第2話 目指せガリレオ!

「もてないのは理系の時点で諦めるべき問題だろ。ここを見ても解るとおり、理系の女子は圧倒的に数が少ない。恋したくても無理なんだよ」

 千晴を指差しながら迅は悟ったような顔をした。ここに女子がいると指摘することもできるが、迅ならば千晴を口説こうなんて気持ちは一ミクロンも起こらない。つまり恋は成立しない。彼女を作って青春を謳歌するにはサッカー部や野球部といった王道をいくしかないのだ。

「まあ、恋は諦めてもらおう。それより、目立つ方法はないものか。こう今の若人の心をぐっと掴んで科学部に来たいと思うような何かだ。諸君、どういうものならば若人受けすると思う?」

 お前はじじいかという突っ込みを全員が飲み込んで桜太の問いを考え始めた。たしかに現在はただただ変人の吹き溜まりなのだ。解決しておいて損はない。それに後輩たちから先輩と呼ばれたいとの下心もあった。

 しかし理系が強いという触れ込みのある高校で、こうも人気がないというのはどうしてだろうか。そんな学校で理系クラスに所属している彼らだって変人予備軍のはずだ。

「あっ。目立って若者受けするものがあるぞ」

 ぱちんと指を鳴らしたのは優我だ。

「何だ?」

 とにかく案が欲しい桜太が飛びついた。

「昨日ドラマの再放送っていうのを見ててさ、あれの学校版なんていいんじゃないかな。見たことあるか?主人公の物理学者が怪異現象を科学で解明するってやつ」

「おおっ」

 怪異現象を科学で解明。何ともかっこいい響きだ。それならばたしかに科学部の活動としてもおかしくない。桜太はにんまりした。

「それってあれだろ。何か映画にもなったやつだ」

「なぜか物理学者なのに白衣を着てたよな」

 しかし、肝心のドラマの内容を覚えていないメンバーだった。桜太も楓翔も迅まで天井を睨んで思い出そうと努力するも思いつかない。CMなんかで見てアウトラインだけ知っている状態だった。

 千晴はドラマの内容をしっかりと知っているがノーコメントを貫いた。説明を求められても困る。ここにいる連中は普段、ドラマなんて見ていない。再放送を見たという優我の発言がそれを物語っているのだ。主人公を演じた俳優の名前を言っても思い出せるかさえ不明だった。

 彼らが見るのは基本的に国営放送。しかも科学特集と相場は決まっている。

「まあ、ドラマの内容なんてどうでもいいだろ?それよりさ、丁度夏休みが来ることだし、学校の怪談を科学で解明。これならどうだ?部活しているっていうアピールになるし、成果もついてくるぞ」

 さてはこいつ、この話題を切り出そうと企んでいたな。そう誰もが思うほど優我の意見は出来上がっている。実は密かに部活動をちゃんとしたいと思っていたらしい。

 確かに今の三先生のさらに上の学年の頃まではちゃんと活動していたのだ。科学コンテストに応募したりとまともな科学部だった。変人の吹き溜まりでも質が違ったのだ。

「そうだな。まともな部活動というのも大切だ。しかも誰もが謎に思っていることをあっさり科学で解決したとなれば若人受け間違いない」

 桜太は腕を組んで笑う。このメンバーでまとまって何かをする日が来るとは思わなかった。

「しかしうちの学校に怪談なんてあるか?そもそも初代の学園長が健在で歴史をべらべらしゃべるようなところだぞ」

 出鼻を挫くのは楓翔だ。この学校の地質を調べようと学園内をうろついていた時、学園長である桐生源内に見つかって歴史の御高説を訊くことになった過去がある。おかげで知りたくない学校の歴史に詳しくなった。しかも地質調査は出来なかったのである。その問題の源内は73歳だ。

「それくらい、どうにかなるでしょ。どうせなら七不思議にして解明すれば?受けを狙うならこのくらいしないと」

 千晴は部活動に賛成だ。自分の趣味を追求するのもいいが、せっかく放課後にこうして集まっているのである。

「七不思議か。そうなるとその不思議を見つけるところからだな。何らかの噂なり困っていることを拾ってくる。これを夏休みまでの三日間でこなすっていうのでどうだ?」

 桜太が部長として提案した。すると全員から拍手で賛同を得られた。

「それなら、顧問の松崎先生の許可も貰っておこうぜ。夏休みにここを使う許可を貰っておかないと。それにいざとなれば夜の学校に侵入することになるしさ」

 のりのりになってきた楓翔が提案する。なぜか夜に侵入というところに燃えていた。

「よし。それでは松崎先生の許可を頂きに参ろう」

 こうして桜太の号令でぞろぞろと化学教室から職員室に向かうこととなった。職員室は当然のように日当たりのいい南館にあるので離れている。

「なんか空気が違うよな」

 南館の二階に通じる渡り廊下を通っている時に迅が呟いた。

「そうだよな。じめっとはしてない」

 横を歩く優我も同意する。どうして南北に建物を並べて建てたのだろうか。おかげで北館は日当たりがさらに悪くなっている。

 二階の真ん中にある職員室に着くと、まず桜太が松崎を呼びに中に入った。五人で押し掛けては邪魔なので廊下で話したほうがいい。

 顧問のフルネームは松崎香奈枝という。女性ながら地学を担当しているのだ。その彼女が鉱石を愛していると聞いても誰も驚かないだろう。要するに、変人の監督は変人なのだ。29歳だがもちろん彼氏なしだ。

「どうした?科学部が揃いも揃って」

 桜太に呼ばれて出てきた松崎はさばさばとした性格そのままの調子で訊く。

「先生。火急に相談したい儀があるんです」

 桜太がまだ時代がかった言い方を続けて切り出す。

「ほう。火急を要することか。まあ聞くだけ聞こう。申してみよ」

 さすがは顧問。変な生徒の相手に慣れている。同じように時代がかった言い方になって訊いた。

「実は来年の新入生獲得に向けて部活動を真面目に取り組もうと。そこで手始めに学園七不思議を解明したいんです」

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