第16話 土が凄かったみたいです

城下町に来たばかりなのにいきなり寄った生鮮食品店の店員に絡まれ? 拠点に戻る事になってしまった。


ナイナはちょっと不機嫌そうだ、予定してた買物ができずにしかも自分の作ったもののことでこんなことになってしまって複雑なのかもな……




「あのメロンは私がずっと交渉してやっと卸して貰った自慢のものなんだ、そう簡単に超えるものがあるもんか」


店員は自信満々だ、店に並んでいたメロンよりも旨いものが、あるなら食べさせてみろと言ったところなのだろう。


「ナイナ……ごめんな、後でまた買物付き合うから」


ナイナは子供のように頬を小さく膨らまして、プイッと反対を向いた。


「いきなり私の作ったフルーツを大人気店のものと比べることになるなんて……恥かくだけじゃないですか……」


「ううん、ナイナおねぇちゃんの作ったフルーツはおいしいもん! 絶対負けないよ!」


「もぉ……フラン、やめて!」


ナイナは耳を塞いで嫌がった、争いごと自体が好きじゃないんだろうな……

店員の挑戦的な態度も怖いのか距離を置こうとしている。


「よっぽど旨いんだろうな、楽しみだよ……」


店員は不敵な笑みを浮かべた。 自信があるんだろうな。


「ついたぞ、ここが畑だ」


拠点の畑までたどり着つき、店員に畑を紹介すると、荒野いっぱいに広がる畑に店員は言葉を失った。


地平線ができるほどの広い土地をナイナ1人で管理してるんだ、驚くのも無理もない。


「あんたファーマーなんだな?」


店員はナイナに尋ねた。


「そっ、そうです」


店員の鋭い視線にナイナは少し怯えている。

ナイナの反応を気にせず、店員は畑の土を確認し始める。


土を手に取り、じっくり観察し、匂いや土の一部を取りじっくりと確認している。


「ナイナ、あの人は何を見てるんだ?」


ナイナからの返事はなかった、店員が土を見ている状況をナイナもかなり集中して見ているみたいだ。


「なぁ姉さん、この土、魔導石を使ってるのか?」


店員がナイナに質問する。


「はい、種と肥料を魔導石で作ってます」


「……」


店員はまた黙り込み土を見だした。


「ねぇ、ロジカおにいちゃん、あの店員さんさっきから何を見てるの?」


確認の長さにフランが退屈そうに聞いてきた……


「俺もよくわからないけど、俺らの畑の大事なところをみてるんだと思うよ」


「ふぅん、そうなんだ……」


フランは露骨に暇そうだ……



結局フランは退屈に耐えきれず遊びに行ってしまった。


さらにしばらくして、ようやく店員は立ち上がった。


「すごい土だ。 この土は宝石以上に価値のあるものだぞ」


この人なんだか凄いこと言いだしたぞ。


ナイナはホッとしたのか嬉しそうにしてる。


「作物ごとに肥料の配合を変えるのはもちろん、栄養価やあらゆるバランスを考えて配置も整えられている、そして、魔導石の使い方が、特にすごい」


「えへへ、そんなこと……」


謙遜してるけど、ナイナはすごく嬉しそうだよっぽど力を入れてるところだったのか。

俺らの知らないところで気にかけていた部分なのかもしれない。


「ファーマーが魔導石を使う時は生産性の向上を目的に使用することが主になるが、この土はそれだけじゃない。 旨味と栄養にも十分に目を向け最高の味が引き出されるように作られている」


「そういえば、私、ニンジン嫌いなのにナイナおねぇちゃんが作ったのなら食べれるよ」


あれ、フランが戻ってきてる。


店員が畑のメロンを手に取った。


「じゃあそろそろ目的のメロンを味見させて貰おうか」


手に持っていたナイフでメロンを一口大に捌く。

捌いた一欠片をナイフで刺し、そのままほうばった。


人が何かを食べているのをここまで真剣に眺めるのは初めてだ。


ナイナが手塩にかけて作ったメロン、どう評価されるんだ……


店員の食べるのを俺たちは息を飲んで見守った……



突然、店員は気を失うかのように、腰を落とし膝をつく。


口を手で抑えている。

まさか口に合わなかったか……?


「お、お口に会いませんでしたか……?」


慌ててナイナは店員に声をかけた。


店員がナイナをゆっくり見上げる。


「脱帽だ……こんな旨いメロン始めてだ……」


あまりの旨さに店員は目が潤んでいる。

ナイナがようやく顔が緩んだ、ずっと緊張してたみたいだ。


「お口にあってよかった、他にも色々作ってるんで食べてみてください」


「ああ、是非味見させてくれ!」

店員は目を輝かせている。


その後も店員は野菜を食べ、その度に疲れそうなくらい大きなリアクションを取ってナイナの作ったものを味わっていった。


「いやぁ、私の負けだ! こんな畑があったなんてな!」


店員はここにくる時とは別人のように笑顔ではしゃいでいる、負けたと言いながらすごく嬉しそうだ。


「ね、おねえちゃんのメロン美味しかったでしょ!」


「あぁ、最高のメロンだった! なによりな、この野菜達すごくあんたらの事を考えて作られているな」


えっ? 俺らのことが考えられている?


「えっ、いや……そんな大それた事してるわけじゃ……」


「元々魔導石の使い方が上手い事もあるだろうが、この繊細な身の付け方や味はただ作ってできるものじゃない、きっとこの土を研究して試行錯誤した結果の賜物だそれもこれを食べるみんなのことを考えてな」


「そうだったのか……」

ナイナ……ファーマーだから土いじりが好きなのかなってくらいに思ってたけど、そこまで苦労してたのか……


店員はナイナに近寄り、手を握った。


「えっ、なに? なんですか?」


「私の名前はクリーナ。 是非この野菜達を私に販売させて貰えないか?」


商売人なだけあってタダでは起きないか……

これだけ広い畑で俺らだけじゃ余るだろうし、全然いいことだと思うけど。


「さんせーい! こんなに美味しいんだもん色んな人に食べてもらおうよ!」

フランもクリーナの提案にぴょんぴょん飛び跳ね手を挙げて賛成している。


「こんなもので、いいなら私は構わないですけど……」


「ナイナ、俺は賛成だ、クリーナさんがこれだけ褒めてくれるんだ、この野菜をみんなに味あわせてやろうよ」


「……はい、わかりました」


ナイナの許可を聞き、クリーナは蔓延の笑みを浮かべた。




バタバタしていたまま、クリーナは野菜の販売の契約をあっという間に取り付けた。


クリーナは定期的に野菜を受け取りに来て、販売代金と、プラスここでの生活に必要な品々を持ってきてくれることになった。


なんでもクリーナの家系は代々流通をしてきたようで、市場の簡単なものならなんでも関わって持ってこれるらしい。


「突然押し入ってしまって悪かったな、これからもよろしくな!」


「クリーナさんまたね、また遊びきてね!」


「ああ、フランまた遊ぼうな!」


フランもいつの間にかクリーナと仲良くなったようだ。


さっぱりした様子でクリーナは帰っていった。

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