第34話 暗雲の中から現れたもの

暗い空の闇がより深くなり、まるで何者かが近づいて来てるように地響きもさらに強くなってきた。


ディスティーの一声で会場中に立ち込めていた不安は一転し、試合への関心に変わったが、この異常な状況を無視してて大丈夫なのか……?


審判の手が上がる。


不安が解消されないまま決勝が始まってしまった。



ヤヨイは剣を軽く振った。


顔色は徐々に良くなって来てる。


フラつきも無くなったけど、さっきまで起きられないほどの体調だったんだ、まともに戦うことなんて難しいだろう……



ディスティーは全てを受けきると宣言しているかのように、下段に剣を構えて、ヤヨイを待ち構えている。



ヤヨイはディスティーに向かっていく。


スピードがいままでと比べて明らかに遅い、やっぱり万全とは程遠い状態だ……



見え見えの攻撃でヤヨイがディスティーの頭部に斬りかかる。


ディスティーは余裕でヤヨイの攻撃を受けとめた。


「こんなものか!?」


ディスティーは剣もろともヤヨイを弾き飛ばした。


飛ばされたヤヨイは床に倒れこむ。



「うう……」



ヤヨイがうめき声をあげる……


「もういい、止めろ! 棄権するんだ!」


見ていられない、いっそはじきかえさずに、プロテクターを攻撃してくれればよかったのに……



ヤヨイは苦しみながらも、立ち上がろうとしている。


「どうした? 先の戦いで全てを出し尽くしたか?」


ディスティーがヤヨイを煽ってくる。


「……」

普段ならそれに向かっていくヤヨイだけど、そんな状態じゃとてもない。


「見せてみろ、先の戦いで見せた力を!」


ディスティーはバースト状態のヤヨイと戦いたいのか……?


ヤヨイが立ち上がろうとするが、立てずにいた。



「絶対に、勝つ……」


唇を噛み締めながら、ヤヨイはもう一度立ち上がろうとする。


なんで、そこまでやろうとするんだ……


《ヤヨイが追い詰められてます、バーストを使いますか?》


使う訳ないだろ……


でも……


ここまでしようとするほどヤヨイが求めてることを、俺がバーストをさせなければ、できなくなる。


どっちだ……


どっちが本当にヤヨイのためになる……



バーストをもう一度使ったら下手したらヤヨイは命に関わるかもしれない、ならやるべきじゃないのはもちろん分かるけど。



ディスティーがヤヨイに近づいて来ている。


「期待はずれだったようだな」



ヤヨイは腕で身体を起こすのがやっとで、起き上がれない。

ディスティーの言葉に悔しそうに唇を噛みしめることしか、できていなかった。



これまでか……



ディスティーはヤヨイの前で剣を振り上げた。





会場が静かになった。





大剣士練劇会がこれで終わる……





会場中の全員がそう思っていたはずだった。





試合場が青白い光で照らされた。


雷のような音がバリバリと間近で鳴っている。




ディスティーは光のさす方を向いていた。



「何者だ?」


大庭から見える城の屋上部辺りから青白く発行する人影が見える。



その人影は屋上から試合場に飛び降りて来た。


すごい高さからの落下で試合場の床はヒビが入り、石材で作られた床の破片が飛び散った。




「モンスターだ!」




観客の誰かの叫び声が聞こえた。


青白い電流をまとった二足歩行の獅子のモンスターが、会場に現れた。


なんだこいつ?

なんで突然こんなモンスターが現れたんだ?


会場は一気に騒然とした。


観客達は一斉に逃げようとするが、出口が混雑し揉み合いになっている。



「敵襲だぞ! 配置員はどうした!?」



会場にいる騎士団員が叫んでいる。



「ダメだ、外は全滅です!」



全滅?


祭の開催で、城の周りはいつも以上に警戒されていた、騎士団やそれ以外の警備員達もいたはずだけど、全員このモンスターにやられたのか?



試合場に飛び込んで来たモンスターとディスティーは向き合っている。



騎士団員の一人がディスティーに近づき、試合用の模擬剣と本物の剣を交換した。


「残念だが、試合はお預けだ」


ディスティーは、モンスターと向き合ったまま、横に座り込むヤヨイに話しかけた。



「いいのか? 伝統の行事で何があっても実施すると言ってたのに」


こんな事態に空気を読まずヤヨイが問いかけた。



「我々騎士団の本質は王を守護し、国民を安全に暮らすよう勤めることだ、その本質の前では一大会の栄誉など、あまりにも軽い」


王は騎士団に周囲を囲まれて、護られている。

こんな状況でも王は騎士団を信じてるのか、微動だにせず、真面目な顔で、モンスターとディスティーの向き合う様を見ている。



ディスティーがモンスターに向かっていった。


「国は違えどあなたも我々が護るべき対象だ、離れていてくれ」


そういうとディスティーはヤヨイを一瞬見た後に俺と目を合わせ、すぐにモンスターと向き合う。



俺がヤヨイを連れてこの場所から離れろってことか。



ディスティーがモンスターにぶつかっていった。



モンスターとヤヨイに距離ができた、今だ!


急いで、ヤヨイに駆け寄り、抱きかかえ、試合場の端へヤヨイを連れ出した。


まだ、十分な距離とは言えないが最低限巻き添えは食わないくらいには離れたはず……


「何をする! あのモンスターを倒すんだ!」


案の定ヤヨイはまだ戦うつもりだったみたいだ。


「もう無理だ、立てもしないのに」


「くっ……」


こんな状況で、十分に動けない自分が悔しいのか、ヤヨイは俺から顔を背けた。



そんな俺達にひとりの騎士団が護りに駆けつけて来た。


「ディスティーは強い、我らが騎士団で一番の守備力を誇る男だ、安心して見ているといい」


試合でなければヤヨイはお姫様だから護るべき存在ってことなのか……



ディスティーは王からも仲間達からの信頼も厚いみたいだ、モンスターは強そうだけど、なんとかしてくれるかも。



ディスティーとモンスターは力比べをするように組み合っている。


身体の大きさはモンスターが若干大きいが、力は互角か、膠着状態が続いている。



「うおおおおお!」


ディスティーが仕掛けた。


力強く踏み込みモンスターを押すと、剣を両手で持ち、斬りかかった。



風を切る音が鳴った。

剣は空振りってしまった。


モンスターがいない。

今のタイミングで躱したのか……



ディスティーの頭上が眩く光る。


光の先から青白い電流をより激しく身体にまといモンスターが現れた。


ディスティーはモンスターからの攻撃に備えて剣を構えた。



モンスターが、ディスティーに向け腕を振り下ろした。



それはまるで青白い雷だった。


剣での防御など何の意味も持たず、ディスティーの身体は地面に叩きつけられた。



激しく地面に打ち付けられたディスティーは反動でモンスターの目線まで浮き上がり、頭をモンスターに掴まれた。



ディスティーの身体はだらりと力を失っている……

モンスターはディスティーの顔を見て意識が無いことを確認したようだ。



「そ、そんな……」


ヤヨイの護衛についた騎士団が、余りの状況に言葉を失った。


騎士団のエースがたった一瞬で……

実力の差を感じ取るのにそれ以上は必要なかった。



会場がさらに混乱に包まれた。


辺りから悲鳴のような声が聞こえてくる。



「ロジカ……」


ヤヨイが俺の服を掴んで話しかけてきた。


「さっきの不思議な力をもう一度私に使うんだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る