第7話 壊れた宝

     一


 無味無臭の煙で気を失わせた近衛兵達が目覚める前に、ソニャーレは幽閉塔を後にした。

 王の宝は頑固だった。幾らソニャーレが言葉を尽くしても、決して助けてほしいと言わなかった。それどころか、己が処刑されるというのに、穏やかな表情をして、恨み言一つ言わなかった。

 最後に、ソニャーレは問うた。

――「あなた様が仰っていた『原罪』とは、ロッソ一世が、その瞳の色の所為でオリッゾンテ・ブル国王になれなかった、その要因を作り上げたことに対する罪ですか? それゆえに、あなた様は、この国に恨みを持たないのですか?」

――「違うよ……」

 自嘲気味に、宝は答えた。

――「確かに、ぼくの『原罪』の所為でこの国は創られたと言えるかもしれない。でも、ロッソ一世に対するぼくの罪と、ぼくの『原罪』とは、また別なんだ」

 告げて、宝は優しい眼差しでソニャーレを見つめた。

――「ぼくが恨みを持たないのは、前にも言った通り、きみ達みんな、ぼくの子どもみたいなものだからだよ。何をしていても、健気で可愛くて、愛おしいんだ」

 神そのもののようなことを言って、宝は格子越しに手を振った。

――「さあ、行って。もうそろそろ、そこの近衛兵達が目覚めてしまうだろう?」

 ソニャーレには、それ以上何も言うことができなかった。

(せめて、あなた様の最期の願いだけは――)

 ソニャーレは、その足で、王宮のシンティラーレの部屋を訪ねた。

 夜間、王宮は閉め切られている。庭園の木に登って窓を叩き、声を掛けたソニャーレに、シンティラーレはすぐ応じてくれた。

「来るかもしれないと思っていたわ。入って」

 窓を開けて手招いてくれたシンティラーレに甘え、ソニャーレは木の枝から窓枠へと跳び移り、王妹の部屋へ入った。

「それで、何を頼みに来たの?」

 シンティラーレは察しがいい。

「わたしにできることしか聞けないけれど」

 ソニャーレは床に跪いて、請うた。

「どうか陛下に進言して頂きたいのです。宝を処刑したのち、遺体をその場でオリッゾンテ・ブル王国に引き渡して下さるように、と。それが、宝の唯一の望みでした」

「――そう……」

 沈んだ声で相槌を打ち、シンティラーレは頷いた。

「分かったわ。陛下にお願い――、いいえ、進言してみる。遺体を渡したほうが、その死を認めさせることができるとか、何とでも理由はつけられるものね」

「どうか、お願い致します――」

 頭を下げたソニャーレに、シンティラーレは優しく言った。

「おまえもつらいわね。攫ってきた人に恩ができてしまって、しかも救うことができないなんて」

 ソニャーレは頭を下げたまま、唇を噛んだ。シンティラーレは更に言った。

「でも、だからこそ、おまえは自分の身を守り、お祖父さんの傍にいなくては駄目よ。そうでなければ、それこそ恩を仇で返すことになる。いいわね?」

「はい……」

 ソニャーレは頷いて立ち上がり、一礼すると、窓から王妹の部屋を辞した。



 月曜午前の大臣会議の最中に、ヴァッレの配下が伝えてきた新たな情報を聞いて、アッズーロは戦慄した。

「処刑、だと……。何を馬鹿な……」

 それ以上、暫く言葉が出ない。そこへ、財務担当大臣モッルスコが発言した。

「ですから、王の宝を失った場合のこともお考え頂きたいと申し上げました。かの国の王族の、わが国に対する憎しみは根深い。ナーヴェ様の処刑も、充分想定できたことです」

「まだ、処刑されてはおらん! 助ける術を検討する!」

 言い返したアッズーロに、モッルスコは冷ややかに反論した。

「ならば、戦争をなさいますか? それは、以前カッメーロが申し上げた通り、愚策中の愚策ですぞ。ナーヴェ様がおられなくとも、わが国は立ち行きますが、戦争となれば、どうなることか――」

「――分かっておる……!」

 アッズーロは声を荒げた。そして、従姉を振り向いた。

「ヴァッレ、そなたの配下に、王の宝を助けさせよ」

「勿論、折り返し鳩を飛ばして、そう命じております。ペルソーネも当然そのつもりでしょう」

 ヴァッレは硬い表情で応じた。

「なれど」

 口を挟んだのは、保健担当大臣メディチーナ伯ビアンコ。癖のない黒髪と白い肌の、怜悧な風貌の青年だ。

「あちらは兵を動員し放題。こちらは、国境線に幾ら兵を並べても、ナーヴェ様が捕らわれている限り、手出しはできない。救出するなら処刑場所へ至る前でしょうが、それでは、ペルソーネ様以下、少数で挑まなければならない。かなり難しいのではないでしょうか?」

 冷静な意見に、アッズーロは言い返せなかった。代わりに口を開いたのは、軍務担当大臣カヴァッロ伯ムーロだった。

「しかしながら、ナーヴェ様を処刑されれば、わが国の面子は丸潰れ。救出を諦めるのは時期尚早です」

「それは分かっておる!」

 モッルスコが卓を叩く。

「救出できる策があるなら、誰も反対はせん!」

 その場で、それ以上の意見は出なかった。

 大臣会議を一時中断し、アッズーロは昼食のため寝室に戻ったが、食欲などあろうはずがない。

「くそっ……!」

 卓に着いただけで料理に手をつけず、長衣の上から胸元の小巾着を押さえたアッズーロに、控えていたミエーレがおずおずと告げた。

「陛下、ヴァッレ様が、お話があると、お越しになられましたが、どう致しましょう……?」

 アッズーロは眉をひそめ、顔を上げた。何か、新しい情報か策があるのかもしれない。

「通せ」

「畏まりました」

 一礼して廊下へ出たミエーレと入れ替わるように、ヴァッレが入ってきた。

「ミエーレは外で待たせているわ。人払いが必要なの」

 開口一番告げて、ヴァッレはアッズーロの傍らまで来ると、沈痛な面持ちで囁いた。

「実は、わが配下から、たった今、鳩で追加の報せが来たの」

「一体、どのような報せだ」

「ナーヴェ様が、唯一望んでいること。それは、処刑後に、その場で遺体がわが国に引き渡されること、だと。ナーヴェ様には、何か策があるのかしら? それとも、ただ、一刻も早くあなたの許に……」

 ヴァッレは声を詰まらせて両手で口を覆った。

「大臣ともあろう者が泣くな」

 アッズーロは顔をしかめて文句を言った。そして、考えた。ナーヴェの意図は、分かる気がする。

(恐らく、腹の子だけは助けようという魂胆だろう……)

 ナーヴェ自身の肉体は替えが利く。だが、腹の子はそうもいかないので、苦肉の策なのだろう。

(できれば、そなたの今の肉体も失いたくはないが……)

 王として、最善の道を選ばなければならない。

(そなたはいつも、われに、王としての、ただ一つの選択肢しか与えん……)

 胸中で文句を言って、アッズーロは立ち上がった。

「ヴァッレ、午後の大臣会議で、ナーヴェの処刑を逆手に取る策を練る。あやつの死を、無駄にはせん」

 声もなく立ち尽くしたヴァッレを残し、アッズーロは先に寝室を出た。



 処刑に出立するまでの二日間、ナーヴェの世話を焼く女官達も、見張りを担当する近衛兵達も、ひどく優しかった。憐れんでくれたらしい。お陰で、ナーヴェは栄養のあるものをしっかりと食べ、たっぷりと眠ることができた。ロッソはついに、会いには来なかった。

 そして初夏の月、三の日の朝。ナーヴェは質素な貫頭衣を着せられて幽閉塔を出され、窓に格子の嵌まった箱馬車に乗せられた。箱馬車の屋根には、十字架が括り付けられている。箱馬車は、騎馬隊と歩兵隊に守られながら王都の街路をゆっくりと進み、後ろから、ナーヴェに怒鳴ったり、石を投げつけたりする人々がついて来た。人々の何割かは、箱馬車が王都を出た後も追ってくる。その人々を気遣うように、箱馬車と兵達は休憩を挟みつつ、のろのろと街道を進んで、翌四日の昼過ぎに、クリニエラ山脈の端、国境沿いにある丘に到着した。

 ソニャーレは、さすが工作員だった。処刑方法は、彼女が予想した通りだった。

 兵達はまず、数人掛かりで箱馬車の屋根から十字架を地面に下ろし、続けて、ついて来た人々の怒声が響く中、ナーヴェを箱馬車から降ろして、十字架の上に仰向けに寝かせた。数人の兵がナーヴェの手足を十字架に沿うように押さえ、一人の兵が、太い釘と鎚を持ってナーヴェの上に屈んだ。

 最初は左手首だった。掌の付け根の手根骨と、手首の橈骨と尺骨との間に釘が打ち込まれる痛みは、ナーヴェの予測を超えるものだった。脳内麻薬を使っても堪え切れず、ナーヴェは激痛に喘いだが、釘で正中神経が破壊されると、途端に左手と左腕が麻痺した。次は右手首だった。ナーヴェは、脂汗を掻きながら、半ば目を閉じて、繰り返される激痛に耐えた。やがて右手と右腕も麻痺すると、釘を持った兵はナーヴェの足のほうへ移動した。兵達が、ナーヴェの膝を少し曲げて、足の裏が十字架に密着するように押さえつける。その足の甲へ、釘が打ち込まれた。激痛に、肉体は意図せず暴れそうになるが、兵達の手がそれをさせない。左足。次いで右足。四本の釘が打ち込まれ終わった時、ナーヴェは息が上がり、意識が朦朧とし掛かっていたが、苦痛がそれで終わりでないことはよく知っていた。

 騎馬兵の一人によって、オリッゾンテ・ブル王国の王の宝は異端の巫女であり、人々を惑わす娼婦であるという罪状が読み上げられ、磔刑の本番が始まった。

 十数人の兵達によって、綱も使って十字架が立てられると、ナーヴェの予測通りに両手首に過剰な体重が掛かり、作り物の肉体の脆い両肩は、焼けるような痛みとともに、あえなく脱臼した。

(ここから先は、この不自然な姿勢の所為で、横隔膜の活動が妨げられ、呼吸困難になって、血中酸素濃度が低下する。血中酸素濃度が下がれば、心臓は自動的に心拍数を上げ、血中酸素濃度の低下を促進してしまう。全身の筋肉は疲弊し、肺は肺水腫を起こし、更に血中酸素濃度が低下して酸素が欠乏し、心筋も疲弊して、ついに心臓が機能を停止する――。また、肺水腫だよ、アッズーロ……)

 息苦しさと痛みの中、ナーヴェは霞む目で国境を見た。見せしめのために立てられた十字架は、きちんとオリッゾンテ・ブル王国のほうを向いている。国境には、オリッゾンテ・ブル王国軍の騎馬隊が並んでいた。その中央に、遠目でもそれと分かる若き王の、愛馬に跨った姿がある。

(ありがとう。こっちからは連絡取れなかったのに、ちゃんと迎えに来てくれたね……。きみがテッラ・ロッサに潜入させた工作員達、間諜達は、本当に優秀だよ……)

 微笑むと、ナーヴェは懸命に息を吸い、口を開いた。

「テッラ・ロッサの人々よ。ぼくは、きみ達を恨まない」

 できることは、全てしておかねばならない。無理矢理声を出し、ナーヴェは語りかける。

「テッラ・ロッサとオリッゾンテ・ブルは、共存できる。ぼく達は、ともに生きることができる。互いに助け合うことができる。オリッゾンテ・ブルは、きみ達を助けるために、いずれ水路を造るだろう。どうか、お互いを恨まないで。人と人として出会えば、きっと、愛を知ることが、できるから」

 息が切れた。心臓が、早鐘のように打っている。ついて来たテッラ・ロッサの人々の、怒号やざわめきが遠く聞こえる。

(もう少しで、そっちへ行けるから、待っていて、アッズーロ。お腹の子も、守るから……)

 ナーヴェは、小脳の本能に抗い、心拍数を落としていった。子どものためには、血中酸素濃度を落とす訳にはいかない。けれど、自分の肉体が死ななければ、アッズーロの許には帰れない。選べる唯一の手段は、自分の肉体を早々に死なせ、全身に残る血液を、全て子どものために使うことだった。同時に、子どもも仮死に近い状態へ持っていけば、より酸素の消費量を抑えることができる。常人にはできないが、体内に極小機械を持つ身には可能だ。ナーヴェは体温も下げていき、呼吸数も少なくしていった。同時に、痛みも含めて、全ての感覚が遠のいていく。

(ごめん、暫くの辛抱だからね――)

 お腹の子へ、思考回路で呟いて、ナーヴェは極小機械の操作に集中した。



「幾分早いように感じますが、事切れたようです」

 甲冑に身を包んだ近衛隊長の報告に、騎馬隊に混じって事を見届けに来ていたロッソは、馬首を十字架へ向けた。長い時には、呼吸困難状態のまま、事切れるまでに二日ほども掛かるのが磔刑だ。だからこそ、最も残酷な刑罰とされている。

(民どもに語り掛けてから、まだ幾らも経っておらんが……)

 クリニエラ山脈へ吹き上げる風に、長く青い髪を乱されながら、宝は、深く項垂れて、微動だにしない。少し前までは、確かに苦しげに喘ぎ、涙を流していたのだが、呆気ないものだ。ロッソは、近衛兵達に守られながら、更に馬を十字架に近づけ、手を伸ばした。自ら青い髪を掴み、宝の頭を引き起こして、その顔を見つめる。整った顔は涙に濡れていたが、その表情には恨みも憎しみもなく、ただ疲れて眠っているかのようだった。しかし、どれほど近づいてみても、呼吸は感じられない。喉も胸も、僅かも動かない。宝は、確かに死んでいた。

(さては、歯に毒でも仕込んでいたか……)

 薬に詳しそうだったので、その可能性は大いにある。

「槍で突いて確かめますか?」

 問うてきた近衛隊長に、ロッソは暫く考えてから、命じた。

「いや、よい。徒にオリッゾンテ・ブルの奴らの神経を逆撫ですることもあるまい。このまま十字架を倒して、奴らに引き渡してやれ。逆上した奴らが向かってくるかもしれん。気は抜くなよ」

「御意!」

 近衛隊長は敬礼して、騎馬隊と歩兵隊に細かな指示を出していった。

 遠目に眺めるロッソの視線の先で、五人の歩兵達が、宝を磔にしたままの十字架を担いで、国境まで歩いていき、地面に置いた。オリッゾンテ・ブル側は、予想以上に冷静な対応だった。戻るテッラ・ロッサの歩兵達を追うことも攻撃することもせず、こちらを警戒しながらも、十字架の周りに集まって、宝の死を悼む様子だ。

「――引き揚げるぞ」

 低い声で近衛隊長に告げ、ロッソは馬首を巡らせた。



「すぐに、ナーヴェを十字架から外せ」

 アッズーロは、声の震えを無理矢理抑えて命じながら、自らも馬から降り、十字架の傍らに跪いた。

 ナーヴェの長く青い髪は砂にまみれ、白い顔に血の気はなく、閉じた目から頬に掛けて、まだ涙の跡があった。細い両の手首と、骨ばった両足の甲に、深々と釘が刺さって血が流れているさまは痛々しい。ナーヴェをよく知る近衛兵達は、悲痛な面持ちで、できるだけ傷を広げぬよう、けれども最大限急いで釘を抜いてくれた。漸く十字架から解放された細い体を、アッズーロは傍目も気にせず抱き締め、そのまま抱き上げて、用意させておいた馬車に乗り込んだ。

「そなたの意図は分かっておる。すぐに神殿に――そなたの本体の許に連れていくからな」

 冷え切った体の耳元へ囁きながら、アッズーロは馬車の窓の外へ、出立の合図を送った。


     二


 ナーヴェの体は、ひどく冷たかった。馬車の座席に腰掛けた自らの膝の上に、その冷たい体を座らせ、抱き抱えて、アッズーロは気づいた。華奢な肩が、両方とも脱臼している。押さえておかねば、ぶらぶらと揺れる細い両腕が、痛々しい。

「あやつら、覚えておけよ……!」

 歯軋りして、アッズーロは立ち上がり、ナーヴェの体を座席に仰向けに寝かせた。肩の脱臼は経験があり、治し方も知っている。自分には、今そのくらいしかできないが、せめてそのくらいはしてやりたかった。

 ナーヴェの左腕を持ち上げて肩関節を嵌め直し、次いで右腕を持ち上げて肩関節を嵌め直したアッズーロは、ふと動きを止めた。ナーヴェの右手、曲げられた小指の内側に、文字が書いてある。

[温め厳禁]

 その、極短い言葉で、アッズーロは全てを悟り、顔をしかめた。

「そなた――、本当に、しぶといな……」

 パルーデ配下の銀髪の従僕が語った、ナーヴェ自身の伝言の通りだ。

「『ぼくはきみが思っているより、しぶといから大丈夫』か……」

 こんな状況だというのに、苦笑してしまう。

(そなたには、われらがどう行動するか、大方読めているのだな……)

 パルーデがひどく協力的で、あの銀髪の従僕を王城へ連れてきただけでなく、ノッテという黒髪の工作員をヴァッレに貸し与えたことも。ペルソーネがヴァッレ配下の工作員達と行動をともにして、ナーヴェ救出のため奔走したことも。アッズーロが、ナーヴェの意図に気づき、神殿へ連れていくだろうことも。アッズーロがその途中で、ナーヴェの体を改め、この文字を見ることも。大方は、ナーヴェの予測の範囲内なのだ。

 アッズーロは溜め息をついて、ナーヴェを座席に寝かせたまま、馬車の床に座り込んだ。[温め厳禁]とは、体を冷えたままにしておけということだろう。確かに、そのほうが体は腐らない。

(われがそなたの遺体を抱き抱えることも、当然予測していたか)

 しかし、何の支えもなしでは、ナーヴェの体は馬車の揺れで床に落ちてしまう。アッズーロは床に胡坐を掻いて、馬車が揺れるたびにナーヴェの体をそっと押さえながら、神殿までの道程を過ごした。

 神殿へ続く白い階段の下で、アッズーロは馬車を停めさせた。疾うに日は沈み、風が吹き荒ぶ夜空には雲が垂れ込めて月も星もない。その闇の中、近衛兵達が掲げる松明の灯りを頼りに、ここばかりは仕方なしと、アッズーロはナーヴェの肉体を両腕で抱え、階段を登った。神殿の扉は、アッズーロが近づくと音もなく開き、白い通路にも灯りが点って、招き入れてくれた。

 その後も順に開いていく扉と自動的に点っていく灯りに導かれ、アッズーロはナーヴェを大切に抱えて、神殿の奥へ進んでいった。着いた先は、予想通り、ナーヴェの肉体が生まれた、あの硝子のような樽のある部屋だった。

 アッズーロが前に立つと、樽の透明な側面が静かな唸りを立てて床に沈んだ。側面がなくなった樽の底へ、アッズーロはナーヴェの体をそっと横たわらせた。アッズーロが樽の外へ出るとすぐに、また硝子のような側面が上がり、天井へ至った。直後に、樽の底から液体が湧いてきて、ナーヴェの肉体を浸し、飲み込んでいく。やがて樽一杯に満ちた液体の中で、ナーヴェの肉体は、長く青い髪をゆらゆらと広げて浮かんだ。

【――ありがとう】

 久し振りの声に、アッズーロは目頭が熱くなるのを感じた。

「子は、助かるのか?」

 つい、ぶっきらぼうに問うた。

【うん】

 白い長衣を纏ったいつもの姿で、実体でないナーヴェは真剣に頷く。

【この子だけは、絶対助ける】

「――そなたの肉体もだ。必ず助けよ」

 無理かもしれないと思いつつ、アッズーロは命じた。樽の外に佇むナーヴェは、肩を竦めて苦笑した。

【きみは、変わらないね。約束はできないけれど、努力するよ。きみが両肩の脱臼を治してくれたお陰で、少しはましな状態になっているしね】

「分かっていたのか」

【あの時は、肉体が死んでいたから何の反応もできなかったけれど、治してくれているのはきっときみだって、ちゃんと分かっていたよ。ありがとう。とても嬉しかった】

 本当に嬉しげに礼を述べてから、宝は、小首を傾げて尋ねた。

【それで、もしぼくの肉体も助けられた場合、少し手を加えることができるけれど、胸は大きくしたほうがいいのかな?】

 宝は、大真面目な顔をしている。アッズーロは、その整った顔を見つめ、暫し絶句してから答えた。

「――いや、今まで通りでよい。われは、そなたの、その姿のままの肉体が気に入っておるのだ」

【そう。よかった……】

 ナーヴェは、安心したように顔を綻ばせる。つい抱き締めたくなる可愛らしさだ。触れないのがもどかしい。歯噛みしたアッズーロは、不意に思い至って、低い声で確かめた。

「――ロッソは――奴は、そなたに触れたのか」

 ナーヴェは、一瞬アッズーロを見つめ返してから、僅かに目を伏せて告げた。

【うん。彼は、ぼくの肉体を隅々まで――中まで調べたよ。本当に人の体なのか、女なのか、疑問だったんだろうね】

 アッズーロは、両拳を握り締めた。ロッソの愛撫は、恐らくパルーデのものより、酷だっただろう。

「――それで、もっと胸が大きいほうがよいと、奴が言うたのか?」

【ううん】

 実体でないナーヴェは首を横に振る。

【彼は、そんなことには興味がないみたいだったよ。罰だと言ってぼくの肉体に触れたけれど、きみのようなことはしなかった】

「われのようなこと……?」

 聞き返したアッズーロに、宝は笑顔で言った。

【うん。彼は、手しか使わなかったよ】

 アッズーロは再び絶句し、同時に安堵もして、ほっと両拳の力を弛めた。

【ああ、でも、不思議だった】

 宝は、まだ話を続ける。

【きみに抱かれた時は何ともなかったのに、ロッソに調べられた後は、吐き気がして仕方なかったんだ。パルーデに味見された後も吐き気がした。きみの時だけ何ともないなんて、変だよね……。やっぱり、ぼくは、もうかなり壊れているみたいだよ……】

 深刻な表情で締め括った宝に、アッズーロは込み上げてきた感情を、深い溜め息をついてやり過ごし、教えた。

「それは、そなたがわれのことを好いておるということだ。それも、特別にな。それを壊れると表現するならば、われが許す。大いに壊れるがよい」

 宝は、呆気に取られたようにアッズーロを見てから、呟いた。

【壊れていいと言われたのは、建造されて以来、初めてだよ。きみはやっぱり、変わっているね……】

 どちらがだ、と胸中で言い返し、アッズーロは腕組みして、硝子のような樽の中へ視線を戻した。暫く目を離していた間に、細い体の手首と足の傷が、随分と治っている。

「両方助けられそうか?」

 改めて問うと、実体でないナーヴェは曖昧な表情をした。

【今のところ上手くいっているけれど、まだ断言はできない。何しろ、ぼくの肉体は死んでいるし、子どもの心拍数もかなり落としたからね。回復には時間が掛かるから、きみは王城へ帰って待っていたらいいよ】

「いや、ここで待つ」

 アッズーロは言い切って、その場に腰を下ろした。離れたところで無事を祈るなど、二度と御免だった。



 「待つ」と宣言したアッズーロは、一時間もしない内に、座ったまま居眠りを始めた。きっとナーヴェの肉体が攫われてから、碌に寝ていないのだろう。

(ここは寒くはないだろうけれど……)

 ナーヴェは、実験室にある五つの監視装置全てで青年を見つめ、思考回路で呟いた。体を横たわらせたり、掛布を掛けたりしてやりたい。アッズーロが、ナーヴェの肉体にしてくれたことと同じことを、返したい。

(でも、肉体がないと、そういうことが、何もできない……)

 うつらうつらと舟を漕ぐアッズーロの、柔らかな暗褐色の髪に、ちょっとした絡まりが見える。肉体があれば、手を伸ばしてすぐに梳いてやれるのだが、今はそれができない。ナーヴェの本来の体である巨大な船体では、そういうことが、一切できない。

(ぼくは、もしかしたら、きみ以上に、ぼくの肉体を求めているのかもしれない……)

 肉体があれば、ウッチェーロを看取る時、ただ話し掛けるだけでなく、その手を握ることができた。肉体があれば、代々の王が、王でなくなった後も、出会って話すことができた。肉体があれば、できたことが、できることが、たくさんある――。

(でも、幾ら肉体があっても、きみの最期を正常に看取ることが、ぼくにはもうできない……)

 演算すれば、そう解が出る。

(代々の王を見送ったように、きみを見送ることはできない……。きみがいない世界で、正常に機能し続けることは、もう不可能だ……)

 アッズーロは、ナーヴェに、壊れることを許した。

(ぼくは、きみより先に、機能停止してもいいだろうか……?)

 自ら機能停止する演算をしてしまってから、ナーヴェは、幻覚の首を横に振った。アッズーロの「壊れるがよい」という言葉は、決してそこまでは意味していない。その程度は理解できる。しかし、完全に壊れてしまって正常に機能しなくなった自分が、人々に対し、どんな影響を及ぼすのか。演算すれば、悪い予測しか立たない。

(ぼくは、きみが思っている以上に、壊れてしまっているんだよ……)

 ナーヴェは天井の監視装置で、眠る青年を悲しく見下ろした。


 

「……ッズーロ、アッズーロ」

 呼ばれて、そっと肩を揺すられ、アッズーロは、はっと目を開けた。その視界で、さらりと長く青い髪が揺れる。華奢な体が目の前に両膝をついている。

「ナーヴェ――」

 顔を上げると、深い青色の双眸と目が合った。微笑むその顔をよく見るより先に、アッズーロは両手を伸ばして、細い体を抱き寄せてしまっていた。質素な貫頭衣を纏ったままの体は、まだ濡れている。それでも、確かな温もりがあり、心臓の鼓動が聞こえた。

「馬鹿者め――、心配を掛けおって――」

 アッズーロは、ナーヴェの平らな胸に顔を押し付けたまま、文句を言った。

「ごめん……」

 ナーヴェは、濡れた両腕で、そっとアッズーロの頭と肩を抱き締めてくる。柔らかな抱擁に、暫く目を閉じて浸ってから、アッズーロはおもむろに胡坐を解いて膝立ちになった。ナーヴェの体を両腕で抱き寄せたまま、その濡れた顔を今度は見下ろし、無言で口付ける。ナーヴェの肉体が沈んでいた液体の所為か、微かに塩味を帯びたほろ苦い味がする。暫く口付けてから、アッズーロは、その味の正体に気づいた。

(これは、涙か――)

 半ば閉じていた目を開け、見てみると、口付けに応じているナーヴェの閉じた両眼の端から、涙が溢れて零れるところだった。

(馬鹿者め、そなたは本当に、われを血迷わせる――)

 アッズーロは、そのまま更に深く口付けて、涙を流すナーヴェを味わった。やがて、ナーヴェがそっと両手で、アッズーロの胸を押した。気づいて口を離すと、アッズーロの腕の中で、ナーヴェは、はあはあと肩で息をした。長く深く口付け過ぎたらしい。

「すまん。少々夢中になった。大丈夫か?」

 問うと、ナーヴェはこくりと頷いて、アッズーロを見上げた。白い頬が紅潮し、青い双眸はまた涙を流しそうに潤んでいる。何度でも口付けしたい衝動を抑えて、アッズーロは確かめた。

「腹の子は、無事なのだな?」

「うん。大丈夫だよ。また元気に細胞分裂を始めている」

 ナーヴェは穏やかな笑顔で答えた。その華奢な体を支え、ともに立ち上がってから、アッズーロは言った。

「ここからは、政治的な話だ。卑劣なテッラ・ロッサによって不当に殺された王の宝が、神が起こし賜うた奇跡により復活を果たすのだ。そなたも、ある程度は考えていたことだろう?」

「きみのそういうところは、さすがだね。その通りだよ」

 ナーヴェは嬉しげに微笑む。

「ただ捕らわれて殺されただけでは、いろいろと勿体ないからね。ぼくの持つ知識の中にある故事を真似てみようと計画したんだ。どこまで計算通りにいくかは、賭けだったけれど」

「『勿体ない』か! は!」

 アッズーロは鼻を鳴らした。散々心配させておいて、こういうことを言うから、この宝は侮れない。

「ああ、ごめん。ぼくはまた、不具合を起こしたね……」

 落ち込んだ様子で俯いた宝に、アッズーロは溜め息混じりに伝えた。

「もうよい。いい加減慣れたわ。前にも言うた通り、われは幼子ではないからな。そなたは、そのままでよい。不具合を起こそうが、壊れようが、そなたの全てが、われにとっては愛おしい」

 ナーヴェは驚いた顔でアッズーロを見上げ、目を瞬いた。その頬が、耳が、見る見る赤く染まっていく。初めて見るナーヴェの反応に、アッズーロは急に気恥ずかしくなり、自身もまた赤面するのを感じた。普段なら、赤面を隠すためそっぽを向くところだが、これまでになく愛らしい宝から目を逸らすことなどできない。今はこれが最後と己に言い聞かせながら、アッズーロはナーヴェの肩を抱き寄せ、その顎に手を添えて、優しく口付けた。


     三

 

 フィオーレに連れられて部屋に入ってきた青い髪の少女を見て、レーニョは心底安堵した。フェッロによってテッラ・ロッサに拉致されただの、国境付近で磔刑に処せられただの、自責の念に駆られる噂ばかりが聞こえてきたが、人ではないという少女は、無事、戻ってきてくれたのだ。

「お元気そうで、何よりです。命をお救い頂き、本当に感謝の言葉もありません」

 寝台に横たわったまま真摯に述べたレーニョに、王の宝は首を横に振った。

「救って貰ったのは、ぼくのほうだよ。きみが防いでくれなかったら、この体は頭を吹き飛ばされて即死して、お腹の子が助からなかった」

 穏やかに言って、王の宝はフィオーレが用意した枕辺の椅子に腰掛けた。

「具合はどうだい? ぼくができたのは応急処置までだから、まだかなり痛いだろう?」

「それはそうですが、あなた様と侍医殿のお陰で、日々快方に向かっております。ナーヴェ様こそ、テッラ・ロッサで、いろいろと御苦労なさったのではありませんか?」

「まあ、そうだね。特に磔刑は、とても痛くて苦しかったよ。予測以上だった。できれば、次は御免被りたいね」

 嘆息した宝に、レーニョは引き攣った笑みを浮かべた。磔刑を二度受けることを恐れるなど、聞いたこともない。磔刑を受けておきながら、その翌日の午前九時に、けろりとして目の前にいる少女こそ恐ろしいのではないだろうか。だが、恐ろしさなど微塵も感じさせない少女は、人懐っこく顔を寄せてきた。

「それで、フィオーレと、何か進展はあったのかい?」

 耳に息の掛かる距離で囁かれた言葉に、レーニョは瞠目した。

「はい?」

 訊き返すと、ナーヴェは体を離して、また嘆息した。

「分かったよ。きみ達には、まだまだ時間が必要だね」

 そうして宝は椅子から下りる。

「では、またね。今度お見舞いに来た時には、『あなた様と侍医殿とフィオーレ殿のお陰で』と聞けることを、楽しみにしているよ」

 悪戯っぽく告げて、長く青い髪を揺らし、王の宝はレーニョの居室から出ていった。フィオーレが慌てて、その後へついて行く。去り際に振り向いたフィオーレの頬は、ほんのり赤く染まっていたが、レーニョは気の利いた台詞など言えず、ただ見送っただけだった。



  悲しいよ、愛する王国、きみはぼくを捨てたね、

  とても哀しいやり方で。

  ずっときみを愛し続けてきたのに、

  きみと一緒にいられれば幸せだったのに。


  オリッゾンテ・ブルはぼくの歓び、

  オリッゾンテ・ブルはぼくの幸せ。

  オリッゾンテ・ブルはぼくの心の輝き、

  きみ以外考えられないぼくの王国オリッゾンテ・ブル。


 物悲しい旋律の歌が、王都アルバで流行っている。それは、三日前に処刑されたオリッゾンテ・ブルの王の宝が、幽閉塔に閉じ込められていた間、繰り返し口ずさんでいた歌だった。それを連日聴いていた近衛兵達や女官達が、知り合いに伝えていったものらしい。王都では今や、市井の楽団がその歌を演奏して客を集め、日銭を稼ぐまでになっているという。

(何か、作為的なものを感じるわね……)

 シンティラーレは不審に思いながらも、その歌に惹かれる民衆の気持ちが分からないでもなかった。特に貧民街の人々は、宝がスコーポの命を救ったことを知っている。その宝が、格子の嵌まった箱馬車で王都を引き回された挙句、国境付近で残酷な磔刑に処せられたのだ。また、王の宝は、磔にされてから事切れるまでの間に、その場にいた民衆へ語り掛けたという。それは友好的な内容で、その無残な死にざまとも相まって、オリッゾンテ・ブルへの憎しみを叫んでいた人々の心に、少なからぬ衝撃を与えたようだと聞いている。人々は、王の宝を憐れみ、その死を悼んでいるのだろう。しかし、民衆の感情と政治的な問題は別物だ。

(一度、様子を見に行かないといけないわね……)

 シンティラーレは、その日、身を窶し、王都中心の泉近くで演奏している楽団を観察しに行った。


  きみはぼくの心を壊すように誓いを破った、

  ああ、何故きみはぼくをこんなに魅了するのかな。

  離れた場所にいる今でさえも、

  ぼくの心はきみの虜だ。


  きみの願いは全て叶えてきた、

  きみのために全てを賭けた。

  命も土地も捧げてきた、

  きみの愛と優しさをぼくのものにしたかったから。


 昼下がりの陽光の下、竪琴の伴奏で澄んだ歌声を響かせていたのは、王の宝と年恰好の似た少女だった。癖のない長い黒髪をただ垂らして布で覆い、華奢な体に白い長衣を纏った美しい少女は、青い双眸で集まった人々を見渡しながら、高くも低くもない中性的な声で歌う。


  ああ、ぼくは天高き神に祈ろう、

  きみがぼくの永遠の愛に気づくように、

  そしてぼくの人生の終わりが来る前に、

  もう一度きみがぼくを愛してくれるように。


(これは、思った以上に、まずいわね……)

 シンティラーレは、歌う少女から、立ったまま聴き入る人々へと視線を転じて、眉をひそめた。

(王の宝への同情が、膨れ上がっている……)

 それは、下手をすると、テッラ・ロッサ王家への反発に変わる感情だ。


  オリッゾンテ・ブルよ、今はもうさようなら。

  きみに神の恵みがありますように。

  ぼくは今でもきみを想っているよ。

  もう一度戻ってきてぼくを愛して。


  オリッゾンテ・ブルはぼくの歓び、

  オリッゾンテ・ブルはぼくの幸せ。

  オリッゾンテ・ブルはぼくの心の輝き、

  きみ以外考えられないぼくの王国オリッゾンテ・ブル。

   

 余韻たっぷりに歌い終えた少女に、人々は拍手を送り、その足元へたくさんの硬貨を投げ与えた。シンティラーレは、その輪からそっと離れた。

(兄上に、この状況を報告したほうがよさそうね……)

 楽団は、歌い手、竪琴弾き、横笛吹き、鉦叩きの四人から成っていた。歌い手以外の三人は白い頭巾付き外套ですっぽりと全身を覆っていたが、竪琴弾きは長い銀灰色の髪を結った女、横笛吹きは短い金褐色の髪の男、鉦叩きは癖のある黒髪を襟足で切り揃えた少女だった。

(全員、工作員という可能性もある。ソニャーレに調べさせて……)

 考え掛けてから、シンティラーレは軽く首を横に振り、溜め息をついた。ソニャーレは、怒れる人々に混じって、宝を護送する箱馬車について行き、その処刑を見届けたという。

(恩人が、磔刑で残酷に処刑されるさまを見た彼女に、この任務は無理ね……)

 シンティラーレは、どの工作員を使うべきか頭の中で検討しながら、王宮へ戻った。しかし、その報告をするより先に、シンティラーレは、侍従の一人から王族の間へ来るよう伝えられた。そこは、王の家族のみが集まり、話し合う部屋だ。シンティラーレが王族の間へ入ると、既にそこには、ロッソと三人の姉達、そして一人の少年がいた。

(ボルド……!)

 跪いて控えた栗毛の少年は、シンティラーレが知る間諜の一人だった。確か、オリッゾンテ・ブルの王城に、侍従として入り込んでいたはずだ。それが自ら戻ってくるとは、余ほど重大なことが起きたのだ。

「ボルド、おまえが見聞したことを、もう一度述べよ」

 ロッソが命じ、少年は硬い面持ちで語った。

「王の宝が、生きております。『神が奇跡を起こし賜い、王の宝は復活した』と、国王アッズーロは国民に喧伝しております。単なる宣伝、神格化かとも思い、第一報を鳩でお知らせした後、王城内で調査しておりましたところ、わたくし自身、王の宝を目撃致しました。詳しく観察致しましたが、顔立ち、立ち居振る舞い、語り口、周りの者達との関わり方、全て以前と寸分たがいません。あれは間違いなく、以前のままの王の宝です。代わりの者ではありません。王の宝は、生きていたのです」

 シンティラーレは絶句し、兄王の顔を見た。

「あの状況で生きていたとは信じ難いが、対策を練らねばならん」

 兄王は、険しい横顔で言う。

「テッラ・ロッサの王権の危機だ。あれは、アッズーロの妃となるのだろう?」

 ロッソの確認に、ボルドは頷いた。

「まだ正式には発表されておりませんが、王城内の雰囲気、大臣達の会話からは、そう推察されます。神の恩寵を受けた王の宝が王妃となれば、国王アッズーロの権威は弥増し、国政は安定すると、大方の意見は一致しているようです。以前は、王の宝というだけで、得体の知れない者を王妃にすることには反対がありましたが、現在は『奇跡の復活』の影響で、反対は殆どありません」

「あれは、身篭っていた。まだ、子は流れておらんのだな?」

「それについては、確定的情報が得られませんでした。そもそも以前より、王の宝が妊娠しているという情報は、噂程度で、正式には発表されておりません。なれど、国王アッズーロと王の宝の仲は以前にも増して睦まじく、周囲の女官達の言動からも、子が流れた様子は窺えませんでした」

「――さては、最初から偽者であったか」

 ロッソは低く呟いた。シンティラーレは、姉達とともに、兄王の顔を注視する。兄王は、腹立たしげに言葉を続けた。

「フェッロとソニャーレが連れてきた宝は、偽者であったのだ。あやつらは、偽者を掴まされたのだ。そうして、おれも騙され、奇跡の演出の片棒を担がされたのだ。おれが磔刑に処した者は、確かに死んでいた。あの状況で、生きておるはずがない。況して、子も流れておらんなどと、あり得るはずがない」

(あれが、偽者――)

 シンティラーレは、言葉を交わし、ともにソニャーレの家へ行った少女の姿を思い浮かべる。博識で、且つ慈愛に満ちた振る舞いをしていたあの少女は、宝の偽者で、奇跡の演出のために、甘んじて磔刑に処せられ、死んだのだ。

(何ということを――)

 涙を流しそうになり、慌てて堪えたシンティラーレの耳に、ロッソの吐き捨てるような言葉が刺さった。

「あの偽者は、確かに身篭っていた。オリッゾンテ・ブルの奴らの非道なことよ。われらを謀るためだけに身篭った女を使い、腹の子ともども見殺しにしたのだ」

「何という、残虐な……」

「惨いことを……」

「卑劣漢どもめ……!」

 姉達が涙に咽ぶ。シンティラーレも、最早、目から溢れる涙を堪えはしなかった。常に微笑んでいたあの少女が、結末を知りながらも腹の子を労わっていたあの少女が、憐れでならなかった。

(だから、処刑後、「遺体をその場でオリッゾンテ・ブル王国に引き渡して」ほしい、だったのね……)

 遺体がテッラ・ロッサに残っていれば、「復活」も演出できない。彼女の遺体は、オリッゾンテ・ブルで、誰に知られることなく、処分されたのだろう。

(そこまで尽くす必要が、オリッゾンテ・ブルにあったの? それとも、誰かを人質に取られていたの……?)

 もっと、あの少女と話しておけばよかったと思った。もしかしたら、優秀な工作員として、こちらに引き入れられたかもしれなかった――。

「まずは、その線から攻めることとしよう」

 兄王が結論付ける。

「オリッゾンテ・ブルは、偽者を用意し、卑劣にもその者を見殺しにして、『奇跡の復活』を演出した。そう、わが国民にも、オリッゾンテ・ブル国民にも、知らせるのだ」

「それがようございます」

「仰せのままに……!」

「すぐに配下の者どもを動かしましょう」

 姉達が賛同する。シンティラーレも深く頷いた。

「オリッゾンテ・ブルの奴らがどれほど残酷なことをしたのか、わが国民にも、かの国民にも、確と知らせてやりましょう!」

 あの少女の死の上に笑う者達を、許しはすまい。シンティラーレは、固く決意した。



 妹達との話し合いを終え、幾つかの指示をボルドや臣下達に下してから、ロッソは、西日が僅かに差し込む寝室へ戻った。ボルドの第一報を受け取り、「奇跡の復活」の話を知ってから、不愉快な気分が続いているが、かの少女が偽者であったと思い至った瞬間から、更に不快感が増している。あの時、ロッソの体の下で、途中からは諦めた様子で、されるがままになり、ただ涙を流していた少女。ソニャーレの祖父を、真摯な手当てで救った少女。磔刑の苦しみの中で、怒鳴る民衆に語り掛けた少女。全て、命を懸けた演出の一部だったのだ。偽者だったかの少女に、ロッソが問うた王の宝の罪はなかった。だがロッソに、妹達のような単純な同情心は湧いてこない。命を懸けて、かの少女は、テッラ・ロッサを陥れたのだ――。

(どうせ死を覚悟していたのなら、あの時、容赦せず、殺す気で抱き潰しておけばよかったな……)

 胸中で、ロッソは苦々しく、獰猛に呟いた。


     四


「ペルソーネの報告では、楽団作戦は上手くいったそうです」

 立ち上がったヴァッレが、凛とした声を響かせ、卓に着いた大臣達に現況を説明する。

「テッラ・ロッサ内には、『奇跡の復活』の噂が既に広まっていますが、同時に、『処刑された王の宝は偽者だった』というテッラ・ロッサ王家の宣伝も広まっています。テッラ・ロッサ王家の思惑としては、わが国が憐れな少女を偽者に仕立て上げ、『奇跡の復活』演出のため、見殺しにしたと国民に宣伝することで、わが国の権威を落とそうというものでしょう。王の宝に似せるため、わざわざ身篭った少女を使ったと、わが国は酷い言われようです」

「では、作戦は上手くいっておらんではないか」

 道路担当大臣ストラーダ伯カッメーロが眉をひそめた。

「いえ、そうとは限りません」

 ヴァッレは冷静に応じる。

「ナーヴェ様が、歌や語り掛けなど、多くの布石を打って下さっていたお陰で、楽団作戦も『奇跡の復活』も、多くのテッラ・ロッサ国民に受け入れられています。テッラ・ロッサの国民感情は、かなりわが国寄りになっていると言えるでしょう。ナーヴェ様が、語り掛けの中で水路についても言及して下さったので、次の水路作戦も進め易くなっていると思われます」

 ヴァッレは、大臣達の卓から一歩離れたところの椅子に腰掛けたナーヴェに微笑み掛けた。

「楽団作戦の連中の引き揚げは、どうなっておる?」

 アッズーロが問うと、ヴァッレは笑みを浮かべて答えた。

「昨日の昼過ぎに鳩を飛ばし、退去を命じました。既に国境を越えているはずです」

「そうか。ならばよい」

 アッズーロは頷き、命じた。

「では、水路作戦の詳細を詰める。まずはナーヴェ、どこに水路を通すべきか説明せよ」

「うん」

 頷いたナーヴェが椅子から立とうとする。アッズーロは王座の肘掛けを叩いて言った。

「発言は座ったままでよいと言うておいたであろう! そなたは立つでない!」

 宝は、困った顔で応じた。

「そんな大きな声は出さないで。それに、ちょっと立つくらい、大丈夫だよ?」

「頼むから、言うことを聞け」

 アッズーロが軽く頭を押さえながら言うと、ナーヴェは溜め息をついて椅子に座り直した。大臣達が、呆気に取られた様子で、二人を見比べている。アッズーロは顔をしかめて頬杖を突いた。

「では、地図を見て貰いながら説明するよ。ガット、いいかい?」

 ナーヴェが涼やかな声で切り出し、控えていたガットが緊張した面持ちで進み出て、手にしていた地図を、大臣達が着く卓の上に広げた。ナーヴェ自身が、昨夜、アッズーロの執務室の机で羊皮紙に描いた地図だ。思考回路に蓄積した記録を参照していると言って、何も見ず、すらすらと描いたさまは、相変わらず見事だった。

「カンナ河からクリニエラ山脈のどこに水路を通すかだけれど」

 ナーヴェは、椅子ごと少し卓に近づいて、地図の上に手を伸ばした。確かに、立ったほうが説明し易そうだが、アッズーロは頬杖を突いたまま沈黙を保った。ナーヴェは、地図上の一点を指差し、話し始めた。

「まず、カンナ河のどこから水を引くかだけれど、中流からではなくて、もっと上流からにしたほうが、高低差が生まれるから水路を造り易いし、綺麗な水を送ることができるという利点がある。という訳で、水路の出発点は、カンナ河の水源近く、クリニエラ山脈のここをお勧めするよ。それで、クリニエラ山脈をそのまま貫通させれば距離は短くて済むけれど、隧道を造るとなると、工事としては危険度が増す。だから、できるだけ山を迂回して水路を通すほうがいい。ここから、山肌に水路を穿っていって、こう通すんだ。ここは、大して距離がないから、谷に水道橋を造って水路を渡す。ここに沈殿槽を造っておくと、水が更に綺麗になる。山脈から平地に掛けても水道橋を造って、なだらかに水を流していく。テッラ・ロッサ国内に入った後は、ここに丘があるんだけれど、そんなに高くはないから、地下水路にして通せばいい。ここまで行けば、配水槽を造って、各地へ水路を繋いでいく。街中の高低差を乗り越えるには、管の原理を使えばいい。水を満たした管を使えば、高いところから、更に高いところを通して、低いところへ水を流せるという原理だよ。水路の管は陶磁器を用いるといい。金属の管だと、毒素を出すからね。水路の高低差は一粁当たり三十四糎下がるくらいの傾斜にすると、管をあんまり傷めないから、水路が長持ちするよ」

 怒涛の説明に、大臣達は皆、言葉を失ってしまっている。アッズーロも少々疲れを感じながら、口を開いた。

「では、各々の担当において、次回までに意見をまとめよ。今日はこれで散会とする」

「「仰せのままに」」

 大臣達は立ち上がり、一礼して三々五々、会議室を辞していった。以前は、アッズーロとナーヴェが退室するまで待たせていたのだが、人を待たせているとナーヴェが急いでしまい、危なっかしいので、ナーヴェがいる時は、先に退室するよう申し付けたのだ。大臣達を見送ってから、アッズーロは王座から立ち上がり、ナーヴェに声を掛けた。

「さて、われらも部屋へ戻り、昼食としよう」

「うん」

 頷いたナーヴェの表情が、暗い。アッズーロは椅子に座って大人しく待つ宝のところまで行き、その頬に触れた。

「どうした? 浮かぬ顔だぞ?」

「いや、何でもないよ」

 ナーヴェは答えて、アッズーロの手を取り、ゆっくりと立ち上がった。その細い体を支えて歩き出しながら、アッズーロは重ねて尋ねた。

「疲れたのではあるまいな?」

「ううん。大丈夫だよ」

 微笑んだナーヴェの横顔が、寂しげだ。アッズーロは鼻を鳴らした。

「気になるではないか。素直に理由を言うがよい」

「大したことではないんだよ」

 前置きして、ナーヴェは告げる。

「ただ、大臣達に、多分、他の人達にも、何となく怖がられているなあと思って……。さっきも、説明のために卓に近づいたら、少し避けられた感じがあって。まあ、仕方ないんだけれど。そもそも、ぼくは人ではないんだし、『復活』なんてしてしまったら、怖がられるのも仕方ないよね……」

 確かに、処刑された時の貫頭衣を纏ったまま、即位の際と同様に青い光の演出を加えて神殿から外へ出たナーヴェは、アッズーロが予め命じて集めておいた臣下達に、驚きを以て迎えられていた。

(否、われが演出をさせ過ぎた所為か、寧ろ遠巻きにされておった……)

 しかし、そのようなことは大した問題ではない。

「怖がりたい奴には、怖がらせておくがよい」

 アッズーロはナーヴェを支えて歩きながら、言い切る。

「そのほうが、われは安心だ。余計な心配をせんで済む」

「『余計な心配』?」

 ナーヴェは、小首を傾げてアッズーロを見た。

「いや、まあ、それはよい」

 アッズーロは言葉を濁した。嫉妬などということは、教えたくもない。ところがナーヴェは、拗ねたように呟いた。

「きみはぼくのことを訊き出すのに、自分のことは隠すんだね……」

 アッズーロは絶句して、足を止めた。本体の中で赤面したのに続けて、初めての反応だ。これでは、まるで痴話喧嘩だ。

(それで、「人ではない」なぞ、誰が信じるか)

 この青い髪の少女は、もう充分に人だ。

 アッズーロは回廊の真ん中で、衝動のままにナーヴェを抱き寄せ、口付けた。ナーヴェは抵抗はしないが、驚いたように身を竦めている。アッズーロは暫くしてから口を離し、宝を抱き寄せたまま、その耳元へ囁いた。

「誰ぞ不埒な輩がそなたに、こういう狼藉を働く心配をせんで済むということだ。そなたが怖がられておるほうが、われは安心なのだ」

 くすりと、ナーヴェはアッズーロの耳元で笑った。

「きみは本当に、心配性だよね……」

 この宝は、男も女も虜にする己の魅力を全く自覚していないらしい。アッズーロは嘆息すると、ナーヴェの体を支えて再び歩き始めた。

 アッズーロの寝室では、フィオーレが昼食の仕度をして待っていた。レーニョが随分と回復したので、フィオーレも女官としての仕事に戻っているのだ。

 卓には、蜂蜜を掛けた乾酪と、干し杏と、林檎果汁が用意されていた。

「ありがとう。大好物ばかりだ。嬉しいよ」

 ナーヴェは目を輝かせて卓に着く。食べることに対する宝の感動は相変わらずだ。向かいに座りながら、アッズーロは頬を弛めた。異変は、その直後に起こった。

「命達よ、いただきます」

 いつも通りに行儀よく言って、乾酪を一欠片食べたナーヴェが、急に口を押さえて屈み込んだのだ。

「どうした? 毒か!」

 椅子を蹴って立ち上がり、駆け寄ったアッズーロに、ナーヴェは小さく首を横に振った。

「これは、もしや……」

 同じく駆け寄ってきたフィオーレが、アッズーロを見る。

「陛下、ナーヴェ様のこれは、悪阻、ではないでしょうか……?」

 ナーヴェが、今度は小さく頷いた。

「『悪阻』……」

 アッズーロは、どう反応すべきか迷いながら、ナーヴェの背を撫でた。宝は、蒼白な顔色になって口を押さえている。

(人であれば、身篭ってこうなるは、当たり前のことだ。われはまだ、そなたを完全な人として捉えられてはおらぬらしい……)

 アッズーロは反省して、フィオーレに求めた。

「悪阻であれば、われには対処法が分からん。おまえに任せる」

「仰せのままに」

 フィオーレは頷いて、室内にあった手桶を素早く持ってくると、ナーヴェに手渡した。ナーヴェはそこへ、すまなそうに乾酪の欠片を吐き出す。その背をさすり続けながら、アッズーロは今後について考えを巡らせた。やはり、妊娠していて不安定な体調のナーヴェを、会議や謁見に同席させ続けるのは、酷なのかもしれない――。

 フィオーレは次に、室内に用意してあった桶から木杯に水を汲んできて、ナーヴェに手渡した。ナーヴェはその水で口を濯いで、また手桶へ吐き出す。何度かそれを繰り返してから、ナーヴェは顔を上げた。

「ありがとう……。もう大丈夫」

「おつらいでしょうが、何か口になさらないと、お体がもちません」

 フィオーレはナーヴェの手から手桶を受け取りながら、言い含める。

「干し杏と林檎果汁は、召し上がれそうですか?」

「うん。大丈夫だと思う」

 ナーヴェは頷いて、椅子に座り直し、卓上の食べ物を見た。アッズーロもまた椅子に戻り、注意深く宝の様子を見守る。まず干し杏を手に取ったナーヴェは、その端を少し齧った。慎重に咀嚼し、微笑む。

「うん、大丈夫。これは食べられそうだよ」

「ようございました……!」

 安堵した声のフィオーレに励まされるように、ナーヴェは林檎果汁の木杯を手に取った。ちびりちびりと飲んで、ナーヴェはまた微笑む。

「これも大丈夫。とても美味しい」

「安心致しました。では、乾酪の代わりとなるものを、厨房で幾つか見繕って参ります」

 フィオーレは一礼して、手桶を手に、寝室を辞した。

「その乾酪を寄越せ。われが食す」

 アッズーロは手を伸ばしてナーヴェの乾酪の皿を取り、自分の前へ置く。ナーヴェは干し杏をもぐもぐとしながら、ふわりと笑んだ。

「ありがとう」

 食べ物を無駄にすることには、依然、相当な抵抗があるらしい。

(そういう慎ましいところも、好かれる所以か)

 アッズーロは小さく息をつき、乾酪を口へ運びながら教えた。

「何度も言うが、体がつらいなら、会議にも謁見にも出席する必要はないぞ?」

「分かっているよ。でも、悪阻は病気ではないから」

 ナーヴェは予想通り、欠席を拒んだ。

(与えられた役割を頑なに果たしたがる。それも、こやつの美徳の一つではあるが……。われは、まだまだ、こやつの行動の理由を、心の奥底で何を考えておるのかを、知らんな……)

 アッズーロがまた小さく息をついてから林檎果汁を飲むと、ナーヴェが形のいい眉をひそめた。

「どうしたの? いつにも況して溜め息が多いよ? ぼくのことは心配しなくていいからね?」

「たわけ」

 アッズーロは盛大に溜め息をついて軽くナーヴェを睨む。

「そなたの心配をするは、われの自由だ。第一、心配をするなと言う者ほど心配なのが、世の常であろう?」

「……まあ、そうだね……」 

 ナーヴェは、誰かを思い浮かべたのか、少し遠い目をして納得した。

「そう言えば、ヴァッレから聞いたのだが」

 アッズーロは話題を変える。

「そなた、テッラ・ロッサで、作戦のためとはいえ、随分と酷い歌を歌っておったそうだな? 『悲しいよ、愛する王国、きみはぼくを捨てたね』だったか?」

「同情を惹くために、ちょっと替え歌にしただけで……、その言いようのほうが、酷いと思うけれど……」

 ナーヴェは呆れ顔をしてから、告げた。

「ぼくにはまだ、嘘をつくという機能がないからね。事実と異なることを言おうと思ったら、歌を歌うとかの、抜け道を用意しないといけないんだよ」

「『今のところ』ではなく、『まだ』となったか」

 指摘したアッズーロに、ナーヴェは目を伏せて答えた。

「ぼくは、もう壊れている。『嘘をつくという機能がない』というのは、正常な状態においてのことだからね。学習機能とは無関係に、ぼくはいつ嘘がつけるようになっても、おかしくないんだよ」

「『壊れるがよい』とは言うたが、それだけは困りものだな。そなたの『大丈夫』が、いよいよ信じられんようになる訳か」

 真面目に考え込んだアッズーロの向かいで、ナーヴェはぽかんと口を開けた後、苦笑する表情で、くすくすと笑い声を立て始めた。

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