お嬢様はもてなしたい
「ようこそ。我が藤宮家へ」
私はわざわざ正門の前まで顔を出し、二人を出迎えた。
白いブラウスに赤いスカートを履いて、私は胸を張って立っていた。
……と、特別よ!!
わっざわざ! この私が出迎えてやってるのよ!
あのシスコンが今日、妹とデートするって言うから仕方なく!
「いや、なんていうか──帰っていい?」
「ダメに決まってるじゃない。さぁさぁ、たっぷり我が家をご堪能しなさい」
「圧倒的な大きさですね……!!」
二人の紹介を軽く。
「キレイだな」
「泥棒が入ってもすぐに捕まえられそうですね!」
私は顔認証でドアを開け、彼女らを案内した。
それにしても、この私が家に友達を招き入れることになるとは……我ながら成長したと思う。
「着いたわ。ここが私の部屋よ」
「でかっ!」
「なんですかこれぇ!!」
私の部屋に入った二人は、驚きの声を上げていた。
「もうリビング並みの広さじゃんか……」
「テーブルの下に座布団があるから、そこに座って適当にくつろいでいて頂戴。私はお茶でも持ってくるわ」
そう言って、私は部屋から出た。
蓮二がいたら、こういうのも全てやってくれたのかしらね……
でも、自分で誰かをおもてなしするというのも悪くないわ。
「お茶持ってきたわよ──って!?」
私は部屋に戻ってきた瞬間、思わず持っていたコップを遠投しそうになった。
そこには、将棋盤を挟んで対局していた二人の姿があった。
「ねーカレン先輩! ここって飛車を振るより守り固めた方がいいですか?」
「そうね……相手の枚数が明らかに足りないからここは振っても良さそ──じゃないわよ!! 何故将棋をやっているの!?」
「なんかテーブルの上に置いてあったから、やりたくなっちゃってさ」
「別に良いけども……」
そういえば、蓮二とやった後にしまうの忘れてた……。
結局あいつ、「明日に備えておきたいのでカレン様、後片付けよろしくお願いします☆」とか言って寝たし。腹立ったけどおねだりする蓮二はレアだから許してやったわ!
「私がお茶を注いでいた短い時間に、対局が進みすぎじゃないかしら?」
盤上に目を落とすとわかるのだけれど、明らかに進行が早い。
将棋はもっとじっくり考えてやる競技だ。
「え、でも普通だと思います。カレン様帰ってくるの遅かったし」
「遅くて悪かったわね……」
結局、その後も一時間ほど対局を見せられた。私はただ座りながら黙々と観戦していた。
「ふー。恋バナでもするか」
将棋が終わって一息ついている間に、彩海はそんなことを言い始めた。
私達は将棋盤を片付けて、ようやく女子っぽい事を始めようとしていた。
「じゃあまず、カレン先輩の恋バナを聞きましょう!」
「ダメだ、伊代。さっき負けたんだしお前からな」
「ふぇぇ……」
なんか可愛い鳴き声が聞こえたがスルーして、私はお茶を一口飲んだ。うむ、もう完全に冷めている。
「わわわ、私はもちろん蓮二くんが好きですよ?」
「………!」
「あっ、伊代。その話題はマジで終わるからやめとけって!」
……クソ後輩。貴女はそうやって私をおちょくるのね。
「伊代ちゃん。冗談は良くないわよ?」
作り笑いを浮かべて、私は圧力をかける。
が、彼女は全く臆することなく、
「本気です! 私は、蓮二くんが好きなのです……!!」
「よーしもういいわ。いっぺん表出ろ」
「や、やめろって二人とも……。ってか、伊代! その話題出すとかKYにも程があるわ!」
私は立ち上がり、伊代ちゃんを睨んだ。こいつは敵だ。私の人生設計の邪魔をする大馬鹿者だ……!
この私、藤宮カレンの努力を知らないから、そんな誇大妄想ができるのよ! このっ!!
「というか、カレン先輩は蓮二くんのこと好きなんですか?」
ええ!? 私が怒ってるのよ!?
なんで割とこの子はいつも通りなの? 腹立つんですけど。
────ハッ!?
もしかして、私はまだ蓮二が好きなことをこの子らに伝えていなかった!?
「あ、えーっと……」
これはマズい。伊代ちゃん、本気でわかってなさそう……!
「どうかしました? おーい、おーい」
ここで安易に好きと言ってしまうことは、私のプライドが許さない。
噂が広まるのは嫌だし。でも、ここで嘘をつくのはもっと嫌!!
「いや、多分カレンは蓮二のこと好きだぞ」
「なんですと!?」
「えっ」
二人はとってもニヤニヤしながら私の顔を覗いてきた。
え、なんでなんでなんで……
私は特別、何も蓮二について話したことはないはず……!
「まず初対面の時、カレンは蓮二のことを呼びに教室にやってきた。まぁここまではいいだろう。だが、翌日もその次の日も。教室を覗きに忍び足でやってきたり、廊下で話す蓮二を色っぽい目で見ていたり──バレバレなんだよ!! お嬢!!」
「いやー!」
「なるほどなるほど〜。どうりで私が蓮二くんの話題を出した時は嫌な顔をしつつも興味津々だったんですね!!」
あー腹立つ。斉川伊代、マジで腹立つ。
その余りきった脂肪(おっπ) 、切り裂いて精肉店に売りつけてやろうか?
「でもやっぱり、私は蓮二くんが好きです。引き下がれません!」
「いやいや。私の方が好き──というか、一緒にいる時間が違うでしょう? 貴女に勝ち目はないのよ」
「ぐぬぬ……ありますよ! 大体、蓮二くんは私が話しかけたらいっつも笑ってくれるんですから!」
なん、ですって──!
いつも? いつもですと?
ち、違うわ! それは愛想笑いで、心から微笑んでくれているわけじゃないのよ!
「じゃーわかりましたー。これから蓮二に電話してどっちが好きか聞きましょう。より好きな方の勝利で、負けた側はもう蓮二への恋をすっぱり諦める! これでどう?」
「望むところですよ。伊代は絶対に負けませんから!」
「言ったわねー。あなたが負けたら嘲笑してやるわ」
「おい、落ち着けって──まぁでも面白いからいっか」
そうと決まれば、早速電話だ。
私は、ぷんすかと怒っている伊代ちゃんと笑いをこらえている彩海の視線を同時に感じながらも、手馴れた動作で電話のボタンを押した。
「私が勝ちますからねー。カレン先輩」
望むところだわ、出来の悪い後輩!
『ガチャッ』
「もしもし。鈴木です」
「もしもし? 私よ」
「あぁ、カレン様ですか。どうかしましたか?」
向こうの音声から、ガヤガヤした雰囲気と妹さんの無言の圧力を感じる。あの子、結構怖いのよね……
よ、よし。
「突然なんだけど、私と伊代ちゃんならどっちが好きかしら?」
私がそう言い終えたあと、画面の奥から鼻で笑う声が聞こえた。これは愚問であって、答えるまでもないということを意味しているのだろう。
つまり、わたしの完全勝利……ッ!!
「それはもちろん───え、なに? えちょ、わかった! わかったから!! ええと、妹です──はい! もう切りますよ」
「え、ちょっと!?」
「カレン様、申し訳ございませ『ブチッ』」
「……」
私は、ただスマホを無言で見つめていた。
アイツから切られるのは初めてだった。絶対妹の圧力……そうだ。
蓮二、私よりも──妹が好きなの?
ガチのシスコン? シスコンなの!? ねぇ!?
「どうでしたか?」
「私と伊代ちゃんなら、妹さんの方が好きだそうだわ」
「えっ……」
伊代ちゃんは少し黙った後に、困り眉をしてこう言った。
「何言ってるんですか?」
いや、まぁそうなるわよね……!
「本当にそう言ってたのよ。ったく、あのバカシスコンがっ!」
「まぁ、平和に解決して良かったじゃんか」
「納得いくわけないじゃない!! なんで私がこんな小娘と同じ扱いを受けなきゃならないのよー!!」
「小娘とは失礼なっ! 私の方が胸はありますよ!!」
そう言って、自分の巨乳を全力でアピールしてくる伊代ちゃん。いや、いや……!! 敗北感ヤバいからあんまり見せないで!
「胸はただの脂肪に過ぎないわ」
「……蓮二くんが巨乳好きのかのうせいだってありますよー!」
「それは無いわ。あいつは私ぐらいの大きさが好きなのよ」
私がそう真顔で言うと、彩海がキョトンとした顔で呟く。
「え、蓮二ってカレンのお●ぱい見たことあんの?」
「え? マジですか?」
二人に詰め寄られながらも、私は鉄の仮面で押し通した。
「無いわ。……多分ね」
私たちはこの調子で、一日中ガールズトークを繰り広げていた。──まあ、悪い時間ではなかった。
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