第94話 忍び寄る悪意
「なるほどね。あの爆発はゴースの自爆か……」
蒼い顔で俯く小向の背中を擦りながら空見が渋面を作る。
小向の休憩中にエアリスたちは信太郎から説明を受けていた。
興味のないことに関しては壊滅的な記憶力の信太郎から話を聞き出すのにかなり苦労したエアリス達だが、そのおかげで何が起きたのかを把握した。
(ゴースが神様ガチャのことを知ってたというのはどういうことだろう……? もしやこの戦争を起こしているのは神様なのか? まだ情報が足りない……これは薫やガンマにも相談してみないと)
正直言って空見にはゴースの話をどこまで信じていいか分からない。
だがもしそれが本当なら魔王を動かしているのは神々ということになる。
「あ、そーいやマリ達はどこにいるんだ?」
考え込む空見に信太郎が疑問を投げかけた。
どうやら信太郎はマリ達の安否が気になるらしく、そわそわと落ち着かない様子だ。
「マリ君たちは都市の救護所に預けてきたよ。あそこなら大丈夫さ。兵士達も大勢いるし、それに薫たちも付いてるしね」
「そーなのか? 何か急に匂いが消えた気がして落ち着かないんだよな」
「匂いが消えた? マリ君たちの?」
「ああ」
空見が最寄りの都市の方向へと顔を向ける。
ここから見る限り、特に異変が起きている様子はない。
しかし超人的な直感と嗅覚を持つ信太郎の異変察知能力は侮れないものがある。
「小向君、悪いけど今すぐに戻ろう。少し嫌な予感がしてきた」
妙な胸騒ぎを感じた空見はマリ達のいる救護所に戻ることにした。
◇
「寝ちまってたのか」
硬く寝心地の悪いベッドの上で薫は目を覚ます。
気怠さに顔を顰めながら視線を動かすと、そこは救護所だった。
白衣を着た男女がせかせかと動き回り、薬を配っているのを見て、薫はこの救護所で治療中に意識を失った事を思い出す。
折れた肋骨の辺りを擦っても痛みはないことから治療は終わったのだと推測する。
(ファンタジー様様だな)
もしこれが地球だったら、折れた肋骨の治療が僅か数十分で終わるはずがない。
回復魔法のデタラメさに薫が感謝してると、視界に白いものが映りこむ。
白衣を着た女性だ。薬瓶の入ったワゴンを押しているので、おそらく医者なのだろうと薫は推測する。
「はい、どうぞ。これを飲んで横になっていて下さい。まだ無理しちゃいけませんよ」
「……どうも」
薫は軽く会釈して薬瓶を受け取ると、一息で飲み干す。
女医は空き瓶を受け取ると、また他の患者の元へとワゴンを押していく。
それをぼうっと見ていた薫は妙なものを目にする。
屈強な男たちが意識のない患者たちを物でも扱うように外へと運び出しているシーンだ
(なんだ、ありゃあ? どう考えても穏やかじゃないな)
警告なしに男たちの背に銃弾をぶち込むために、薫は神様ガチャで手に入れた
その時、薫の体に異変が起きた。
意識が遠のき、体から急速に力が抜けていったのだ。
(なんだっ!? 不味い意識が……)
せめて銃声を鳴らして外に異常を伝えようとする薫だが、すでに体が麻痺して指さえまともに動かせない。
ベッドへ崩れ落ちた薫がどうにか引き金を引こうと力を振り絞っていると足音が近づいてくる。薫が視線を上げると、先ほど薬をくれた女医が仮面をかぶった男たちを引き連れて来るのが見えた。
「この青年も運んで頂戴。情報によれば転移者みたいよ。きっと使えるわ」
意識を失う前に薫が見たのは、不気味な笑みを浮かべて顔を覗き込んでくる女医の顔だった
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