どちらの役目?

ミハエルもアオも、


『育児はどちらの役目?』


などということは考えない。二人とも、


『自分の役目だ』


と思っている。


なぜならそれを選択したのは自分達だから。


一方的に押し付けていいとはまったく思っていない。


だから素直に、


「ありがとう」


と言える。相手を敬うことができる。


『育児と仕事、どちらが大変?』


そんな話は、相手を敬っていないからできるものだ。あるいは、自分の親を敬っていないから、そんな話ができる。


ミハエルはアオを敬っているし、アオはミハエルを敬っている。だから、『どちらが大変?』などと考えない。


それでも敢えて『どちらが大変?』と問われて応えるなら、


ミハエルは、


「アオの方が大変だよ」


と答えるし、


アオは、


「ミハエルの方が大変だよ」


と答える。


お互いに相手を敬っているから。敬える相手を選んだから。


単にそれだけのこと。


そんな二人に愛されて、悠里ユーリはいつも笑顔だった。イライラしないで済むから普段の素行も穏やかだし。


それでもたまに機嫌が悪い時もないわけじゃないから、そういう時はミハエルが相手をしてくれた。そうすれば万が一力加減を誤ってもダメージはない。


人間でも、赤ん坊に叩かれて怪我をする者はまずいない。ましてや命の危険に曝される者はまずいないし、もしそういう危険がある者であればそもそも前もって対処するべきだろう。


赤ん坊に対して力で対抗しなければいけない理由はない。


それを承知しているミハエルとアオは、悠里に対してただ穏やかに接した。悠里もそんな両親を真似ていた。


アオは言う。


「いやもうホントこうしてると、子供が親を見て学ぶんだって実感しかないよね。


悠里はさ、がっつり私の一挙手一投足を見てるんだよ。どんな時に私がどんな態度で臨んでるか、むっちゃくちゃ見てる。


私がミハエルに対してどんな風に接してるかガン見してるよ。私がミハエルのことをどう思ってるか、悠里にはバレバレだよ。


もし私がミハエルのことをバカにしてたりしたら、悠里もミハエルのことをバカにする気しかしないよ。


逆に、ミハエルが私のことをバカにしてたら、きっと、悠里も私のことを内心じゃバカにするようになるだろうな。


これでなんで、『子供がどんな人間に育つかは親の責任じゃない』って言えるのか、まったく分かんないよ。


大人になってから他人に対してどういう態度で接するようになるか、もうこの段階で決まる気しかしないって。


もしかしたら『赤ん坊なんだからそんなこと分かるわけない』とか思ってるのかもだけど、いやいや、この目をちゃんと見てたらそんなこと言えないよ」


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