第10話 魔導師ギルド『ソウルガンド』

「いいか、俺は崖から落ちたんじゃない、ショートカットしただけだ」


「……」


「疑っているようなら、今度は浮遊魔法でも見せようか」


「ヅィリィの凄さはわかった、もういいよ……」


黒服の仲間を待つため、ヅィリィはこの場に留まることにしたらしい。


俺らは動きたいが、ヤヨイが足を怪我してしまって動けない……


そのせいでヅィリィのよくわからないカッコつけた言い訳を聞かされるハメになった……


「こうなったのも何かの縁だ、悪気も無かったようだし、集会所の件は水に流してやろう」


「別に私は許して貰わなくてもいい」


「そういうなよヤヨイ、集会所の事は流石に俺らに非があるんだ」


「……ロジカがそういうなら、それでいい……」


妙に素直だ、怪我してるからかな。


「ところで、ヅィリィ達は同じ服を着てるけど、何の集まりなんだ?」


俺の質問にヅィリィは驚いたような表情をした。


「なんだ、俺達の事、知らなかったのか、このギルドの知名度もまだまだだな……」


「ギルド?」


「覚えとけ、俺達はソウルガンドという名の魔導師ギルドだ」


「ソウルガンド……」

世間に疎い俺は知らないけど、集会所が盛り上がるくらいには有名なんだろう。


「そして俺はソウルガンドの幹部。このギルドを知ってるのなら幹部と聞くだけで震え上がるものがいるほどの存在だ」


「なんか胡散臭いな……」


またヅィリィがピキピキと青筋を立てている……

ハッキリと言うヤヨイとヅィリィの相性は最悪だ……


この空間にずっといたら胃が痛くなりそうだ。

とにかく話題を変えたい。

「なぁヅィリィ、一緒にいた仲間達も幹部なのか?」


「まさか。1人はともかく、双子の子供はうちの落ちこぼれだ」

ヅィリィは俺の顔を見てわかってないと言いたげな表情をした。憎たらしい顔だ……


「双子ってあのフランとセリルって子か」


「名前を覚えてたか……そうだ、あの双子にはセンスがない、いつまでたっても魔法は初期魔法しか覚えられないし、魔力も少しも成長しない、もう1人のダルリンはまあまあだがな」


「そんなこと言わなくても……まだ10歳くらいだろ? これからいくらでも伸びる可能性があるだろう」


ヅィリィは俺を見下すように笑った。

「全くわかっていないようだな、魔導師は努力でなんとかなるようなものじゃない、生まれつきのセンスなんだ、それがなければいくらやっても大成することはない」


ヅィリィは数々の魔法陣を自慢げに手のひらから浮かび上がらせる。


「あの子ら位の年齢の時であれば、俺は上位魔法を使いこなせるようになっていた。まあ俺と比べるのはかわいそうとしてもだ、10歳で初期魔法しか覚えられないようなものはお荷物としか言いようがない」


「ロジカ、私こいつが嫌いだ」


「…………俺も……同感だ」


なんであんな小さい子達がそこまで言われなきゃいけないんだ、能力が伸びないのは教える側の人間のせいかもしれないのに。


「貴様らがどう思おうが関係ない、これがうちのギルドの方針なのだ」


ガサガサと物音がした。何かがくる。


「フフフ、ようやくお荷物達がここまでやってきたようだな」


「お荷物ってあのモンスターの事か?」


ヅィリィの後方からドラゴンがノソノソとこちらに向かってきた。


「うおっ!?」


ドラゴンに気付いたヅィリィは驚いて仰け反る。


この洞窟ドラゴンの住処なのか……

そりゃDクラスのクエストの洞窟だもんな。


はじめてドラゴンなんて見た、四つん這いでキバをむき出しながらこちらに向かってくる。

間近で迫ってくるとすごい大きさだ。


「な、なんだドラゴンか……」


「また間違ったな……ヅィリィ、ビックリしてたろ?」


俺の言葉にヅィリィは顔をしかめた。


「俺は、間違ってなどいない、ほら、そこから俺の部下達が現れるぞ」


「ヅィリィさん、待たせてすいません」


洞窟の上にいたヅィリィの仲間3人がやってきた。


「遅いぞダルリン、丁度ターゲットが現れたところだ」


黒服の1人、ダルリンに向かってドラゴンを親指で示した。


「うわわわ……こんなおっきいモンスター、どうやって倒すの……」


「セリル、大丈夫だよ私達にはヅィリィさんもダルリンさんもいるんだから」


ドラゴンを見ても動じないダルリンに対して、フランとセリルはいきなりパニックになっている。


「2人とも落ち着けソウルガンドのメンバーがそんなことでどうする」


フラン、セリルに対してヅィリィが喝をいれた。


そんなヅィリィ達の前にドラゴンが襲いかかろうと迫ってきた。


「おい、ヅィリィ! ドラゴンが来て……」


ドラゴンが爪でヅィリィを引き裂こうとしたとき、ドラゴンとヅィリィの間に魔法陣が浮かび上がった。


「お前に言われるまでもない、当然来てるのはわかっている」


ヅィリィがそう言った後、ドラゴンの巨体はヅィリィの反対方向に吹き飛び、岩場にぶつかった。


ドラゴンの巨体があんな簡単に飛ばせるのか……

ヅィリィはムカつく奴だけど実力は確かなようだ。


「フラン、セリル、これくらいでDクラスのモンスターはやられないぞ、次は2人で倒すんだ」


こんなモンスターをこの子供達だけで倒す……?

無茶だ……さっきヅィリィも初期魔法しか使えないって言ってたじゃないか……


「フラン、がんばろ」


「うん……セリル、回復は任せて」


フランとセリルは震えながらお互い励まし合っている。


「無理だ、やめとけ……死ぬぞ」

ヤヨイが2人に声をかける。


「うちのギルドも問題に口を出すのは辞めてもらおう」


ヅィリィがヤヨイを遮るように話す。


「わかってるな2人とも、ドラゴンに挑むよな?」


「「はい、やります」」


2人が声を揃えて答えた。


「もし、ドラゴンを倒せずに君達が生き延びてしまったらどうする?」


「「死にます……」」


2人の返事を聞いてヅィリィは高笑いをあげた。


「こいつ……最低だ……」


ヤヨイがヅィリィをにらんでいる。


このギルドおかしい……

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