僕はベネズエラに行って良かったと思ってる」


そう言って微笑む。


子供達に揃ってそんな風に言われてしまうと、


「う~……」


アオとしても、それ以上言えなかった。


そもそも、危険だから云々の話をするなら、彼女自身、


『吸血鬼であるミハエルとの間に子供を作ってダンピールを生む』


という危険なことをしたわけで、セルゲイを責められる立場になかったし。


「ふん! だ!」


でもやっぱり子供みたいに拗ねるアオを、学校から帰ってきたところの椿つばきが、


「よしよし♡」


となだめてくれる。


それでも、


「ごめん。帰ったら改めてちゃんと謝る」


ミハエルも丁寧に頭を下げた。


そこまでされるとさすがにいつまでも拗ねてもいられなかった。その上で、


「コロンビアもけっこう危険なとこなんでしょ? 絶対に怪我とかしないでね」


と注文も出してきた。


「まあ、それについてはさすがに大丈夫だと思うよ。こっちは内戦までしてるわけじゃないし」


悠里が母親の様子に困ったように笑いながら言った。


もっとも、いくら『内戦まではしていない』と言っても、マフィア同士の抗争や、警察や軍によるマフィア殲滅作戦などがあると、様々なルートから手に入れた重機関銃などもマフィアが使ってきたりすることもあるので、実は、


『吸血鬼だから、ダンピールだから、ぜんぜん平気』


とまでは言えないことも事実ではある。


それでも、ゲリラの攻撃も対処してみせた実績もあり、それに比べればというのはあるかもしれない。


いずれにせよとにかくコロンビアに入国。いきなりまた強盗に遭遇しながらもそれも撃退。


無事にホテルにチェックイン。


寛ぐことが―――――


「って、これでどう寛げって!?」


安和アンナが声を上げる。


と言うのも、


エアコンは壊れてる、トイレは水が流れないのでバケツに汲んだ水で流さなくちゃいけない、シーツはボロボロの上に染みだらけ、おまけにシャワーはお湯が出ない。


などという有様だったのである。


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