ショタパパ ミハエルくん

子供みたいに

自分に対して鋭い視線を向けるアンゲリーナ（安和（アンナ））に気付き、それが嫉妬だと気付いた美千穂は自重を心掛けた。

『そうだよね。子供達にとっては大切なお父さんだもんね…』

正直、残念ではあったものの、そのくらいの分別は彼女は備えていた。目先の感情ばかり優先する人間達が何をしてきたかもよく知っているから。

ただ、もうそういう人達と同じ生き方をしないと選択した美千穂にとっては関係のない話かもしれない。

事実、彼女は、

「今度、ハンバーガーの大食い大会があるんです！　地元のテレビも企画に参加してて、そこそこ有名なフードファイターも出るそうです。私もそれに参加を申し込んできました！」

と、フードファイターとしての道をしっかりと選んでいる。

「それは応援に行かないといけませんね」

セルゲイも穏やかに微笑みながら応えた。

これについては、アンゲリーナ（安和）も、異を唱えることはなかった。

こうして、さすがに昨日に比べると控えめではあったものの、それでも他の客が目を見張るほどの食事を堪能し、美千穂は満足そうに笑っていた。

『なんか、子供みたいに笑うよね』

彼女のあどけない笑顔に、アンゲリーナ（安和）も毒気を抜かれたように微笑む。

この辺りはまだまだ、『色気よりは食い気』といった印象もあった。セルゲイに対して好意を抱いているのは事実だとしても、それが優先されるようにも感じられず、少し安心する。

どうやらこの部分で拗れる気配はないようだ。

事実、美千穂は、こちらでも友人もできて、キャンパスライフを満喫している。

「こっちに来てから、同じフードファイターを目指す友達もできたんです。ただ、その子は、フードファイターとしての実力はどうかなって感じもあるんですけどね。

だけど若いうちは自分の可能性を試すために挑戦してみるっていうのも大事なのかなって思うんです。もしその子がフードファイターとしては挫折したとしても、私は友達として支えたいと思います。

それに、その子は、絵が上手なんですよ。すっごく雰囲気のある絵を描くんです。本人は『下手だから』って恥ずかしがってるんですけど、絵本の挿絵とかを描いたら素敵なんじゃないか？って思える絵なんです」

子供のような笑顔を浮かべながらそう話す美千穂に、セルゲイは、

「へえ、それは少し興味ありますね。絵本の出版社になら知り合いもいますので、もし良かったら紹介しますよ」

と応えた。

「本当ですか！？」

嬉しそうに声を上げた美千穂の姿はそれこそプレゼントを前にした幼子のようだ。

それも当然かもしれない。

何しろ彼女は、家族の抑圧から開放され、今まさに自分の人生を生き直しているところなのだから。今の彼女は確かに＜幼子＞なのだろう。

セルゲイやミハエルにはそれが分かってしまう。だから微笑ましく見守るだけだ。