第12話 ようやく苦難が去りました

《フランをテイムしました》

《セリルをテイムしました》


できた、これで2人の能力が上がるはずだ。


「「えっ、何これ……」」


セリルは自分の手を見つめてる、溢れてくる魔力に驚いているみたいだ。


「魔力が増えてるのがわかるか?」


「うん。 お兄ちゃんが何かしたの?」


「あっ、そ、そうだよ」

お兄ちゃんって……そんな事態じゃないのに、思わず照れてしまった。


セリルのサーチウィンドウに文字が表示された。


→ 《命令する》

《全力で攻める》

《セーブして戦う》

《守りながら戦う》


ヤヨイの時と同じだ。 ここは逃げてる場合じゃない。


→ 《全力で攻める》


「セリル、なんでもいい、ドラゴンに思い切り魔法を使うんだ」


「でも、さっき効かなかったよ……」


ドラゴンが腕を振り上げてきた。

まずい、早くしないと。


「俺を信じろ、何でもいいから魔法を使ってみるんだ!」


「は、はいっ!」


セリルは慌てながら、顔の前で手を合わせた。


ドラゴンの頭上に魔法陣が現れた。

先程セリルが火の玉を出した時とは比べ物にならないほど大きく、ハッキリとした魔法陣だ、これだけでも魔力の充実がさっきとは違うことがわかる。


「お願い出て!」


セリルの言葉に反応するように、魔法陣から雷が出てきた。


空気が悲鳴をあげるように雷鳴が轟き渡る。

洞窟に響く轟音にみんな耳を塞いだ。


「うっ、すごい音だ……」


すごいのは音だけではなかった。

魔法陣からでた雷は急流を落下する滝のごとく流れ出し、ドラゴンに直撃した。


ドラゴンが口を開け悶えている、叫び声も上げているのだろうが、雷鳴の轟音でドラゴンの声は掻き消され、聞こえない。


ドラゴンは白目をむき、その場に倒れ、その衝撃で地震が起きた。


なんと一撃でドラゴンを倒したみたいだ。


雷鳴が鳴り止み、洞窟に静けさが戻る。


「あんな小さい火の玉しか出せなかった子が、こんな威力の魔法を使えるようになるのか……」


自分自身の能力が少し怖くなった。


「今の……私が出したんだよね?」


セリルも驚きを隠せずにいた。


「そうだよセリル! ずっと練習してきたサンダーがやっと出せたんだよ!」


「す、すごい……不思議だけど力が溢れて来て……」


「私もなの、これがヅィリィさんの言ってた覚醒ってことなのかな」


2人ともまだ顔が引きつって入るけど、ちょっと安心してるみたいだ。

じゃあ改めて2人を誘うか。


「フラン、セリルさっき言った事なんだけど……」


「いやぁ、素晴らしかった!」


俺の話を遮ってヅィリィが2人に話しかけた。

2人の顔がまた強張る……


「セリルぅ……あんな魔力を出せるなんてなぁ、俺にも隠していたなんて悪い子だな!」


気持ち悪いほどにデレた表情だ。

セリルは迫ってくるヅィリィの圧に押され後退りしてる。


「厳しいことを言って悪かった、これも君達を成長させるための芝居だったんだ、俺も胸を痛めてやってたんだが無事でよかった、本当によかった」


すごい手のひら返しだ……ヅィリィという人間に嫌悪感を抱いてきた。


「さぁクエストも達成したんだ、帰るとするか」


フランとセリルは顔を見合わせた。

戸惑っているようだが、そんなこと御構い無しにヅィリィは2人を連れて行こうと背中を押して進み出す。


ふざけるな、このまま行かせてたまるか!

「待てよ!」


俺の言葉にヅィリィの足が止まった。


「何か用か? このクエストはうちのギルドの有能な新人がモンスターを倒して終了したんだ、もう関わる事もないだろう」


「ヅィリィ、お前となんて話す気はない!」


「なに……」

ヅィリィが目を剥き出し俺を睨みつけた。


「フラン、セリル! このままでいいのか!? そのギルドにいたらまたそんな奴と一緒にいなきゃいけないんだぞ!」


フランとセリルはヅィリィと目を合わせないように下を向いている。


「ハッキリ言ってやる、どんなに規模がでかくても、どんなに強い奴がいたとしてもだ、マトモな人間がいないような組織はクズだ!」


2人は俺の顔を見つめている。


「言ってくれるじゃないか……」


殺気だ……ヅィリィの奴、殺しかねないくらいの勢いで俺に詰め寄ってきた。


「でも……私達にはこのギルドしか……」


《あなたの命令を待ってます、命令をしますか?》

フランとセリルへ命令して一緒に来させるってことか?


いやダメだ、無理やり来させても意味がない、フランとセリルが自分の意思で来たいと思ってくれないと、ヅィリィのギルドと同じだ。


「ロジカを信じろ、お前らは私達と一緒に来るんだ」

ヤヨイがフラつきながら立っている、迷っている2人に向けてまっすぐ目を合わせて伝えた。


「何を言っても、2人の気持ちは変わらないぞ。 フランと、セリルは物心着いたときからソウルガンドにいるんだ、言ったらソウルガンド全体が家族のようなものなんだよ」


ヅィリィは白々しくフランとセリルの頭を撫でる。

2人は拒否することができずに下を向いたまま撫でられ続けていた。


「2人から言ってやれ、ソウルガンドにケンカを売ってくるようなバカな奴らには用はないってな」


2人の肩をポンっと叩いた。


フラン、セリルはお互い目を合わせて、うなづいた。


決意は固まったみたいだ。


来い、フラン、セリル!

そのギルドから抜けるんだ!


2人は深呼吸をする。


「「せぇぇの!」」


ヅィリィの手を振り抜けて2人で走りだした。


「あっ! 貴様ら!」


「「私達、ソウルガンドを抜けます」」


分かってくれた!

これで、2人を連れて帰れる……


いや、まだか……ヅィリィの様子がおかしい。

もともとボサボサの髪をしている奴だったが、さらに乱れゆらゆらと揺れている。


「ここまでバカにされたのはあの時以来だよ……」


ヅィリィの魔力が漏れ出して煙のように立ち込めている。

何かブツブツと呟き出した……こいつ壊れてる……


「貴様ら全員、終わらせてやる!」


ヅィリィの周りにいびつな形の魔法陣が現れては壊れ消滅を繰り返している。

見ただけでわかる異常な状態だ……


「ヅィリィさん落ち着いてください、ヤマトの二の舞になりますよ」


荒れるヅィリィをダルリンがなだめるが、落ち着く様子はなさそうだ。


「おい! お前ヤマトを知ってるのか!?」


ヤヨイがダルリンに大声で問いかけ、足を引きづりながら近づいていく。


ヤヨイが「ヤマト」と叫んだ声を聞くと、ヅィリィから出る魔力の煙は収まった。


「貴様、あの化物と知り合いだったか」


ヅィリィが少し落ち着いたようだ。


「質問してるのはこっちだ! ヤマトはどこにいる?」


突然ヅィリィが大声で笑い出した。


「そうか、あいつを探してるのか……クーッフフフフ、会えるといいなぁ」


「答えろ! おい!」


ヤヨイの質問をよそにヅィリィは背を向けた。


「もういい、帰るぞダルリン」


そう言うとヅィリィを中心に魔法陣が現れ、ヅィリィはいなくなった。


残されたダルリンがフランとセリルに話しかける。

「ソウルガンドを抜けたのは失敗だ、後悔することになる……」


そう言い残してダルリンも魔法陣を出し、消えていった。


「フラン、セリル、あいつらを追う事はできないか?」


「えっ、そんなこと言われても……」


「私達にはそんな力ないよ……」


いつも突っ走るヤヨイだが、それに増して様子がおかしい。


ヤマト……

何者かはわからないけど、そいつがヤヨイとそしてソウルガンドと何か関係ある奴なのか……?

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