互助会

セルゲイの言った<支所>とは、吸血鬼達が人間の社会で生きるために作り上げた<互助会>的な組織の支部を表すもので、吸血鬼達が人間の社会で生きる上で直面する諸問題の解決に具体的に力になってくる存在だった。


自身の情報を他者に明かしたくたくない、正体がバレる危険性がある、などの場合には間に入ってくれたりもする。


その一方で、人間の法律に照らし合わせれば<違法>ともされるような活動も行っているので、決して表には出られないが。


しかし吸血鬼はそもそも<人間としての権利>も持っていないので、これは人間社会と折り合うための止むを得ない対応でもある。


加えて、


『人間社会に与える影響が大きくなりすぎないこと』


『人間の身体生命に回復不能な大きな障害を与えないこと』


という制限も設けられている。


あくまで人間達と折り合うために作られた組織なので、吸血鬼にばかり都合のいいそれではないのだ。


アオの場合は、


『ダンピールを生む可能性がある』


ということで、人間達からは元より、吸血鬼達からも快く思われないという懸念があり、念のため、一切合切を<組織>を通じて行うことにしている。


ミハエルは当初、そこを通じて女性医師の手配を依頼したが、どうしても手の空いてる者に行き当たらなかったので、対応可能な男性医師の中でちょうどミハエルの親戚だったセルゲイに白羽の矢が立ったという経緯である。


ちなみに、アオより先に同様の事例があったのだが、そちらはたまたま女性医師が手配できたことと、出生前診断により胎児が普通の人間であることが確認され、それ以降は人間用の病院で一般的な対応を受けたというのもあった。


アオの場合も、胎児が普通の人間であれば、そうなるはずだったのだが……




「胎児がダンピールである確率、九十六パーセント……だって」


一週間後、<支所>で検査結果を受け取ったミハエルが、家に帰ってアオにそう告げた。


「そっか……じゃあ、そのための準備もしなくちゃね」


さすがに『諸手を挙げて喜ぶ』とはいかなかったものの、最初の覚悟どおり、アオはその事実を受け止めることを決めた。


もちろん不安はある。けれど、それは、たとえ普通の人間の胎児であっても、何らかの形で<不安>というものは付きまとうだろう。だから気にしすぎても詮無い話だと思われる。


必要なのは、現実に則した対応だ。


これにより、今後の検診もセルゲイに頼むことになった。


すでに一度検査を受けてるし、なによりミハエルの親戚ということで安心というのもある。


セルゲイの方も、


「もちろん喜んで協力するよ」


と、


『研究者としてもこの貴重な事例に立ち会えるのは嬉しい』


という本音を抱きつつも、単純に、自分の親戚が増えることを喜び、優先してくれたのだった。


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