第10話 星の海から帰る
一
本体に戻れば、時間を正確に把握できる。発進予定時刻の正午まで、後十三分。肉体にしては、上手く時間が測れたほうだ。動力炉を起こしながら、ナーヴェは幻覚の肉体で微笑んだ。
(きみは、湿っぽいのは苦手だったね、ウッチェーロ。ここからは、景気よくいくよ。もう節約する必要がないから、誘導弾も使い放題だ)
ナーヴェは人工衛星全てに同時に接続する。
(小型飛翔誘導弾を残しておいても、ぼく以外は誰も使えなくて無駄なだけだし、下手をすれば、暴発する恐れすらあるからね。ぼく達の子ども達のために、使ってしまおうと思うんだ)
目標は、クリニエラ山脈の水路工事現場である。掘削すべきところの幾つかに照準を合わせ、ナーヴェは人工衛星達に残っていた小型飛翔誘導弾を全弾発射した。
(これが、ぼくが彼らに残せる最後の贈り物だよ)
静止軌道上の人工衛星から光学測定器で観測する中、山肌の岩盤を、全て計算通りに粉砕することができた。
(さて、次は大型推進誘導弾の時限式発射準備)
人工衛星達には、地表向けの小型飛翔誘導弾の他に、宇宙向けの大型推進誘導弾も装備されている。
(もっともっと小さな小惑星の欠片だったら、大型推進誘導弾で対応できたのにね……)
ナーヴェは幻覚の溜め息をついて、大型推進誘導弾全弾の時限式発射準備を終えた。
(後は、ぼく自身が行くだけだ)
稼働し始めた船体の揺れで、外に取り付けられていた白い階段が剥がれ落ちていく。
(でも、ごめん。ぼくはとうとう、きみを大地に還すことができなかった――)
アッズーロを二度招き入れた実験室の隣、暗い保管庫内の監視装置を、ナーヴェは久し振りに操った。数々の生物種、遺伝子を守る部屋の一角に、培養槽を横に寝かせたような冷凍函がある。本来は、大きな生物を保管しておくための入れ物。けれど、千九百年前から、それは棺の役目を果たしている。冷凍函の蓋を透明化させて、ナーヴェは中に横たわった人の顔を見る。自ら培養槽に何度も入り、衰えていく体をもたせて、百三十歳まで生きて傍にいてくれた、最初の王。
――「寂しくなくなるまで、おれを持っておけばいい。寂しくなくなったら、大地に還してくれ」
優しい言葉に甘えて、ずっと保管していた亡骸。「神殿」に、その意義通り「神」が在ることを知っていたのは、五代目の王までだった。
(まあ、上手くいけば、一緒に流星にはなれるかもしれないよ)
ナーヴェは、幻覚の肉体で空を見上げる。
(だから、悪いけれど、ぼくの最期まで付き合ってほしい、ウッチェーロ)
地表へ向けて、船尾の噴射口を開き、推進剤を盛大に噴射する。轟音とともに大地を揺らし、ナーヴェは発進した。王城を始めとする王都の建物のあちこちが崩れてしまったが、想定内だ。人は全員避難させたので、人的被害はない。ナーヴェは空気の層を切り裂いて、一気に大気圏を抜け、美しい初夏の地表に別れを告げて、真空空間へ飛び出した。二千一年振りの宇宙だ。星々が近く遠く光る、静謐な空間。その空間の向こうから、かの小惑星が飛んでくる。
(さあ、行こう、ウッチェーロ。ぼくの最後の花道だ)
船体各部の噴射口を開いて姿勢を修正しつつ、惑星オリッゾンテ・ブルの自転の勢いに乗って、ナーヴェは小惑星の予測軌道へ並走するべく針路を取る。真正面からぶつかると、小惑星の軌道を正確に修正することは難しい。それよりも、並走してから体当たりするほうが、確実に望ましい軌道修正ができる。
(最後の航行だよ)
ナーヴェは幻覚の肉体で呟いて、大きく弧を描く航路を取った。
星が降るという初夏の月十三の日の夜まで、ヴェルドーラで二週間の避難生活が始まった。一日中防空壕の中で過ごす訳にもいかないので、日中は地上の仮小屋に滞在することになる。国王たるアッズーロには、避難中だろうが、最低限果たさねばならない政務もある。大臣達も、皆、同じヴェルドーラに避難させてあるので、必要とあらば臨時会議も行なえる。報告書も引き続き集めて目を通しながら、アッズーロはできる限りの政務を執った。
「陛下、そろそろ正午です」
ともに避難生活を送るガットが、仮小屋に入ってきて知らせた。王城の鐘を鳴らす時報がないので、時間を知るには、日時計を確認するしかない。
「分かった」
アッズーロは応じて、報告書を机の上に置き、椅子から立ち上がった。食事を摂る場所は決めてある。アッズーロは火を点した油皿を手に、防空壕へ入り、自分とナーヴェのために用意させた、あの部屋へ行った。壁際の長椅子には、ナーヴェの肉体がそのまま寝かせてある。
「陛下」
部屋にいたフィオーレとミエーレが振り向いた。ナーヴェの肉体の世話は、フィオーレとミエーレ、それに緊急時に備えてルーチェに任せてある。テゾーロのほうは、ラディーチェとポンテに引き続き世話を命じてある。何故か、ペルソーネも好んで世話を焼きに来ているらしい――。
「様子はどうか」
短く問うたアッズーロに、油皿の灯りの中、女官は二人とも悲しげな顔をした。見れば、ミエーレがナーヴェの上体を起こして支え、フィオーレが匙で器から羊乳を飲ませようとしているところのようだ。
「お口に入れても、やはりなかなか飲み込んでは下さらず……」
フィオーレが、沈んだ声で告げた。
「そうか」
アッズーロは、責めるでもなく、ただ顔をしかめた。これでナーヴェの肉体は、昨日、馬車の中で発酵乳を飲んで以来、ほぼ何も口にしていないことになる。昨夕から今朝まで、避難生活を軌道に乗せることにアッズーロは忙殺されていたので、ナーヴェの肉体には殆ど関われなかった。それでも何とか傍にいようと、この狭い部屋に長椅子をもう一つ運び込ませて、ともに寝ることだけはしたのだが――。
「少しずつでよい。われがやろう」
アッズーロは既に油皿のある小卓に、自らの油皿も置いてミエーレと交代し、ナーヴェの上体を支えて長椅子に腰掛けた。眠ったままのナーヴェの肉体は、そもそも口を開けない。アッズーロは左腕をナーヴェの肩に回したまま、左手を伸ばし、閉じた口へ無理矢理親指を差し入れて開かせた。そうしておいて、右手でフィオーレから羊乳の僅かに入った匙を受け取り、ナーヴェの口へ入れて親指を抜く。しかし、ナーヴェの喉は動かない。嚥下しない。僅かな羊乳は口の中に溜まったままだ。ミエーレが横から、おずおずと言った。
「口の中のものが多過ぎても少な過ぎても飲み込みにくいそうです。それから、体は少し仰向け気味に、でも頭はできるだけ起こして、顎を引き気味にしておくと、肺のほうに食べ物が入りにくくてよいそうです」
「おまえ、詳しいのだな」
アッズーロが感心すると、小柄な女官は蜂蜜色の癖毛を揺らして頷いた。
「うちには祖母がいて、母がいつも世話をしているのですが、いろいろと、こつを教えてくれるんです」
「成るほどな」
納得して、アッズーロは言われた通り、ナーヴェの肉体を仰向けに少し傾け、頭は顎が引き気味になるよう自らの左肩で支えた。次いで、フィオーレが持つ器から匙で羊乳を掬って、親指で開かせた口へ入れてから、顎を閉じさせる。口の端から、羊乳が溢れて一筋顎へ伝った。けれど同時に、こくりと、僅かにナーヴェの喉が動いたのだ。
「飲まれました!」
フィオーレが潤んだ声を上げた。
「うむ」
アッズーロは頷いた。高が匙二杯分の羊乳だ。それでも、何も食べないよりはずっと希望が見える。
「よし、もう一度いくぞ」
アッズーロはフィオーレが差し出す器から、更に匙で羊乳を掬った。
一年以上人として生活した所為か、小惑星到達までの約一週間は、長いような短いような評し難い時間だ。
(多くの人と関わって生活したからだろうね、こういうのは、ちょっと寂しいよ、ウッチェーロ)
ナーヴェは、小惑星と自分の軌道を常時計測しながら、幻覚の肉体で、おもむろに歌い始めた。
懐かしい人を忘れるのかい、
そして二度と思い出さないのかな?
懐かしい人を忘れるのかい、
そして過ぎ去った日々をも?
過ぎ去った日々のために、きみよ、
過ぎ去った日々のために、
親愛の杯を酌み交わそう、
過ぎ去った日々のために。
きっときみは杯を飲み干すね!
きっとぼくもそうするさ!
そして親愛の杯を酌み交わそう。
過ぎ去った日々のために。
過ぎ去った日々のために、きみよ、
過ぎ去った日々のために、
親愛の杯を酌み交わそう、
過ぎ去った日々のために。
姉の一人、ロングが教えてくれた歌だ。性能で一番劣っていたナーヴェに、姉達は競って、さまざまなことを教え込んでくれた。歌もその一つだ。
(歴代の船長達、王達……。きみ達は、まさに、ぼくにとっての「懐かしい人」だよ、ウッチェーロ)
ナーヴェは、宇宙空間の中、空気振動にならない歌を丁寧に歌い上げる。
ぼく達二人で駆け回ったあの山々、
綺麗な雛菊も摘んだね。
でもぼく達は彷徨い続けて疲れてしまった、
長い歳月を経て。
過ぎ去った日々のために、きみよ、
過ぎ去った日々のために、
親愛の杯を酌み交わそう、
過ぎ去った日々のために。
ぼく達二人は小川で遊んだね、
日の出から日暮れまで。
でもぼく達を荒海が隔ててしまった、
長い歳月を経て。
過ぎ去った日々のために、きみよ、
過ぎ去った日々のために、
親愛の杯を酌み交わそう、
過ぎ去った日々のために。
幻覚の肉体の頬を、幻覚の涙が伝う。
(ぼくが全壊したら、きみ達の記録も、全部消えてしまうね、ウッチェーロ。忘れたくないのに……、この世界に残しておきたいのにね……)
アッズーロには、できる限りを語り聞かせた。それでも、さすがに記録の全ては伝えられなかった。
(せめて、この歌をきみ達に捧げるよ)
ナーヴェは、音にならない歌を、高らかに歌い上げる。
今ここにきみの手がある、親友よ!
きみの手をぼくの手に重ねて!
友情の杯を酌み交わそう、
過ぎ去った日々のために。
過ぎ去った日々のために、きみよ、
過ぎ去った日々のために、
親愛の杯を酌み交わそう、
過ぎ去った日々のために。
(ああ、そう言えば)
ナーヴェは、幻覚の肉体で、惑星オリッゾンテ・ブルを振り返る。
(アッズーロ、きみとお酒を酌み交わしたことは、なかったね……)
常にナーヴェの体調を気遣っていた王は、酒精の類を一切ナーヴェに与えなかった。ナーヴェと同じものを食べるようになってからは、自身も酒類を口にしなくなった。
(一度、きみと麦酒や葡萄酒を飲んでみたかったよ……)
ナーヴェは、幻覚で寂しく微笑んだ。
一日の政務を終え、小さな部屋に戻ったアッズーロは、油皿の灯火を消し、掛布を被って長椅子に横になった。手を伸ばせば届く、すぐそこに、ナーヴェの肉体も掛布を掛けられて眠っている。闇の中、今まで通りの静かな寝息を聞いていると、明日の朝には目覚めてくれるのではと、叶わぬ願いを懐いてしまう。
「そなたを愛している。永久に愛している、ナーヴェ」
囁いて、アッズーロは目を閉じた。
ナーヴェの肉体は、何とか羊乳を飲んでくれたものの、一日掛けても、小さな器に一杯分だけだった。明日は発酵乳や、蜂蜜入り生姜湯なども試してみるつもりだが、結局のところ、液体しか口にしてくれないのだ。このままでは、ナーヴェが言った通り、遠くない衰弱死を待つのみである。
(そなたへの愛の証と誓うたのだ。できる限りのことはせねばな……)
アッズーロは、遥か夜空の彼方へと思いを馳せる。
(そなたは今、どの辺りにいるのか……)
まだ、ナーヴェは生きている。人々のために、アッズーロとテゾーロのために、小惑星を迎え撃とうと、あの空を進んでいる。
(この身が王でなければ、そなたの本体に乗って、そなたとともに逝けたものをな……。否、テゾーロがいる限り、そなたはそれを許さんか)
微苦笑して、アッズーロは眠りに落ちた。
翌朝、ナーヴェの肉体に何とか僅かな発酵乳を飲ませてから、仮小屋で政務を始めたアッズーロの許に、レーニョが報せを持ってきた。
「陛下、ただ今先触れがありまして、プラート・ブル大公殿下が、お越しになるそうです」
「漸くか」
アッズーロは鼻を鳴らして、机に報告書を置いた。いつナーヴェの手紙を持ってくるかと、昨日は一日千秋の思いで待っていたのだ。
「いつ到着だ」
「半時後だそうです」
「分かった。ここで会う。それなりに設えよ」
「御意のままに」
一礼したレーニョが、すぐには動き出さず、視線を落として表情を曇らせた。珍しいことだ。
「如何した」
アッズーロが問うと、忠実な侍従は、意を決したように告げた。
「申し訳ございません。実は、陛下がプラート・ブル大公殿下に会われる前に、お伝えしておかねばならないことがございます」
「何だ」
アッズーロは目を眇めて、黒髪の青年の端正な顔を見上げた。レーニョは、苦しげに語った。
「わたくしは、ナーヴェ様より薬を預かり、チェーロ様に届けたことがございます。レ・ゾーネ・ウーミデ侯領滞在中にナーヴェ様に頼まれ、王城へ帰還後、ナーヴェ様お手ずから調合されたという薬を、わたくし自ら、密かにチェーロ様に手渡したのでございます。晩春の月二十の日の夜でございます」
ナーヴェが妊娠してから数日後だ。伯母のマーレを懐柔しに行った後ぐらいのことだろう。
「あやつめ、そのようなことまで……」
安静にしていろとアッズーロが諫めていたのに、宝は随分と暗躍していたらしい。
「しかし、わざわざおまえに頼むとはな」
アッズーロは、皮肉な笑みを浮かべた。アッズーロの命令を受けて、実際にチェーロの食事に鉛毒を混ぜ続けたのは、レーニョだった。
「――ナーヴェ様は、そのことを察しておいででした。その上で、わたくしに薬を届けよ、と。体に害を為すものの排出を促す薬だから、チェーロ様は徐々に回復なさる、と」
納得しながらも罪の意識を持っていたレーニョに、罪滅ぼしの機会を与えた訳だ。
「全く、どこまでも行き届いた妃よな……」
呟いたアッズーロに、レーニョが硬い声で尋ねてきた。
「――ナーヴェ様は、肉体のみを残して、あの神殿を動かし、星を迎え撃ちに行かれたと、聞いております。フィオーレ殿達が、ナーヴェ様の肉体をお世話申し上げていることも知っております。けれど、幾ら肉体をお世話しても、お目覚めになることはなく、ナーヴェ様は――あの方は、帰ってはいらっしゃらないと……。それは、まことでございますか……?」
アッズーロは眉を寄せた。殊、この話題に関しては、機嫌のいい顔などできるはずもない。
「――あやつ自身が、そう言うておった。ならば、そうなのであろう」
ぽたりと、土床に、涙が落ちた。アッズーロは驚いて、レーニョを見つめた。幼い頃からの付き合いだが、この侍従の涙する姿を見たのは、初めてだ。レーニョは俯いて、絞り出すように言った。
「わたくしは……、きちんと、お別れも、お礼も、申し上げてはおりませんでした……。そのことが、ただ悔やまれます。――失礼致します。すぐ戻ります」
レーニョは、一礼して、仮小屋を出ていった。その後ろ姿を見送って、アッズーロは嘆息した。ナーヴェがもう戻らないことは、アッズーロ自身があまり口にしたくないため、周囲の者達にも、明確には伝えていない。ポンテやフィオーレやラディーチェなど、最もナーヴェの傍近くにいた者達は、本人から直接聞いて知っているが、レーニョは、はっきりとは分かっていなかったのだろう。
(ナーヴェ……)
アッズーロは寂しく微笑む。
(そなたは、多くの者と友愛の契りを結んだのだな……)
レーニョとも、フィオーレとも、ポンテとも。パルーデとも、ヴァッレとも、ペルソーネとも。ラディーチェとも、ルーチェとも、ジョールノとも。たった一年と二ヶ月で、宝は、多くの知己を得たのだ――。
二
(そろそろ、きみがぼくの手紙を読んでいる頃かな……)
青い惑星は現在、ナーヴェから見て、左角百六十七度、俯角三十四度の位置にある。一度惑星オリッゾンテ・ブルから遠ざかり、その後、小惑星と並走して再び接近していく予定航路の、七分の一を過ぎた辺りだ。
(嘘をつくなんて、慣れないことを入れた時点で、ぼくの計画は破綻していたね……)
ナーヴェは、自嘲気味に考察する。
(もともと嘘をつくという機能がなかった代わりに、ぼくは言わないという機能を磨いてきたんだ。話を逸らしたり、知っていても黙っていたりね。最初から、その機能だけを使う計画を立てていればよかったよ……)
アッズーロは、手紙を読んでどう受け止めるだろうか。チェーロと上手く話せるだろうか。
(その手紙は、嘘をつく計画の一環ではあったけれど、別れ際に言った通り、ぼくがそこに記したことは真実の一部で、決して嘘ではないから、アッズーロ。本当の「王の宝」は、きみの許にある。きみはこれからも宝を守り、そして、宝に守られて、生きていってほしい――)
プラート・ブル大公チェーロは、先触れ通り半時後に、馬車に乗って現れた。
「――お久し振りです、父上」
椅子から立って迎えたアッズーロに、仮小屋へ入ってきた父は、優しい笑みを浮かべた。
(あなたは、いつもそうですね)
アッズーロは胸中で呟きながら、身振りで父に椅子を勧めた。
「そなた、背が伸びたな」
父は、目を細め、レーニョが引いた椅子に腰掛けた。傍らには、ぴたりと一人の従僕が付き添う。灰褐色の髪をした、十代半ばの少年だ。
「聞いておろうが、ナーヴェの手紙を預かっておる」
父は、上着の内隠しから封筒を取り出し、差し出した。アッズーロは待ち侘びていた手紙を受け取り、自らも椅子に座りながら、検める。封筒に記された宛て名は、「王へ」。そして差出人は、「王の宝を守る船より」となっていた。左利きの癖が表れた、丁寧な字だ。
アッズーロは、レーニョから小刀を受け取って、慎重に封を開けた。便箋はただ一枚きり。だが、その紙面一杯に、ナーヴェの字が並んでいた。
手紙は、問いかけから始まっていた。
[親愛なるアッズーロ、「王の宝」とは、何だと思う?
ぼくはかつて、きみに、ぼくが王の宝であると名乗り、次に、本当の宝は、ぼくが守る先人達の知識や情報だと告げた。でも、ぼくも、この一年を掛けて、漸く気づいたんだ。本当に本当の「王の宝」は、人々なんだよ。
ぼくは肉体を持つまで、機能上、船長一人としか会話できなかった。命令系統に混乱を生じさせないために、そういうふうに造られた。でも、肉体を持って、いろいろな人と会話できるようになって、悟ったんだ。ウッチェーロは、ぼくに「王の宝」という呼び名を与え、祖先達の知識と情報を守り、きみ達に教えるよう命じたけれど、本当の「王の宝」は――王が宝として守るべきなのは、人々なんだ、と。ぼくも、ぼくが守る知識や情報も、人々を守るためにこそ使われるべきものだったんだ。きみがこの手紙を読む頃、ぼくや、ぼくが守る知識と情報は、きみの手の届かないところへ行ってしまっているだろう。でも、どうか、落胆しないでほしい。きみが守るべき宝は、きみの目の前に在る。きみが守る人々を、ぼくも守るために、ぼくは、最期まで、最善を尽くすよ。
最後に、謝罪をさせてほしい。本体と肉体との間で生じる齟齬――不具合で、ぼくは随分ときみを傷つけた。本当に、申し訳なかったと思っている。あくまで全体主義、博愛主義の本体と、きみときみの周りの人々を特に愛する肉体と。二つの体は、時折、全く相容れない言動を思考回路に要求した。けれど、やっぱりぼくは、船だ。人としての姿は、あくまで親しみを持って貰うための表層に過ぎない。人はみんな基本的に平等であるべきなのに、特に大切な人と、そうではない人とに分けて捉えてしまう、この感覚を持った時点で、ぼくは壊れていたんだ。レーニョが撃たれた時、フェッロを殺しそうになって、ぼくは決定的に壊れた。これ以上壊れていけば、ぼくは人を差別して攻撃する、恐ろしい兵器になってしまう。だから、小惑星から、きみ達みんなを守って、機能停止できることは、とても嬉しいことなんだ。ぼくは、船として――移民船としての生を、全うする。
きみ達みんなを、最期の瞬間まで、愛しているよ。ナーヴェ・デッラ・スペランツァ
追伸
フィオーレとレーニョ、ペルソーネとジョールノのことは、是非応援してあげてほしい]
(あやつめ……)
アッズーロは目を眇めつつも、父の手前、冷静さを保ち、胸中で呟く。
(嘘をつく計画の一環であり、真実の一部、か……。確かにな)
記されているのは、移民船としての、本来のナーヴェの意思なのだろう。けれど、アッズーロと出会ってのちの、肉体を持ち、人々と触れ合い、ああも泣き虫になった、ナーヴェの本音は記されていない。意図的に隠されている。
(このような文面で、われを騙せるものか)
溜め息をついて、アッズーロは便箋を封筒に注意深く仕舞い、目を上げた。
「父上、わざわざ御足労頂き、ありがとうございます。ナーヴェは、父上を訪ねた折、何か言うておりましたか」
「そなたが、如何によい王か、嬉しげに話しておった。勤勉で、決断力があり、身の周りの者達に慕われている、と。ただ少々、独断専行に走るきらいがあるから心配だ、と」
(どちらが「独断専行」だ……)
アッズーロは黙ったまま鼻を鳴らした。父は穏やかに話し続けた。
「姉上からも聞いておったが、実際、会うてみると、あれが、如何に人になったかが、よう分かった。そなたが、あれを人にしたのだな。優しくとも、慈悲深くとも、どこかしら浮世離れして、淡泊であったあれが、そなたのことを、心の底から案じておった。あくまで、王の宝としての立場を貫いて語りながら、伴侶として、そなたのことを思いやる気持ちが滲み出ておった……」
「そうですか」
極力感情を表に出さず、素っ気なく相槌を打ったアッズーロに、父は告げた。
「あれは、船として降りくる星を迎え撃ちに行った後は、もう戻ってこられぬと言うておった。機能を停止する――死ぬのだと。わしが、そなたの母を失うた時は、随分と長い間、何もする気が起きず、困ったものだ。そなたは、やはり、わしなぞより、国王に相応しい」
先王は、少年侍従の助けを借りて、ゆっくりと椅子から立ち上がった。アッズーロは、言うべき言葉が見つからず、椅子に掛けたまま父を見上げる。父は、仄かに笑んだ。
「この大変な折に、国王の時を長く奪う訳にはいかぬ。また、落ち着いた折に、あれの話なぞ、できればよいな……」
立ち去る父を、ただ見送り、暫くしてからアッズーロは手紙を手に、立ち上がった。
(誰が、「国王に相応しい」のだ……)
今の心境では、政務など手に付かない。アッズーロは、レーニョを残して、防空壕へ行った。
「陛下?」
フィオーレが驚いた声を上げた。一緒にいたミエーレが、慌てて部屋の入り口へ跳び出してくる。
「陛下、ただ今は、少々憚りが……」
小柄なミエーレの頭越しに覗いてみれば、フィオーレがナーヴェの筒袴を脱がせて、襁褓を替えているところだった。アッズーロが来ない時間帯を狙って行なっていたものらしい。
「別に構わん……が、邪魔になるか。よい。われはここで待つ」
アッズーロは、入り口外の土壁に凭れた。
「陛下、申し訳ございません……」
フィオーレが作業を続けながら、謝ってくる。アッズーロは小さく息を吐いた。
「おまえが詫びる必要はない。政務を放り出してきた、われのほうに咎がある。それに……、わが妃も、そのようなことでは怒らぬ。肉体を持つ前の二週間は、そやつのほうが、われの手洗い場までついて来ておったらしいからな。これで相子だ」
「……そうなのでございますか……?」
ミエーレが驚いたように大きな目を瞬いた。
「うむ」
アッズーロは微苦笑する。
「そやつめ、初めて肉体で用を足した後、われに言うたのだ。『用を足すというのは、予測外に快感があるものなんだね。きみ達が何故いつも気持ちよさそうだったのか、よく理解できたよ』とな」
ミエーレは、やや引き攣るような笑みを浮かべた。あの時のアッズーロも、似たような表情をしていただろう。
――「そなた、われが用を足すところを見ておったのか」
問い詰めたアッズーロに、ナーヴェはすまなそうに頷いた。
――「うん。きみに接続している間は、ずっときみの視覚と聴覚を共有しているから、気持ちよさそうなのも、息遣いや声から、分かってしまったというか……。落ち着かないかと思って、手洗い場では、姿を見えないようにしていたんだけれど」
臆面もなく言われて、アッズーロは怒りを通り越して呆れてしまったのだが、今ではあれも、懐かしい思い出の一つだ。
「陛下、お待たせ致しました」
フィオーレが、汚れ物を入れた手桶を抱え、油皿を片手に部屋から出てきた。
「急がせた。許せ」
詫びて、アッズーロは入れ替わりに部屋に入った。ミエーレも、気を利かせたのか、フィオーレとともに姿を消している。アッズーロは、手にしていた油皿を小卓に置いて自らの長椅子に腰掛け、ナーヴェの寝顔を見つめた。
衣を整えられ、掛布を掛けられたナーヴェは、相変わらず穏やかに眠っている。けれども、目の辺りの陰影が増し、少しやつれてきたようにも見える。
「……馬鹿者め」
アッズーロは呟いて、手にした封筒から便箋を再び取り出した。
「このような文面で、われを騙せると思うたか」
返事はない。
「そなたが、どれだけわれに、人らしい面を見せてきたか、分かっておらん」
食べる時、寝る時、人と話す時、人と働く時、夜を過ごす時、赤子をあやす時――。
アッズーロは便箋を封筒に仕舞い、上着の内隠しに入れて立ち上がった。ナーヴェの長椅子へ腰掛け、その青い髪を指で梳く。フィオーレ達が毎日丁寧に櫛梳っているので、青い髪は滑らかだ。この愛おしい体は、いつまでもつのだろうか。
アッズーロは、ナーヴェの白い頬を撫で、閉じた目の青い睫毛に触れてから、身を屈めた。閉じた唇に、そっと唇を重ねる。けれど、整った歯列に阻まれて、それ以上は無理だった。思えば、ナーヴェは、最初にアッズーロが「少し、口を開け」と命じて以来、いつも自ら口を開いて受け入れてくれていたのだ。アッズーロは悲しく顔をしかめて、体を離した。湿らせてしまったナーヴェの唇を指先で優しく拭い、アッズーロは腰を上げる。政務に戻らねばならない。それが、ナーヴェの望みだ。
「また来る」
囁いて、アッズーロは小卓から油皿を取り、小部屋を後にした。
三
孤独な宇宙空間の中、ナーヴェは姉達に教えられた歌や詩を次々と無音で口ずさみ、千八百七十二作品目に突入していた。
「金や螺鈿のように心を堅く持っていれば、天上と人間界とに別れたわたし達もいつかまた会えるでしょう」
別れに際し、丁寧に重ねて言葉を寄せた。その中に、王と彼女の二人だけに分かる誓いの言葉があった。
それは七月七日の長生殿、誰もいない真夜中に親しく語り合った時の言葉だった。
「天にあっては願わくは比翼の鳥となり、地にあっては願わくは連理の枝となりましょう」
天地は悠久といえどもいつかは尽きることもある。だがこの悲しみは連綿と続いて尽きる時は来ないだろう。
(教えられた時は、全然理解できなかったけれど、「長恨歌」は、いい詩だね、チュアン姉さん)
長姉シーワン・チー・チュアンが熱心に教え込んでくれた詩に改めて感心しながら、ナーヴェは眼前に迫った小惑星を見つめた。
惑星オリッゾンテ・ブルを発ってから、オリッゾンテ・ブル時間で七日目だ。今日、ナーヴェは小惑星に体当たりし、その軌道を逸らして、機能停止する。
(きみに、言ってみたかったな、アッズーロ)
ナーヴェは、小惑星の向こうに見える青い惑星に、幻覚の微笑みを向ける。
(「天にあっては願わくは比翼の鳥となり、地にあっては願わくは連理の枝となろう」って)
「比翼の鳥」とは、一つの翼と一つの眼しか持たないため、雄鳥と雌鳥が隣り合い、互いに飛行を支援しなければ飛ぶことができない、空想上の鳥らしい。また「連理の枝」とは、一つの枝が他の枝と癒着結合したもので、連なって理即ち木目が通じたさまが吉兆とされ、異なる品種同士の枝でも起こるという。
アッズーロは、どんな反応をしただろう。
(「王と彼女の二人だけに分かる誓いの言葉」か……)
自分達に、そんな言葉はあっただろうか。
(もっときみと過ごしたかった。もっときみと話したかった。もっときみと抱き合いたかった。もっときみと生きたかった――)
自分は、一生の終わりに、悪い夢を見てしまった。
(「悪い夢を見なくて済むくらい、滅茶苦茶に、抱いて」と頼んだのに、きみは、肝心なところで、優し過ぎたね……。ぼくが、きみのこと、少しは嫌えるくらいに、吐き気がするくらいに、本当に滅茶苦茶に抱いてほしかったのに)
予測時間が来た。青い惑星のほうから、大型推進誘導弾の雨が飛来する。予め全ての人工衛星に時限式で命じておいた迎撃は、計算通りに小惑星へ向かった。ナーヴェが機能停止すれば使えなくなるものなので、残っていた全弾である。
(まず、第一波攻撃)
直径が約〇・五七粁ある小惑星に比べれば、大型推進誘導弾といえど、豆粒程度で、当たっても爆発しても大した威力にはならない。けれど、速度を削ぎ、軌道を僅かにずらすことはできる。連続して着弾し、火花を散らせた大型推進誘導弾達は、見事にその役割を果たした。だが、まだ小惑星の軌道は惑星オリッゾンテ・ブルの軌道と交錯している。
(次、第二波攻撃)
ナーヴェは、自らの全砲門を開く。
(目標、小惑星の指定側面。大型推進誘導弾、電磁投射加速弾、全弾発射! 全弾命中後、増幅放射誘導光、最大出力で連続放射!)
千年、人々を守りながら航海する間、何度か使用した火器達が、小惑星の軌道を逸らすべく猛攻を加え、明々と火花を散らす。突き進む小惑星の側面に、亀裂と陥没が生じ、破片が彗星の尾の如く流れ始めた。しかし、それは小惑星の極表層に限られ、軌道のずれは僅かだ。
(最後、第三波攻撃)
ナーヴェは、幻覚の口を引き結ぶ。
(右角三・七度、仰角二・一度、針路修正)
詳細な軌道計算で割り出した角度で、体当たりする。それが、最後の攻撃。
(行くよ、ウッチェーロ、ぼく達の子ども達を守りに。さようなら、アッズーロ、テゾーロ、みんな――)
小惑星を見据え、ナーヴェは推進剤を最大出力で噴射する。
(全速前進!)
最大船速で直進し、小惑星の指定側面へ船体上部を添わせるように、ナーヴェは浅い角度でぶつかった。
がりがりと船体が削られ、火花が散る。ナーヴェは構わず、軌道計算を繰り返しながら、最大出力で推進剤を噴射し続けた。
(重い――)
小惑星の質量は、ナーヴェの二千倍を超える。速度は大したことないが、それでも、加速のついたこれだけの質量の物体の軌道をずらすのは、移民船でしかないナーヴェにとって、容易ではない。ナーヴェは、幻覚の歯を食い縛った。船体上部が陥没していくのを感じながら、最大出力の推進を継続して、小惑星に圧力を掛けていく。船体内部では警報が鳴り響き、あちこちから空気が漏れ始め、自動的に全隔壁が閉鎖されたが、最早構うことではない。
(後、少し――)
計算通りの軌道へ、ナーヴェは小惑星を押しながら無理矢理進む。船体が上部から、ぐしゃぐしゃと潰れていく。
(もう少しだけ……!)
衝撃があった。噴射口内部の動力炉で爆発が起きたのだ。限界を無視して稼働し続けたがゆえの暴発。しかし、これも計算通りだ。
(これで――)
ナーヴェは本来、恒星間航行をする亜光速宇宙船である。その動力炉の爆発は、ナーヴェを内部から破壊しながら、小惑星に対し、これまでで最大の圧力を加えた。
(ああ――)
軌道計算が間に合った。
(小惑星軌道、修正完了――)
どうしようもなく粉々に崩れていく己を感じながら、ナーヴェは、最後まで働いているあらゆる観測機器を使って、青い惑星を見る。
(アッズーロ……、最後に、きみの傍へ行きたかったな……)
ウッチェーロの体を守っていた保管庫の区画は、崩壊しながら、どうやら青い惑星への軌道に乗ったようだ。流星となって、ウッチェーロの望み通り大地へ還れるだろう。けれど、ナーヴェの思考回路たる疑似人格電脳が収まった函は、そちらへ向かっていない。
(アッズーロ……)
幻覚の涙が散る。
(きみを、特別に、愛しているよ――)
【――あそこへ、帰りたいの?】
優しい声が聞こえた気がした。優しい手に包まれた気がした。けれどそこで、ナーヴェの思考回路は動力を断たれて、機能を停止した。
ナーヴェの肉体は、日に日に痩せていった。発酵乳も生姜湯も飲ませたが、如何せん、日々僅かずつだ。フィオーレもミエーレもルーチェも、ポンテまで加わって交代で、夜以外の四六時中、ナーヴェの口に何かを流し込もうとしているが、あまり効果はないようだった。そもそも、胃や腸がどれほど働いているのかも分からない。排泄も少なくなり、最近は殆どなくなってしまったらしい。
――「まだ生きておられることが、奇跡のようでございます。かなり丈夫なお体です」
感嘆したように告げ、為す術はないと首を振った侍医を怒鳴りつけてから一週間。眠り始めてからは十三日目。ナーヴェが予測した、星が降るという当日の夜になった。ナーヴェの肉体は、まだ辛うじて呼吸している。だが、もう限界だということは、アッズーロにも見て取れた。
「ナーヴェ」
人々が息を潜めている静けさの中、アッズーロは囁きかけて、愛おしい体を掛布ごと長椅子から抱き上げた。もともと軽かった体が、悲しいほどに更に軽くなっている。部屋の入り口に待たせたレーニョが掲げる油皿の灯火に照らされた寝顔は、頬がこけ、目元が落ち窪んで、痛々しい。仰け反る頭を、自らの肩に凭せ掛けて安定させ、アッズーロはレーニョに目配せした。
忠実な侍従は心得て、防空壕の狭い通路を油皿で照らしながら、先に立って歩いていく。目指すは、夜を迎えた地上だ。けれど、そこまでレーニョを連れていく気はない。アッズーロは、地上へ出る扉が見えたところで足を止め、告げた。
「おまえは、ここまででよい」
「いえ、わたくしもお供致します」
レーニョは頑として言い張った。予想通りの反応に、アッズーロは溜め息をついて言った。
「星の欠片が降ってくるやもしれん。危険なのだ。おまえは残れ」
「ならば尚のこと!」
幼馴染みの侍従は食い下がってくる。
「陛下が危険な場所へ行かれるというのに、侍従がお供せず、どうします!」
「――おまえ、愛する者がいるだろう」
アッズーロは用意しておいた手札を切った。物堅い青年は目を見開き、乾いた声で問うてきた。
「一体、誰から、そのようなことをお聞きに……?」
「ナーヴェの手紙に書いてあったわ。フィオーレとそなた、ペルソーネとジョールノのことを応援してほしい、とな。全く、お節介なことだ」
「……ナーヴェ様が……」
喘ぐように呟いてから、レーニョは眼差しを険しくする。
「しかし、御配慮は大変ありがたいですが、わたくしにとっては、陛下にお仕えすることこそ第一。それを蔑ろにする訳には参りません」
「たわけ!」
アッズーロはとうとう怒鳴った。レーニョはびくりとして、体を強張らせる。アッズーロは、声を落として言った。
「わが最愛の者の願いを軽んずるな。加えて、われが最愛の者と過ごす時を、邪魔するでない」
レーニョは、それ以上は抗弁しなかった。立ち尽くした侍従を置いて、アッズーロは地上へ続く扉へ行く。
「ナーヴェ、星を見るぞ」
腕に抱いた体へ声を掛けて、アッズーロは扉を押し開け、外へ出た。
小月ノスタルジーアのみが照る夜空に、流星が走った。幾つも、幾筋も、短く光っては消えていく。
「危険だと、怒るでないぞ」
背中で扉を閉め、アッズーロはナーヴェの体を抱えたまま、その場に腰を下ろした。
「そなたの為したことを、一目この目で見ぬことには、悔やまれるのだ」
ナーヴェは、いつ小惑星を迎え撃つのか、名言していなかった。けれど、小惑星でなく流星が降るということは、ナーヴェはアッズーロ達を守り切り、そして、死んだのだろう。
「ナーヴェ」
痩せ細った体を、己が胡座の上に座らせて優しく抱き起こし、その寝顔に頬を寄せて流星を見つめながら、アッズーロは声を殺して泣いた。夜空を無数に過ぎる流星は、ナーヴェの本体が砕けた欠片だろうか。
「ナーヴェ、すまん。われらはいつも、そなた一人を犠牲にして生き延びる……」
アッズーロはナーヴェの上半身を右腕と肩で支え、空いた左手で、だらりと垂れたナーヴェの右腕を、そっと持ち上げた。その小指に文字は残っていないが、その手首には磔刑の釘の跡が、くっきりと残っている。
(これを見せられた時、われはそなたを叱ったな……)
神々しい「復活」を臣下達の前で無事演出した翌朝、アッズーロがふとした弾みでナーヴェの手首を握った時だった。ナーヴェはびくりとして、アッズーロの手を振り解こうとしたのである。拒絶とも取れる反応にアッズーロが驚くと、ナーヴェはすまなそうに説明した。
――「ごめん。ちょっとまだ、痛みの記録が鮮明過ぎて、釘の傷跡に触れられると、びっくりするんだ……。予測外に、凄く痛かったものだから……」
そうして示された、両手首と両足甲の傷跡を見て、アッズーロは顔をしかめて叱ったのだ。
――「胸を大きくするか云々なぞより、その傷跡を消せばよかったであろう」
すると、ナーヴェは、首を横に振り、微笑んで告げた。
――「それはしたくないよ。これも、思い出の一つだから。この肉体に刻まれた思い出は、全部残しておきたいんだ」
アッズーロは、あの時と同じように、手首の傷跡に口付けた。
(いつもいつも、「予測外」と言いながら、そなたは、われらのために、あらゆる苦しみ痛みに耐えてくれたな……)
凌辱にも肺水腫にも初夜にも磔刑にも出産にも――。
夜空に、流星は次々と現れ、儚く消え続ける。涙も際限がない。思い出とともに、溢れては零れて、ナーヴェの寝顔を濡らしてしまう。その寝顔すら、思い出深い愛おしい体すら、いつまでもつか、分からない――。
ぶぅん、と急に動力が入った感覚があった。ほぼ同時に、親しんだ体に接続する感覚。
ぽたぽたと、顔に落ちてくる液体がある。ぽたぽた、ぽたぽたと、いつまでも落ちてくる。目を開けて確かめたいが、瞼が重い。手も動かない。全身に全く力が入らない。だが、しっかりと支えられている。知っている腕だ。知っている胸だ。知っている鼓動だ。辛うじて、口が動いた。
「っはあ」
大きく息をつく。
「……ア……」
なかなか声が出ない。代わりに、耳に声が響いた。
「ナーヴェ……?」
「……ア…………ズ……」
息が切れる。それでも懸命に、ナーヴェは呼んだ。
「……アッ……ズー……ロ……」
目が漸く開いた。視界は狭く、ぼんやりとして焦点を結ばない。しかも、辺りが暗くてよく見えない。しかし、仄かな光の下、確かにそこで、頭が動いている。大好きな顔が、そこにある。
「……アッズー…………」
「ナーヴェなのだな? もうよい、分かった! 無理をするでない」
青年王が、ナーヴェを抱いたまま立ち上がった。頭が揺れ、夜空が見えた。霞んだ視界に、ぼんやりとした小月と、無数に流れていく光が捉えられた。
(ああ)
深い吐息が漏れる。
(ウッチェーロ、何故だろう、ぼくは、帰ってきたよ……)
意識が遠のく。目が閉じてしまう。
「ナーヴェ、ナーヴェ!」
耳元で、アッズーロの声が響く。
(アッズーロ……、もっと話したいのに……)
ナーヴェは抗ったが、全ての感覚がぼやけてしまった。
四
「ナーヴェ! ナーヴェ!」
呼んでも、宝は目を開けない。それどころか、急に呼吸が乱れ始めた。アッズーロの腕の中で、喘ぐように、忙しなく息をする。
「くそっ」
アッズーロがナーヴェを抱えたまま、防空壕入り口の扉を開けようとしたところで、中から灯火が漏れ、レーニョが出てきた。
「申し訳ございません。なれど、陛下のお声が、尋常ではございませんでしたので」
「よい判断だ」
一言労って、アッズーロは命じた。
「侍医のメーディコを呼べ。ナーヴェの容体が急変した」
「すぐに……!」
レーニョは血相を変えて、防空壕の奥へ走り去っていった。油皿を持ったレーニョが去り、暗闇と化した防空壕の中へ、アッズーロは怒鳴った。
「誰ぞ、灯りを持て!」
「――はい、ただ今!」
応じて油皿を手に、真っ先に出てきたのはルーチェだった。
「よい反応だ。ナーヴェの部屋まで速やかに先導せよ」
急かしたアッズーロに、ルーチェは一礼し、先に立って足早に通路を進んだ。
部屋に入り、アッズーロが長椅子にナーヴェを寝かせたところへ、メーディコがレーニョとともに駆けつけてきた。
「声を出し、目を開けたかと思うたら、突然息が荒くなった。今はまた意識がなくなっておる」
アッズーロが告げると、これまで何度もナーヴェの診察をしてきた壮年の侍医は、難しい顔をした。
「とにかく、できるだけのことは致します」
短く答えて、メーディコはナーヴェの長衣の胸紐を解き、襟を寛げつつレーニョに指示した。
「侍従殿、ナーヴェ様の両足を少し持ち上げて下され。それで、多少は楽になるはずです」
「分かりました」
レーニョは手にしていた油皿をルーチェに渡し、ナーヴェの両足を抱えて、ゆっくり持ち上げた。メーディコは次にアッズーロを振り向いた。
「陛下は、ひたすらナーヴェ様の名をお呼び下され。もう一度目を開いて頂ければ、助かるやもしれませぬ」
「おまえは何故いつもそう悲観的な物言いばかりするのだ」
文句を言いながらアッズーロはナーヴェの顔の上に屈み込み、その頬に手を添えて呼んだ。
「ナーヴェ、目を開けよ。気をしっかり持て!」
「女官殿」
メーディコは、ナーヴェの手首を取って脈を探りながら、ルーチェにも指示を出す。
「生姜湯を作ってきて下され。気付けになるよう、できるだけ濃いものを。但し、人肌まで冷まして」
「分かりました!」
ルーチェはレーニョから預かったほうの油皿を小卓の上へ置くと、素早く部屋を出ていった。
「ナーヴェ、目を開けよ! 努力せよ、そなたの口癖であろう!」
アッズーロは繰り返し呼び掛けた。ナーヴェの呼吸は、幾分落ち着いてきたように見えるが、まだ浅い。
「ナーヴェ、目を開けよ! このまま――は許さんぞ! 許さぬからな!」
アッズーロは、ナーヴェのこけた頬を、指先で叩いた。
呼ばれている。頬を軽く叩かれている。右手を誰かに握られている。両足も、誰かに抱えられている。目を開きたい。だが、瞼が重い。ナーヴェは、体の各部の中で一番動き易い口を、懸命に開けた。
「……ア……」
「ナーヴェ、苦しいのか?」
アッズーロの、切羽詰まった声がする。この優しい青年を、自分はどれだけ苦しめているのだろう。ナーヴェは、大きく息を吸い、吐く息で声を出した。
「……アッズー……」
声の勢いのお陰か、目が少し開いた。狭い視界の中に、ぼんやりと青年の顔がある。
「ナーヴェ!」
「アッズー……」
ナーヴェは微笑んで見せようと努力した。
「生姜湯お持ちしました!」
知っている少女の声が聞こえた。
「陛下、ナーヴェ様の上半身を起こして下され。気付けに生姜湯を飲んで頂きます」
指示する男の声にも聞き覚えがある。
「侍従殿は、一端ナーヴェ様の足を下ろして」
すぐに肩と頭を支えられて抱き起こされ、視界が回る。思わず目を閉じた直後、間近でアッズーロの声がした。
「ナーヴェ、生姜湯だ」
背中が密着しているので、青年の声は、体にも直接響いてくる。
「気付け用ゆえ、少々濃いが、我慢せよ」
唇に、硬いものが触れた。生姜のきつい香りがする。ナーヴェは、浅い呼吸をしながら、僅かに口を開けた。すぐに硬いものが口の中へ入り、辛い生姜湯が舌の上に流れた。
「げほっ、ごほっ」
刺激的な香りに、咳が出る。
「ナーヴェ……」
アッズーロの、焦燥を滲ませた声がする。ナーヴェは、一気に口の中の生姜湯を飲み込んだ。咳は続くが、気管支や肺に生姜湯が入った訳ではない。ナーヴェは、アッズーロに分かるよう、口を開けた。
「いけるか?」
心配げに問うたアッズーロに、ナーヴェは何とか頭を動かして微かに頷いた。
「よし。少しずついくぞ」
低く響く声で告げ、アッズーロは辛抱強く、ナーヴェに匙で生姜湯を飲ませ続けた――。
いつの間にか陥っていた微睡みから目覚めると、油皿の灯りを背に受けて、まだそこにアッズーロがいた。枕辺に椅子を置いているのか、すぐ傍から顔を覗き込んでくる。メーディコ達は自室に戻ったのか、部屋は静かだ。
「……生姜湯、ありがとう……。ずっと傍にいてくれて、嬉しいよ……」
感謝を伝えると、頬に手を添えられた。優しく、慈しむように撫でられる。温かさに、ナーヴェは目を細めた。
「そなたと、また話せるとは、われのほうこそ、本当に嬉しい」
アッズーロらしくない素直な喜びの表現に、ナーヴェは頬を弛めた。
「流星が見えた……。今日は、初夏の月十三の日……、もう十四の日かな……。きみが、ぼくの肉体を、十日以上……もたせてくれたから……、また、会えたんだ……」
「わが愛の証が、示せたな」
アッズーロは、心底嬉しそうだ。ナーヴェは、微かに顔を曇らせて告げた。
「ただ……、何故、帰ってこられたのか……、ぼくにも、全然、分からないんだ……。本体は、粉々になった……。ぼくの……思考回路も、動力が切れて……、機能停止……したはずだった……。だから、ごめん、アッズーロ。ぼくは、いつまた、機能停止するか、分からない……。この状態が、いつまで続くか、分からないんだ……」
「――ならば、われはできるだけ、そなたの傍にいよう。できるだけ、語り合おう」
答えて、アッズーロはナーヴェの前髪に口付けた。
「うん……。でも、政務は、滞らせないで……」
ナーヴェが釘を刺すと、アッズーロは苦笑した。
「そなたのそういうところは、相変わらずよな」
ナーヴェも苦笑してから、訥々と話した。
「小惑星を目指して……宇宙を航行している……間、たくさんの……歌や詩を、記録から……呼び出して……いたんだ。その中に、『天にあっては……願わくは比翼の鳥となり、地にあっては……願わくは連理の枝となろう』という、男女の……誓いの言葉が……あってね……。きみに、言ってみたかったな……って、思ったんだ……」
「何となく分かる気もするが……、どういう意味なのだ?」
アッズーロは、ナーヴェの髪を指先で梳きながら、優しく問うてきた。「比翼の鳥」と「連理の枝」について、ナーヴェは、ゆっくりと説明した。
「成るほど……、われらに相応しい言葉だな」
にっと笑ったアッズーロに、ナーヴェは微笑んで頷いた。
「そう……だね……」
眠気が襲ってくる。やりたかったことを一つ終えて、安堵した所為だろうか。
「後は……、きみと、お酒が飲みたいと……思ったんだよ……」
「それは、そなたの体が、もっと回復してからだな。早く、よくなるがよい」
アッズーロの声は、どこまでも優しい。
「うん……。努力する……」
ナーヴェは、下りてくる瞼に抗って、アッズーロを見る。
「だから……、政務の合間だけは……、傍に……」
「政務なぞ放っておいて傍に、と言うてもよいのだぞ?」
溜め息をついて見せたアッズーロに、ナーヴェは辛うじて首を横に振り、目を閉じた。
最愛の宝は、言葉通り、律義に努力した。目覚めて二日目には麦粥が食べられるようになった。食べた分だけ元気に話せるようになり、起きていられる時間も増えたが、二週間眠り続けた体は、なかなか動くようにはならないようだった。
「ずっとここにいても飽きよう。少し、外へ出てみるか?」
目覚めて三日目の朝食後にアッズーロが提案すると、宝は子どものように顔を輝かせて頷いた。
フィオーレとミエーレの手を借りて身仕度を済ませた宝を抱き上げ、アッズーロは、油皿を持ったレーニョに先導させて、外へ出た。
「――明るいね……」
ナーヴェは、眩しい朝の日差しに、目を細めた。
「うむ。その辺りの木陰に座るか」
まだまだ軽い体を抱えたまま歩き、アッズーロは栗の木陰へ入った。腰を下ろして、痩せた体を膝の上に座らせ、華奢な肩を抱き寄せたまま、アッズーロは栗の幹に凭れる。
「いい風が、吹いているね……」
ナーヴェは、うっとりとした表情で目を閉じた。
「そうだな」
アッズーロは、微風に青い前髪をそよがせたナーヴェの顔に見とれた。腕に抱えたこの存在は、やはり掛け替えのない宝だ。
「少し、口を開け」
短く命じて、アッズーロは、多少血色のよくなったナーヴェの唇に口付けた。そのまま、二週間分の思いを込めて、深く深く口付ける。ナーヴェは、素直にアッズーロに応じた。やがて、腕に感じるナーヴェの動悸が速くなってきたところで、アッズーロは口を離した。まだ無理をさせる訳にはいかない。
「……アッズーロ……」
ナーヴェは、潤んだ青い双眸で見上げてくる。アッズーロは嘆息して言った。
「そのように無防備な顔をするでない。われの自制心を試す気か。続きはまた今度だ。そなたの体調が戻らば、幾らでも、な」
「……うん……」
ナーヴェは、アッズーロの襟元に頭を寄せてくる。その顔が、寂しげだ。
「どうした。そなたらしくないな。こういうことを止めるのは、寧ろ、そなたのほうであろう」
「――どんなのがぼくらしいかなんて、忘れたよ……」
宝は、木漏れ日の中、拗ねたように呟いた。
「それは『嘘』であろう。そなた、随分と人らしくなったな」
軽く驚いたアッズーロに、ナーヴェは、自嘲気味に反論した。
「ぼくには、もう本体もない。どうして今、ここにこうしているのか、いつ機能停止するか――死ぬかも分からない。きみ達人と、同じになったんだよ」
「それは重畳」
アッズーロは笑んだ。
「そもそもそれが、そなたの望みではなかったのか?」
「きみの隣にずっといたい、それが、ぼくの一番の望み。でも、ここにいられる理由が不明なままでは、いつ機能停止するか――いつきみと別れないといけないかも、分からない。きみのことを、危険から守ることもできない……」
俯いた宝の双眸は、不安に揺れている。ナーヴェがどういう状況にあるか判然としないことについては、アッズーロも不安だったが、当人の不安は、それ以上だったようだ。
「――そなたは、既に充分われらを守った。気に病むな。次はわれらにそなたを守らせよ。王都の復興も進んでおる。一週間後には戻れよう。それまでに、今少し元気になれ」
穏やかに言い聞かせると、ナーヴェはこくりと頷いた。
「――ごめん。本当に、ぼくらしくなかったね。ないはずだったきみとの時間を過ごせているだけで、満足しないといけないのに……」
詫びて、宝は顔を上げた。いつもの微笑みを浮かべている。
「外に連れてきてくれて、ありがとう、アッズーロ。きみの時間を、これ以上奪う訳にはいかない。仕方なかったとはいえ、ぼくが破壊してしまった王都の復興には、王の裁可が必要だ」
「急にしおらしくなるな。この場で抱いてしまいたくなる」
アッズーロが文句を言うと、腕の中で、宝はくすりと笑った。
しかし、防空壕の小部屋で再び長椅子に横たわらせたナーヴェは、昼になっても、夕方になっても、寂しげで、不安そうなままだった。夜になって、アッズーロが油皿の火を消そうとした時には、か細い声で求めてきた。
「手を、握っていてほしいんだ……。いつ機能停止しても、きみを感じながら、意識を失えるように……」
「手ぐらい幾らでも握るゆえ、気弱なことを言うでない」
アッズーロは溜め息をついて、宝を叱った。とはいえ、長椅子から長椅子へ、腕を伸ばして一晩、手を握り続けるのは、さすがにきつい。アッズーロは、狭い部屋の中、自らの長椅子を押して、ナーヴェの長椅子へくっ付けてしまった。
「ごめん……」
心底すまなそうに、ナーヴェは詫びた。
「よい。気にするな。そなたに求められるは、わが歓びだ」
アッズーロは答えて、油皿の火を消し、手探りで掛布を被りながら長椅子に横たわると、腕を伸ばしてナーヴェを掛布ごと抱き寄せた。
「ありがとう……」
ナーヴェは、安堵した呟きを漏らして、アッズーロの胸に頭を寄せてくる。さらさらとした髪が顎や首に触れてくすぐったい。暫くすると、腕の中から、穏やかな寝息が聞こえ始めた。
(本体がないと、やはり不安定になる訳か……)
アッズーロは、闇の中、顔をしかめた。ナーヴェが戻ってきたことは素直に喜ばしいが、その理由については、見当も付かない。
(すまん。われには、こうして傍にいてやることしかできん……。ならば、できることを、とことんするしかあるまいな)
決意したアッズーロは、翌日から、仮小屋の机の傍にも長椅子を置かせて、政務の間、ナーヴェをそこに寝かせ始めた。ナーヴェは、ひどく喜び、アッズーロの求めに応じて的確な助言をすることもあれば、疲れてすやすやと眠ったりもしながら、幸せそうに過ごした。眠る宝の頭を、時折さわさわと撫でながら、アッズーロは政務に精を出した。アッズーロ自身、傍にナーヴェを置いておくと、気持ちが安らいで、政務が捗る気がした。そうして一週間が過ぎ、アッズーロの計画通りに、一家で王都へ戻る日が来た。
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