明るいところ

尾八原ジュージ

明るいところ

 深夜の散歩が好きだ。


 夜道は人通りも少なく、ふと別世界に来たような気分になる。それが楽しい。


 しかし思うに真夜中は、人間の作った世界のルールが少し歪む。


 僕も散歩の最中、昼間はなかったはずの電柱を見たり、自動販売機の裏から話し声がしたりして、足を速めたことがある。


 それでも煌々と明るい場所だけは、安全地帯だと思っていた。




 昨夜、例によって夜の散歩に出た僕は、途中でコンビニに立ち寄った。商品を見ていると、甲高い声がした。


「ねぇアイス買おうよ!」


 幼い子供の声だ。こんな遅くに子供が出歩くのは感心しないな……と自分の夜更かしを棚にあげてそちらを見ると、子供の姿などなかった。若い女性が一人いるだけだ。


 彼女はレジの方に向かって歩き出す。と、そのパンプスを追うように、ピンクの運動靴を履いた小さな足首がふっと現れ、2、3歩パタパタと歩いたかと思うと消えてしまった。




 やっぱり明かりが点いていても、油断はできない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

明るいところ 尾八原ジュージ @zi-yon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ