第15話 城下町まで買物へ行きました

澄んだ空気に木陰から差し込む優しい光、頬を撫でてくるような心地よい風も悪くない。


「いい陽気だな」


俺の座るテーブルの前にヤヨイが湯呑みを置いた。


「ああ、すごくいい天気だ、そんなことよりな……」


テーブル一面に空になった湯呑みが並んでる。


「俺はいつまでお茶を飲み続ければいいんだ……?」


ヤヨイのサブスキルを茶道に設定してからと言うもの、時間があるとヤヨイはお茶を作るようになったが、毎回それを飲まされる……

まずくないが、時間があるときはずーっとお茶を飲まされて俺の腹はお茶でパンパンだ。


落ち着きを持ってもらうために始めたのに、こうのめり込まれると、思っていたことと違うような……


「なんでだろうな、この前からお茶が妙に作りたくなってしまって、今までこんなこととなかったんだけどな」


出されたお茶を一口すする。


渋いけど、旨い。 お茶入れるのは間違いなく上手くなっているんだけどなぁ……


「うええ……私この飲み物苦手ぇ……」


セリルも俺と一緒にお茶を飲んでいる。

ただ渋いお茶は苦手なようだ。


「セリルにはまだ早いかもな、私が作ったお茶は渋みを濃くしてるからな」


「私もいつか飲めるようになるのかな?」


「もちろんだ、団子や饅頭といった和菓子とお茶はすごく合うんだ、渋いお茶が飲めるようになったら最高だぞ」


「ワガシ? 何それ、美味しそう!」


セリルはヤヨイに懐いていて、いつもヤヨイの後をついている。


逆にフランはナイナと仲良くしてるみたいだ。


セリルとフランが拠点に来てから拠点が明るくなったような気がする。子供がいるも活気がでるな。


この前のクエストで魔導石がまた手に入って、畑はより豪華になった。


季節を問わずあらゆる野菜とフルーツが用意できて、それも飛び上がるほど旨い。


ただ肉がないのがなぁ……ナイナのレベルが上がればそれも出来るようになるらしいけど。


「ロジカさーん」


偶然だ、ナイナの事を考えてたらナイナから呼び出された。

なんだかムスッとした顔をしてる……


「買物付き合ってくれるって言ってたじゃないですか!」


「あっ、忘れてた……」



◆◇◆


ナイナに連れられ城の周辺にある市場に来た。

ナイナに懐いてるフランも一緒だ。


今日は俺はただの荷物運びだ。

ナイナは拠点で留守番をしてくれていることが多いからたまには外に買物とかがしたくなるみたいだ。


「すごーい、いろんなものが置いてある!」

フランは城下町の市場に感動している。


ここに来るのは俺もはじめてだが、すごい賑わいだ。

様々な食材から、衣服、生活用品だけでなく、武器まで扱っている露店がある。


「ナイナはこういうところ来るの初めて?」


「うん! ほとんどは暗いお部屋の中で勉強したり、訓練したりしてたからこういうのは初めて! 人がいっぱい!」


「ここはすごいのよ、この国が管理してる周辺の街を含めても一番大きい市場なの」


俺の住んでた街でもここまででかいところはなかった。

確かにここは大きい。


フランは色々な売り場を興味深そうに眺めている。


「せっかくならセリルも連れてきてあげたらよかったね」


「うん、でもセリルはヤヨイおねえちゃんと仲良しだから着いてくるかなぁ」


「ヤヨイ、買物とか好きじゃなさそうだもんね……」


ナイナとフランの話してるところは年の離れた姉妹のようだ。


「何あれ! すごい人の集まり」


沢山ある露店の中でひときわ人だかりのできている場所にフランは向かって行った。


「らっしゃーい!」


フランについて人だかりのできた店の近くまでいくと威勢のいい声が聞こえてきた。


生鮮食品を取り扱ってる店か。


肉や魚、そして数々の野菜やフルーツを取り扱っている。


「おっ! お嬢ちゃん初めて見る顔だねぇ」


威勢のいい店員はねじり鉢巻を巻いた、ショートヘアーの若い女だった。

人だかりの中でフランを見つけて声をかけてきたようだ。


「うん、私初めてここに来たの、このお店沢山お客さんがいるんだね!」


店員は嬉しそうにフランに返事する。


「そうさ、この城下町の食材はうちの店が支えてるんだ、どれも自信の食材だぞ!」


店員は並べられている、フルーツの中から、メロンを取り、ポンと上に放り投げた。


集まる客がおおっと歓声をあげる。


店員は果物ナイフを取り出し、放り投げたメロンを空中で捌くと、一口サイズに分裂し、用意されていた、皿の上に積み上がっていった。


すごいナイフ捌きだ。

フランを含め、客はその手際に見とれていた。


「すごいな、この店、いつもこんな感じなのか?」

俺はナイナに質問した。


「そうですね、ここは安くて新鮮で、店員さんも元気で明るいんで、いつも人気です」


店員が皿に盛られたメロンを客に配り出した。


「これがうちの自慢のメロンだ、是非味見してみてくれ!」


フランが味見したそうにメロンを配る店員に手を伸ばす。


「はいよ、うちの抜群に旨いのメロンだ、気に入ったら買って貰ってな!」


フランもメロンをもらう。


「わーい、いただきまーす!」


嬉しそうに口にほうばった。


「……」


あれ? さっきまで嬉しそうにしていたフランが黙り込んだ。


周りのメロンを配られた者たちは次々にメロンが旨いと言いはじめてるのにフランはひとり不満そうだ。


「お嬢ちゃんどうした? 美味すぎて声がでないか?」


店員が黙り込むフランに声をかける。


「お家のメロンの方がずっとおいしい……」


盛り上がっていた、店の前が静まり返る。

店員の表情が変わり、真顔で険しくなった。


「ちょっとフラン! そんなこと言わないの!」


ナイナが恥ずかしそうに顔を赤くしながらフランに駆け寄る。


「ごめんなさい、この子世間知らずでついご迷惑な事を言っちゃって……」


申し訳なさそうに謝るナイナに店員が近寄る。


「このメロンより旨いメロンがあんた達の家にあるってのか?」


「えっ?」


店員に詰め寄られナイナは困惑しはじめた。


「あるよ! このナイナおねぇちゃんが作ってるんだよ!」


「あんたが作ってるだと……?」


「えええぇ……」

ナイナはパニックで目を回し出した……

静まり返っていた周りが徐々にざわつき出す。


「すごいおいしいんだよ、おねえちゃんのメロン」


「うちの一番自慢のメロンがこんな、か弱そうなねえちゃんに負けるもんか!」


店員はフラン相手にムキになり起こっている。

大人気ないけど、それだけ本気ってことなのかな……?


「ねぇねぇロジカおにいちゃんも食べてみてよ!」


「えっ……あ、いいけど……」

仕方なく皿に残ったメロンをフランから受け取る。

店員がギラついた目で俺が食べるのを見つめる中、メロンを口にした。


おっ、旨いメロンじゃないか、身もしっかりしてて、それでいて口の中で解けるように溶けていく、甘味だって十分だ。


でも……すごく旨いメロンだけど、確かにナイナのメロンの方がもっとしっとりしてて旨いかもしれない……


「本当だ、ナイナのメロンの方が旨い……」


「でしょ!」

フランが嬉しそうに俺の手を握った。


店員が俺を威嚇するように顔を近づける。


「そこまでいうなら是非食べさせて貰おうじゃないか、そのメロンを!」


しまった、つい本音を言ってしまった……

店員がめちゃくちゃ怒ってる。


なんか変な事になってきたぞ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る