第93話 クレーターの中で
「お~、空が青いなー」
ボロボロの信太郎がクレーターの中でお気楽そうに空を見上げて呟く。
大の字で倒れている信太郎はパンツ一丁で、全身に軽い火傷を負っているが命に別状はなさそうだ。
「そ~いや俺、なんでここにいるんだ? なんか全身痛ぇし動けねぇぞ……」
気がつくとクレーターの中で一人きりだった信太郎は不思議そうにぼやく。
そのままボーっと空を見上げ続ける信太郎の視界に豆粒のようなモノが見えた。
しだいに大きくなるそれを見ていた信太郎が驚き声をあげる。
「ありゃ? 空見の兄ちゃんとエアリスか?」
エアリス達の後ろから少し遅れて小向が着いてきていて、空から信太郎の元へ一直線に飛んでくる。
そして地面に降り立つ空見が、倒れ伏す信太郎へと慌てて駆け寄ってきた。
「信太郎君、大丈夫かい!?」
「お? そりゃ大丈夫だけど……俺何でここに倒れてんだっけ?」
信太郎の言葉に「まさか打ち所が悪かったのか」と青ざめる空見の頭にエアリスがツッコミを入れる。。
「いや、元からこんな感じでしょ? あと軽い火傷を負ってるだけで命や体に別状はないわ」
失礼なことを言いつつも、信太郎の無事を確認出来たエアリスはほっとした表情を見せた。そんなエアリスの背後に遅れて着いてきた小向が降り立つ。
どこか腹具合でも悪いのか、ずっとお腹を押さえたままだ。
「遅いわよ、子豚」
「いやいや、あれだけゲロ不味いポーション飲ませといてそれはないっすよ……」
エアリスの叱責に口元を抑える小向が恨めしそうに文句を言う。
最寄りの都市まで撤退したエアリスたちは、負傷兵の治療所にマリや薫を送り届けると、すぐに信太郎の救助に向かう準備を整え始めた。
魔力の尽きたエアリスと小向は魔力を回復させるポーションを買い求めたのだが、このポーションにはいくつか重大な欠点があった。
魔力回復ポーションは高価な割に魔力の回復量が少なく、しかもヘドロのように不味いという欠点だ。
これこそマリ達が魔力回復ポーションに手を出さなかった理由である。
他に方法が思いつかなかったエアリスたちは魔力回復ポーションを買いこんだのだが、その不味さになんとエアリスは一口飲んだだけで癇癪を起こした。
――こんな不味いもの飲んでられないわ!
そう叫んだエアリスは全ての魔力回復ポーションを小向に無理やり飲ませると、精霊契約による魔力パスを通じて小向から魔力を強奪した。
胃がひっくり返るような不味さに吐き気を催す小向を急かし、空見と共に信太郎の救助にやってきたのだ。
「うっぷ……吐きそうっす……ここで休憩してもいいっすか?」
「小向君、もうちょっと我慢だけしてくれるかい? 魔王も倒せたみたいだけど残党が近くにいるかもしれないし、ここで休憩するのは危ないよ。信太郎君も見つけたことだしすぐに移動しよう」
「ありゃ!? 魔王倒したのか? えっ、いつの間に?」
気分の悪そうな小向を心配した空見の言葉に信太郎が食いつく。
楽しみにしていたイベントを寝過ごしてしまった子供のような表情を浮かべる信太郎をエアリスが宥めようとする。
「落ち着きなさいって! こっちに飛んでくる途中で精霊たちから聞いたのよ。てっきりアンタが魔王を倒したと思ってたんだけど、精霊たちは違うっていうし。それでアンタを探してたってわけ」
「そーなのか……」
珍しく気落ちする信太郎。
一方で小向はもう我慢が出来なかったのか、跪いてゲロをぶちまけ始めた。
げぇげぇと苦しげに吐き続ける小向の背中を空見が優しく擦る。
(……しばらく移動できそうにないわね)
「しょうがないわね、ちょっと休憩していきましょ。そういえば……ねぇ、おバカ。ワタシたちと別れてから何があったの?」
蒼い顔で吐き続ける小向を横目に収めたエアリスはため息を吐くと、休憩中に信太郎から詳しい事情を聴くことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます