アリカ様は諦めない
「妹様。本当に、カレン様の解放を手伝って頂けるのですか?」
ここは、藤宮家の次女であるアリカ様の部屋。
私はそのアリカ様の使用人、
都内の高校に通う、18歳。日本人とイギリス人のハーフで、金髪碧眼の超絶美……と、そんなことはどうでもいい。
私は今、久しぶりに家に帰宅したお父様に監禁されしカレン様を救出すべく、アリカ様と交渉しているのだ。
「ええ。晩御飯の時に、睡眠薬を入れれば良いのでしょう?」
「そうですけど……アリカ様は、お姉様のことがお嫌いだったのでは」
中学生にしては大人びた雰囲気を持つ妹様は、眉をぴくりと動かした。
「……利害の一致ですわ。わたしも祭りに行きたいですしね。それに」
黒髪ロング清楚系であるが、花のある貧乳(フォロー)を持つアリカ様は、口に手を当てて笑った。
「わたしが嫌いなのは、かつてのお姉様です。今のお姉様は、もう違う人物だと思いますわ」
「……随分お変わりになられましたよね、カレン様」
まるで、人と関わりを持とうとしなかった時のお嬢様とは大違いだ。
となると、後の害悪はお父様のみ……
「私も給料を減らされたので。黙っていませんよ」
「恨み節とは、ハリリエット。情けないですわ……」
まぁ私は、鈴木蓮二という男に借りがあるからね。親に勘当されて、路頭に迷った私を拾ってくれたのは、あの男だったから。
「お姉様の使用人も、随分と人助けをしてきましたわね。あの人の頼みを断る理由なんて無いでしょう?」
そう、鈴木蓮二。誰かを助けることは、巡り巡って自分を助けることになるから。
だから、エゴだなんて言わないで。
「今夜の花火はきっと、今までで一番綺麗な花ですね」
私は思いっきり柄にも合わないことを言ってしまったが、妹様はそれを笑わなかった。
「……そうね。一番美しいと思いますわ」
彼女は微笑を浮かべた。
その顔はほんの少しだけ、カレン様に似ていた。
「なんの話をしているんだ?」
「!?」
その時、部屋のドアがガラッと開いた。野太い声と共に、お父様とカレンお嬢様がやってきた。
しかめっ面をした成功者が、私たちを見下ろす。しばらく顔を見ていなかったが、やはり目に入れると頭痛がするようだった。
「こちらの使用人は家にいたのか。全く、随分と利口だな」
「あら、お父様。夕飯まではまだ時間がありますのよ?」
小さな体で、妹様は精一杯のジョークを言う。しかし、お父様は頷くことすらせず、
「今日は何の日か知ってるか?」
まるで、妹様を試すかのような質問をした。
「勉強に打ち込む日ですのよ。周りの人間がダラケている間、努力で出し抜こうとしていますわ」
アリカ様は、思ってもいないことを言う。それを見て、実父の後ろにいたカレン様が頷いた。
「藤宮家の人間に、怠惰は許されない……ええ、よく心得ているわね」
「出来のいい妹を持ったな、カレン」
微笑を浮かべる姉に、アリカ様は思わずたじろいだ。
やはり、姉への苦手意識が抜けていないのだろう。もしかして、お父様はカレン様をも言いくるめてしまったのか?
そこまでして、この男は娘を愛情という鎖で締め付けようというのか。
「笑わせるな。アリカ、
そう言って、お父様は部屋から出ようとした。それにカレン様も続こうとするが、その大きな背中を見て、私は思わず声を張り上げた。
「お父様! どこへですか……!?」
すると、その背中は立ち止まり、やがてこちらを振り向いた。
少しの間を置いて、お父様は厳然たる口調でこう言った。
「早くしろ。花火が始まってしまうではないか」
真顔でそう言い放つお父様に、私の頭はこんがらがった。
そして、お父様の隣にいるカレン様が上品に微笑んでいる。
そうか、聞き間違いではなかったのか……!
「ありがとうございます、お父様」
私は深々と頭を下げた。それは普段のような社交辞令ではなく、自然と身体が動いたものだった。自分で社畜だと自覚はしていたが、人の心はまだ捨てていなかったようだ。
そして、妹様もまた泣きそうな目で頷いていた。よし。定時はとっくに過ぎているけれど、今日はもう少し付き合ってあげるか。
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