第11話「異世界ですやすやと眠るのはもう少し先になりそう

 

 なんだが、もの凄いことに巻き込まれている予感がする。

 スワレアラ国に属するこのスタラトの町の街路の少し横に逸れた道で、俺は目の前にいる人物を眺めていた。


 そこにいるのはこのスワレアラ国第一王女、クリファ=エライン=スワレアラ。

 一つ言うとしたら、とても可愛い女の子ですね、ぐらい。

 後は何も分からない。


「えっと、出来ればもうちょっと詳しい事情を聞かせてほしいんですけど……」


「そんな時間などない! 見ろ、もうすぐそこまで追手が来ておるのじゃ! 礼ならあとでする! とにかく妾を匿え!」


「んなこと言ったって……!」


 俺が戸惑っていると、視界にこの国の近衛兵だろうか、銀の甲冑に身を包んだ兵士たちが映った。


「あ、多分助けが来たみたいですよ。俺たちみたいな初めて会った人より、そっちに助けを求めた方が──」


「違う! あれは味方などではない! 妾はあいつらに追われておるのじゃ!」


「で、でも。それにしては族には見えないような見た目ですよ!?」


「何度も言わせるでない! 妾はこのスワレアラ国の兵士たちに追われておるのじゃ!」


「それは初耳ですよお姫様!?」


「口を慎まんか蛮族! 妾が言ったと言えばそれは言ったのじゃ!」


「そんな暴論通そうとするなんてさすがお姫様⁉︎」


 どうなってんだ! どうしてお姫様が自国の兵士から追われてんだ!?

 訳の分からない事が続くが、ここで俺はあることに気付く。


 待てよ。ここでこのお姫様が俺たちと一緒にいるところを捕まるとする。もちろん、そうなった場合はこの国の兵士たちに色々とお話をするわけだ。

 俺はそっと後ろを見る。


「どうしたんだ、ハヤト? ハヤトも腹ペコか?」

「何か取り込んでいるようだけれど、どうかしたのかい? 私からは顔が見えないのだけれど、その子は君の知り合いかい?」


 俺の後ろに控えるのは魔王軍幹部と大昔に遺跡に封印された大罪人だぞ!? こんな状況でもし、この二人と一緒にいることがばれたら、お姫様誘拐なんて勘違いされちまう可能性だってある! 反逆者なんてレッテル貼られるなんてまっぴらだ!

 そこで、俺は静かに決意する。


「シアン、エストス。俺は今からこの子をあの兵士たちから匿うことになった。手伝ってくれ」


「事情はよく分からないが、まぁ聞いてあげよう。して、どのようにしてあの兵士たちからこの子を匿うのかな?」


「エストスさん。何かいい案、ないですかね?」


「そう言われても、理由もないのに誰かをリスクを背負って助けるために色々考える元気がないのだけれどね。それに私は可愛い少年が近くにいないと力が衰える病気なんだ」


 ちくしょう! 面倒くせぇ、このインテリショタコン学者! 

 でも、俺の頭に現状を打開できる案がない以上、魔道書を作るほどの力を持つエストスを頼るほかない。

 どうする。どうすれば…………そうだ!


「なぁ、エストス」


「なんだい?」


「この子を上手く匿うことが出来たなら、この俺が全身全霊をかけてエストスとあの自称勇者のエリオルの二人っきりの入浴時間を確保しようじゃ──」


「よし。このエストス=エミラディオートの名に懸けて、この娘を隠し通そうではないか。さぁ、案を伝えるぞ」


 かなり食い気味に来たのは若干腹が立つが、今はそんなことを考えている暇はなかった。






「…………いいかい。それでは、この少女を匿うとしよう」


「あぁ。二人も大丈夫だな?」


 クリファを匿う準備を整え、目の前にいるシアンとクリファに確認をとる。

 二人が頷いた瞬間に、クリファを追った兵士たちがやってきた。


「君たち。少しいいかな?」


「あ、はい。どうしました?」


「現在、この町に来ている王女クリファ様が姿を消してしまってな。もし見ていたら教えてくれないか?」


「え、クリファ様ですか? でも、クリファ様ならここに──」


 俺がそう言った瞬間、俺の隣に立っていた濁った色の布を被った人物が走り出した。


「な、なんだ⁉︎」


「あ、あの人がクリファ様です! さっき顔を見たので間違いありません!」


「くそっ! 逃すな! 追え!」


 勢いよく走り出した布を被った人物を追うために、 兵士たちは慌てて走り始めた。

 ポツンと通路に残された俺たちは、その後ろ姿を見送る。


「エストス。本当にあれで大丈夫なの?」


「とりあえずは兵士たちを騙して姿を見られずに宿に到着すれば今晩は安心して眠れるだろう。次の案を考え、準備する時間が作れれば充分だよ」


「それにしても、この魔道書って本当に凄いんだな」


 俺はリュックから取り出した魔道書と自分の隣にいる銀色の短髪と褐色の肌の少女を交互に見る。

 彼女は不安そうにキョロキョロと周りを見渡しながら呟く。


「ほ、本当に妾の見た目が変わっておるのか? 自分で自分の姿を見れないことがこんなにももどかしいとは……」


「まぁ兵士たちは騙せたみたいだし、シアンが戻ってきたら宿を探しましょう。話はそこですればいいですし」


「う、うむ……」


 銀髪褐色少女は、あまりに簡単に事が進んでしまったことに不安を抱いているようだった。


「魔道書のスキルの【変装デギーズ】でお姫様の姿をシアンに変えて、お姫様が被っていた布をシアンに被せて走らせる。単純な入れ替わりだけど、細かく見る余裕がないと意外と気づかれないもんだな」


「君の演技も中々だったよ。あれなら兵士に刃向かう意思を示していないからこの場を去ることも問題はないからね」


「じゃあ、後はシアンを待つだけだな」


 俺が呑気にシアンの走って行った方向を見ていると、不安が拭いきれないクリファが口を開く。


「おい。本当にあの娘に任せて大丈夫なのか? 足に自信があっても相手は我が国の政府じゃ。楽に逃げきれるとは……」


「それなら大丈夫ですよ。そもそも振り切る必要もないですし」


「それは一体……?」


 クリファが首を傾げた時、少し遠くから無邪気な声が響く。


「ハヤト! 言われた通りにやってきたぞ!」


 こちらへ走ってくるのは、銀髪で褐色だが、姿を変えたクリファよりもずっと体を大きくして、肥大化した胸と尻によって服が張り裂けそうになっている色気ムンムンになった美少女。

 大人の体型になったシアンを見て、クリファは目を丸く見開く。


「な、ななな……! なんじゃ、新たな刺客か……⁉︎ おのれ、しかしこのクリファ=エライン=スワレアラ、そこらの族に捕まることなど……ッ!」


「違う違う! あれがシアンだから! さっき一緒にいた女の子だから! だからそのぎこちないファイティングポーズやめて!」


「な、何を言っておる! 妾が見ていた娘はこんな、こんなふしだらな容姿ではなかったではないかっ!」


 確かに、あれを始めて見たらびっくりするよなぁ。合法ロリからの色気マックスだもん。物凄い緩急だもん。

 小さい体のシアンの状態で布を被って逃げて、細い路地に入った瞬間にスキルで体を成長させて逃げていた人物そのものを消す。戻ってきても大人シアンと子供シアンなら並んでも姉妹とかにしか見えないから、クリファの存在がバレることはない、か。


 即興にしてはかなり良くできたんじゃないか?

 俺は感銘を受けながらシアンの外見となったクリファとスキルでナイスバディになったシアンを見比べる。

 すると、クリファが不思議そうに首を傾げる。


「なんじゃ妾の顔に何か…………ッ⁉︎」


 何を思ったのか、クリファは俺とシアンへ交互に視線を送りながら声を張り上げる。


「キ、貴様ァ! 妾とこの娘のどこを見比べおった⁉︎ 答えよ! すぐさま今この場で何一つ包み隠す事なく詳細に答えよ! 答えようによっては処刑してやる!」


「何言ってんの⁉︎ こっちから見たらどっちもシアンなんだから、見比べるも何もないってば!」


 そう、現在は兵士を騙すために使ったスキルによってクリファはシアンの見た目になっている。

 つまり、クリファは勝手に自分の胸と大人シアンの体を比べて敗北を感じてしまった訳で。


「な、なななな……っ!」


 まるでりんごが熟れる様を早送りで見るかのようにじわじわとクリファの顔が赤に染まっていく。


「わ、妾は断じて自分の体の成長に不満を持っている訳でない! 妾は王女であるぞ! たとえ今この瞬間に花開かぬ蕾だといえども、きっと大輪の花が咲き乱れるのじゃ! そうじゃ! そうに違いないのじゃ! だからその哀れむような視線を止めるのじゃあああッ‼︎」


「異世界のやつらはどうしてこんなに面倒くせぇんだちくしょぉおおおお‼︎」


 鬼のような形相で俺の事を追ってくるクリファから逃げながら、俺たちは宿を探し始めた。


――――

~Index~

【クリファ=エライン=スワレアラ】

【HP】 300

【MP】 80

【力】  20

【防御】 15

【魔力】 30

【敏捷】 35

【器用】 20

【スキル】【????】

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