妹は兄を気にかけたい
四月某日。
「カレン様、お友達と上手くやれているだろうか……」
俺は駅前の広場で、腕時計を見ながらそうため息をついた。
ちなみに今日は珍しく私服を着ている。四月なのにバカ暑いので白Tシャツ一枚。下は茶色のズボン。まぁなんてことない普通の服だ。
スーツを着ていないのでなんだかソワソワするが、今日はカレン様に振り回されずに済む貴重な一日なのだ。無駄にはできん。
「いやー、マジで楽しみだな。やべぇ。震えが止まらない……」
そう。今日は、一年に一回妹と会える最高の日なのである。
──いや、浮気とかではない。
頼むから、少し話を聞いてくれ。
鈴木
彼女は三歳差の妹で、東京郊外にある親戚の家に住んでいる。とてもじゃないが、俺と血が繋がっているとは思えない。
「おーい、お兄ちゃーん!」
遠くから声がした。驚いて駅の方を見やると、そこには我が妹が珍しく笑顔で両手を広げている姿が見えた。
可愛い!!!!!!!!!!!!
俺も笑顔で手を振り返した。なんだって、一年ぶりの再会だぞ!? 喜んでいいだろこれは!
「久しぶりだな。芹」
「うん」
俺も上京するまでは、こいつとよく遊んでいたものだ。
彼女の背は少し伸びていた。カレン様より普通に高い。芹はいつものように黒い帽子をかぶっていて、それには白文字で《Be Ambitious》と書かれている。
その下は茶髪で、どうやら俺と合わせてくれているらしい。
基本、顔のパーツは俺に似ている。俺を百倍強化したらこうなるのだろう。二重碧眼、けれども軽く化粧をしていたし、顔つきも大人になっていてお兄ちゃんは感動しています。
服装は胸元にロゴが入った黒いTシャツにジーンズ生地のショートパンツ。NIKEの黒い靴。
あー妹様、今日も可愛いですよ──
「変な顔しないで。キモい」
妹はキレてそっぽを向いた。ごめん。
◾︎
その後、俺たちはゆっくり話ができるカフェに向かった。落ち着いた雰囲気で、人はあまり入っていないようにも思えた。
「お兄ちゃん、何にする?」
イカしたファッションの実妹は、俺にメニュー表を見せてきた。
「じゃあ、チョコパフェで」
「さすが甘党」
「なんとでも言え」
そして芹もチョコパフェを頼んだ。なんだかんだ俺に合わせるところが可愛いよな──結構ツンツンしてるし、たまにマジ殴りされるけども。
「ねぇ、藤宮カレンとはどう?」
妹はテーブルに肘を着きながらそう言ってきた。呼び捨てかよ。
「まぁ相変わらず手のかかるダメお嬢様だけど、前よりは成長した感じがするかな。友達もできたし」
そう語りつつ、スマホでカレン様の位置情報を確認した。
よし、彼女は家の玄関でスタンバっているようだな……。準備は万端のようだ。
「何してんの?」
「ゼンリーで、位置情報の確認だが」
「え……キモ」
なんとでも言え、我が妹よ。
俺はカレン様と一緒にいない時、こまめにそれを確認しないと気が済まない達なのだ。
あっ、知らない人のために言っておくと、ゼンリーは家族や友人と位置情報を共有し合えるアプリだ。
これを使えば「どこにいるの?」とか一々彼氏or彼女に聞く手間が省けるってわけだ。まぁ俺たちには関係の無い話だと思うが。
「しょうがないだろ。それに、俺は仮にも藤宮家に雇われてる使用人なんだ。そうでもしないと金も稼げないし」
「ふーん──まぁ私もバイトしてるし。読モとか」
「お前マジか……」
まぁ可愛いから納得なんですけどね。
「はい、失礼します。チョコパフェでございます〜」
可愛いお姉さんが、
「「ありがとうございます」」
あっ──ハモった。二人で一瞬、顔を見合わせた。
「うふふ、ありがとうございます。お幸せに」
俺たちが硬直するのを優しく見届け、お姉さんは去っていった。
──エグすぎる勘違い!!
なんだこれは!?
カップルだと思われていただろう。「お幸せに」なんて言われた。まずいなこれは!
そ、そうだ。こんな顔をしてしまってはまた芹に暴言を吐かれてしまうからな……キリッと、俺は表情を整える。
「…………」
前を向くと、そこにはかつて見た事のないほどに顔を赤らめている妹の姿があった。
は、話しかけにくっ。なんか俯いてるし……
『パシャッ』
「ちょ、ちょっと! 消してよ!」
「レアなんだからしょうがないだろ」
「〜! このダメ兄貴!! 死ねクソが!!」
ふん、と拗ねる妹をスルーして俺はチョコパフェを頂くことにした。
あ、絶対こいつは俺のこと好きじゃないからね。思春期だから敏感ってだけだ。兄妹ってそうだろ?
「美味しいね」
「……」
チョコパフェの味は実に素晴らしかった。
トッポみたいなやつが生クリームの上に成り立ち、その下にはアイスが佇んでいる。さらにその下にはなんかチョコみたいなやつが固められたよくわからんやつ(語彙力)がある!!
……見た目からしてヤバい(語彙力)!!
「まさか、お兄ちゃんが一言も喋らなくなるなんて」
「ごめんな。パフェがうますぎた」
食べ終わった後、水を貰って軽く世間話をした。
ようやく、緊張の糸が解れてきた。
「……ふぅ。ところで、先から周りからの視線が凄くないか?」
俺はそう切り出した。外を歩いていてもここにいても、やたらと視線を感じるのだ。なんでだろう。
芹が読モだからか?
「か、カップルとか思われたくないし。お兄ちゃんサイテー」
「俺のせいかよ!? そ、そうだ。お前彼氏とかいるの?」
「あ……い、いないけど」
芹は水を先から頻繁に飲む。それはそれは、めちゃくちゃ飲む。
「───芹。別に周りの視線なんか気にする必要ないからな。もし周りからバカにされたりでもしたら、俺が出動するから任せろ」
「え、なんでわかったし」
「先から水をガブガブ飲んでるからだよ!」
妹のことって、実は兄貴は結構気にしてたりするもんなんだよな。
「リラックスしてくれ。今日はわざわざ遠くから来てくれてありがとうな」
「───うん」
芹は静かに笑った。その顔は、俺に良く似ていた。
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