密猟者
驚いて動揺しただけなら、そもそも『道に迷った』などと嘘は吐かない。そしてはぐれたのなら、少なくとも何度か声を上げて助けを呼ぼうとするはずだがそれさえなかった。
セルゲイの耳には、おそらく一キロ以上離れているツアー客らの声も届いているにも拘らず助けを呼ぶ声は聞こえなかった。
また、
『遭難した時には騒がずに体力を温存するべき』
などと考えて大声を上げなかったのだとしたら、この闇の中で動き回る方がむしろ体力を消耗するはずだということに考えが至らないのもおかしい。
結論としてはやはり素人の密猟者と考えるのが自然だった。
「ふう……」
セルゲイは腰に手をやり小さく首を横に振りながら、呆れたように溜息を吐いた。
後ろ暗いことを抱えてる人間は基本的に嘘を吐くものなのでそれ自体は別に責めるつもりもないものの、その程度の覚悟でルールを破る浅はかさには呆れるしかできなかった。
「道に迷ったということでしたらそれでも構いません。私が案内しますから戻りましょう」
と提案する彼に、若い男は、
「え…あ、その、大丈夫…です…! 自分で何とかしますから……!」
などと辞退しようとする。それに対してセルゲイは冷静に、
「道が分からないから迷ってるのにですか?」
問い掛ける。
「あ…いえ、それは……!」
あくまで何とかごまかそうとする若い男の態度に、悠里はイラっとさせられた。
すると、ふわりと悠里の頭にセルゲイの手の平がかぶさってくる。
悠里が苛ついているのを察したことで、落ち着かせようとしているのだ。
「悠里。気持ちを穏やかに保つんだ」
ダンピールである悠里にしか届かないような小さな声で、しかし決して命令するような口調ではなく諭してきた。
彼にはそれが一番効果的であることを知っているから。
実際、まるでセルゲイの手の平に吸い取られるかのように苛立ちが消えていく。
子供は、経験が浅く未熟であるが故に感情のコントロールが効かないことが多い。大人はそれに対し、どのようにして自身の感情を抑えるかを具体的に示す必要がある。子供はそうやって自分の感情のコントロールを覚えるのだ。
子供の我流に任せていては上手くいかないのは、この世に溢れる、
<自らの感情を上手くコントロールできない人間>
の多さを見ても分かるのではないだろうか?
些細なことで感情的になって他人を罵るのもそうだし、店員や駅員を怒鳴りつけていたり、煽り運転をするような者は、それこそ自身の感情のコントロールの仕方を教わっていないのではないのか?
もっとも、その親自身が、その方法を教わっていなくて教えられなかったのかもしれないけれど。
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