行間「スタラトの町、王族宿泊用城塞地下施設、奴隷収納場より」

 ここまで来るのは、随分と楽だった。

 それもそのはずだ。外ではこのどデカイ城塞を正面突破しようとしているバカどもを止めるために散らばって配置されていた兵士たちのほぼ全てが中庭へ集められているのだから。

 彼らは戦う必要はないから店で待っていてくれと少女と二人で残っていたが、残念ながらじっと待つなんてらことは出来なかった。


 気がついたら、走っていた。

 場所は知っていた。金を集めることは出来なくても、その過程で死に物狂いで集めた情報の中に、この奴隷収納場の情報があったからだ。

 年に一度このスタラトの町へ送られた奴隷たちは、取引が終わるまではここに閉じ込められ、買い手が確定したものから外へ出荷されていく。

 なんて扱いだ。家畜でももう少しマシな衣食住を確保されているというのに。


「本当に、クソみたいな世界なのですよ」


 そんな場所を一人歩く少女は、桃色の短髪と同色のフリフリメイド服を揺らしながら小さく呟いた。

 防御が手薄になっている今、奇襲をすれば簡単に入ることができた。


 戦う準備は散々していた。短剣の扱いも、体の使い方も、妹を助けるための全てを積んできた。

 それでも、あと一歩を踏み出せないでいた。

 そんな中、彼らが現れた。


「笑っちまうなのですよ。あんな顔で全てを救うなんて言われたら」


 呟きながら歩く少女の前に、兵士たちが現れる。


「やっぱり、減っているとはいえ戦闘なしで助けるのは無理なのですね」


 出来ることなら戦闘なんてせずに進みたかったと思いながらも、少女は懐から短剣を二本取り出す。

 戦意があると見なした兵士たちも、槍を構え、剣を抜き、盾を動かす。


 命の奪い合いが始まる気配を、少女は鋭敏に感じ取る。

 恐怖はもちろんある。でも、それ以上に。


「あの人たちは、私を助けるために本当にこの国にケンカを売っちまったなのですよ」


 怖くても、前に進める理由を思い出しながら、少女は前を見る。


「出会って間もない私のために、救うって言いやがったなのです。反逆者として大罪人になるかもしれないのに。生きて帰ってくる保障なんてどこにもないのに。それでも迷わずあの人は頷いてくれた」


 嬉しくて嬉しくてたまらなかった。

 まだ何も始まってすらいないあの瞬間に、もう救われたと感じてしまった。

 勇気を、もらった。

 だから、少女は前に進む。

 呟きは少しずつ大きくなり、そして、少女は叫ぶ。


「ここまでされてるのに、私が命を懸けねぇなんて筋が通るわけねぇでしょうが‼︎」


 少女が地を蹴る音と、兵士の剣が短剣によって弾かれる音は、ほぼ同時だった。

 視界にはさらなる援軍が見える。

 生きて帰れるだろうか。無事に妹を助けられるだろうか。

 怖い。怖くて仕方ない。


 でも。

 だけど。

 彼らからもらったこの勇気は、きっと今この瞬間以外に使う機会などないと、そう思ったから。


「私だって、私だって救いたいものがあるなのですよ‼︎」


 勇気に支えられたその歩みは、止まるという概念を忘れてしまったようだった。

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