第35話 モンスターの正体
「ファイア、お願い!」
セリルが放った特大の火の玉はモンスターに直撃した。
「私も、お願い、ライトニング!」
火の渦に飲まれているモンスターにさらに閃光が突き刺さった。
セリルとフランの攻撃がまともに当たった。
今まで、これを食らって無事だったモンスターはいないんだ、倒せたか……?
ファイアとライトニングを受け、モンスターからは煙が立ち込めている。
煙の奥から電流の弾ける音が鳴り、モンスターは何事もなかったかのように煙から姿を現した。
効いてない……
こんな奴がいるのか、硬すぎる……初めて戦うレベルのモンスターだ……
モンスターはセリルとフランには目もくれずに進み出した。
騎士団達がモンスターに向かっていくが、子供がじゃれてくるのを抑えるように簡単に振り払い、倒されていく。
観客はほとんどが逃げ出したのか、悲鳴は聞こえなくなってきた。
モンスターがどんどんと進んでいく、このモンスター、さっきから積極的に攻撃はしてこない、まとわりついてくるものに対して反撃をしているだけだ。
人を殺すために来てるわけではないのか……
このモンスターの目的はなんだ?
モンスターの進もうとしている先には王が座っている。
王様、まだ逃げてなかったのか!?
騎士団に囲まれて未だ焦る様子もなく、足を組みモンスターを見つめている。
こんな状況なのにすごい余裕だ、自分の国の騎士団のエースがあっさりと倒されてるんだぞ……
王の余裕とは対照的に周りを護衛する騎士団員は近づいてくるモンスターに慌てふためいていた。
「ロジカ……」
ヤヨイが俺の名を呼んだ。
「ダメだよ、ヤヨイ……もう戦おうとしないで!」
ナイナがヤヨイに話しかけた。
ヤヨイは俺にバーストを使わせようとしてる。
「このままだと、みんなやられてしまう……」
「でもこれ以上戦ったらヤヨイが死んじゃうかもしれないです」
ナイナも必死でヤヨイを守ろうとしている。
「大丈夫だ、私は死なない」
モンスターは王どんどん近づいていく。
「うわぁぁぁぉぁ!」
王の護衛の騎士が一人モンスターに向かっていく。
モンスターは邪魔なものをどけるように向かってくる騎士を振り払った。
軽く振り払われただけのように見えたが、騎士は地面を転がり、気を失った。
全く相手になってない……
絶体絶命だ……
王を守らなきゃ……
ヤヨイは、死なないでいてくれる……ヤヨイは強いんだ。
《ヤヨイが追い詰められてます、バーストを使いますか?》
「……」
決心するんだ。
ヤヨイの手を握った。
「絶対に、絶対に無事でいてくれよ」
本当はもっと色んなことが伝えたかったのに……
これくらいしか言えなかった……
「……当たり前だ」
いつも通りの飄々とした答えが返ってくる。
なんか少し安心した。
「バースト……頼む」
俺の言葉と共にヤヨイから青い光が溢れ出した。
ナイナが座り込んでうつむく。
「なんで……」
ヤヨイは何も言わずにモンスターに飛び込んでいった。
モンスターはすぐ様ヤヨイに気付き、反応した。
ヤヨイはモンスターに斬りかかった。
すごいスピードだ、ザルムントと戦った時以上に強い力が出ているんじゃないか?
咄嗟ににモンスターは腕で剣をガードすると、モンスターに触れた剣が折れて刃先が彼方に飛んで行った。
所詮、模擬剣か……モンスターに通らなかった。
ヤヨイはすぐにモンスターから離れ、王の前に飾られていた優勝品、名刀オロチの前に進んだ。
王はまるでわかっていたかのようにオロチを取り、ヤヨイに渡す。
「これで戦え」
王の口がヤヨイにそう言っているように見えた。
こうなる事をわかっていたかのような、落ち着き払った表情だ。
新たな武器を手にして、ヤヨイは再度、モンスターと向き合う。
「クックック……予想外の奴が現れたもんだ」
そう言いながら魔法陣からヅィリィとキエルが俺の前に現れた。
「お前らこんなモンスターがいるのに何してるんだ、強いなら戦ってくれればいいのに」
俺の言葉にヅィリィは笑い出した。
「戦う? 誰と? なぜ?」
時間のない時にこいつと話してると本当に腹わたが煮えくりかえりそうになる……
「我々に戦う理由はない、それにあいつは……」
キエルが話し始めたところにヅィリィが割って入ってきた。
「皮肉なもんだよな、ずっと探していた奴とこんな風に戦うことになってしまうなんてな」
ずっと探してた奴? ヅィリィは何を言ってるんだ?
「見た目が余りに変わってしまったからあの娘は気付いてないだろうな」
あの娘……ヤヨイ……のことだよな……?
ずっと、探してたって、まさか……
ヤヨイとモンスターは互角の勝負をしている。
「そこにいるモンスターがヤマトだ!」
「ヤマト、あれがヤマトおにぃちゃんなの?」
フランにも理解ができてなかった。
ヅィリィは闘う、ヤヨイとヤマトを見て大笑いをしている。
あのモンスターが、ヤマト……?
「うっ……!」
ヤヨイの腕がヤマトと言われたモンスターの爪に引き裂かれ、出血した。
まずい、バーストの効果がもう持たなくなってきてる。
ヤヨイを守らなくちゃ。
戦う二人の下まで身体が自然に向いていった。
ヤマトがヤヨイに向かい爪を振り下ろそうとしている直前にヤヨイの前にたどり着いた。
ディスティーを倒した時と同じ攻撃だ、青白い雷をまとった一撃が俺に向かってきた。
守る! ヤヨイを守るんだ!
顔の前で交差した腕に溶けた鉄をかけられたような熱さと押し付けられる圧が伝わってきた。
電流の飛沫があたりに舞った。
耐え切れたんだ。
余韻に浸る間も無く、ヤヨイに話しかけた。
「ヤヨイ、このモンスターと戦ったらダメだ!」
ヤヨイは不思議そうに俺を見る……
ヤヨイから出ていた、光がなくなっている……バーストももう終わったみたいだ。
ヤヨイが糸の切れた人形のように一気に崩れ落ちた。
「あっ、ヤヨイ!?」
意識を失ったヤヨイを抱きかかえた。
「ヤ……ヨ……イ…………?」
ヤマトが、ヤヨイと聞いて、動きが止まった。
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