第3話 七不思議を探せ

 桜太が説明を始めたところで、他のメンバーは神妙な顔をした。悪ふざけではないとのアピールだ。

「学園七不思議?そんなのあったっけ?」

 早速松崎が突っ込む。それはそうだ。七不思議にしようと言い出したのは科学部である。

「今から探すんですよ。どうせ謎を解明するならば七つあったほうがいいですよね?」

 言い出しっぺの千晴が説得を試みる。ここで松崎に反対されては意味がない。

「ふむふむ。たしかに中途半端に三つとか九つって言われても困るか。それにこのまま何もせずに科学部が消えるのも悲しいしね」

 松崎も一応は廃部になるかもと気を揉んでいたのだ。生徒たちが自主的に動いてくれるのならば助かる。

「夏休みも活動するかもしれないんですけど、先生は大丈夫ですか?」

 優我が窺うように松崎を見た。松崎にすれば休日出勤になるかもしれない。ここは重要なポイントだろう。

「ああ、いいよ。どうせ何も予定はないから」

 若い教師とは思えないあっさりした答えが返ってくる。もはや彼氏募集すらしないのだろう。

「ありがとうございます。というわけで先生、早速ですが何か怪談話って知ってますか?」

 許可が取れるや、すぐに質問する桜太である。

「現金だね。でも怪談か。聞いたことないな。学園の恐怖っていうのは知ってるけど」

 松崎がにやりと笑う。

「うっ。恐怖ですか」

 嫌な予感しかしない笑顔に桜太は引いた。

「そう。絶対に見てはいけない笑顔っていうのがあるのよ。それには注意して行動するように」

 松崎が怖がる桜太にウインクした。

「意外と難しいのかな」

 怪談ではなく恐怖について聞かされ、千晴は急に不安になっていた。





 翌日。まずは調べる怪談を集めようとそれぞれが聞き込みを開始していた。

「なあ。この学校の怪談話って知らないか?」

 桜太がまず目を付けたのはクラスで仲のいい藤代悠磨だった。昼休みに教室で弁当を食べながら訊く。

「怪談話?いきなりどうしたんだ?まさか妖怪を捕まえてブラックホールに投げ込む気か?」

 ただでさえ世間一般からずれている桜太を相手しているだけに、悠磨の思考も捩れていた。さらには桜太に会せるために完全にブラックホールに繋げようと無理をした形跡がある。

 その悠磨は理系クラスに在籍しているものの、普通の高校生だ。悠磨としては眼鏡を掛けて真面目系だが、絶対に科学部と同類とは思われたくない。

「いや、それは無理だろ。そもそも妖怪が存在しない。そうじゃなくて、科学部を存続させるために何か成果が欲しいんだよ。そこで科学の力で身近な謎を解明しようっていうわけだ」

 もぐもぐとメンチカツを頬張りながら桜太は説明する。

「ふうん。一応は部活っぽいことをするんだ」

 何だ、予想外に普通の理由だな。と悠磨は拍子抜けしてしまった。科学部が怪談について調べるなんて思いもしなかった。

 悠磨からすると科学部は帰宅部より怠惰な連中だと思っている。自分の好きなことをするのに家に帰る時間すら惜しく、化学教室に巣食っているのだと思っていた。

「部活である以上は何かしないとね。まったく前部長の大倉先輩が今のような変な部活にしちゃったせいで大変だよ。今や放課後学習と変わらない。これでは科学部ですと名乗っても誰も納得してくれないと気づいたわけだ」

 まさしく悠磨の想像どおりの説明をする桜太に、悠磨は危うく箸で掴んだ卵焼きをどこかに飛ばしそうだった。本当に部活をしていなかったとは驚きである。

「そこで。このままでは廃部になりかねない科学部を救うため、活動するわけだよ。何とか目立たないとと思って身の回りの不思議を解明したいんだ。なあ、なんかこの学校で気になることってないか?」

すでに怪談から逸れている問いを発する桜太だ。しかし桜太の中で学校の怪談はイメージ出来ていない。小学校ならばトイレの花子さんがあるだろうが、それは科学で解明できるか謎である。

「気になってることねえ。何でもいいのか?」

 解決してくれるならばいいかと悠磨は情報提供する気になった。ようやく卵焼きも口の中に納まる。

「おっ。何?」

 期待に目を輝かせて桜太は答えを待つ。やはり持つべきは友。

「この学校の図書室さ、どういうわけかある数か所の本棚で本が落ちるんだよ。本棚が傾いているのかと調べてみたがそうではないらしい。それもそのはずで、落ちるのは本棚の本総てではなく、本棚の中では一か所だけ。変だろ?」

 図書委員の悠磨には深刻な悩みだった。毎日本を片付ける作業は発生するし、落下するせいで本が傷む。しかしどうにも解らなくて自力解決を諦めていたところである。

「オッケー。今度調査させてくれ」

 これは怪談ではない。と突っ込んでくれる人がいるはずもなく、桜太はあっさりとこれを学園七不思議に加えてしまっていた。




 同じ頃。変わった話を聴き出すならこの人だろうと、楓翔と迅は問題の前部長である大倉亜塔の元を訪れていた。なぜか亜塔は昼休みだというのに化学教室の横にある生物教室にいた。そこで一人楽しそうに弁当を食べていたのだから謎過ぎる。

 見た目は科学部お決まりの眼鏡に真面目な雰囲気である。顔立ちは整っているので口を開かなければ女子にもてるだろう。しかし誰もが記憶を抹消するほどの変なものを愛好している。つまり彼女はいないのだ。

「何?学園七不思議を調査。お前ら、この俺を差し置いてそんな羨ましいことをするのか?」

 すでに一般人からずれた発言をする亜塔は箸を持ったまま額を押さえた。

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