第92話 明かされし秘密


 つい先ほどまで爆発音が鳴り響いていた大平原も今は静寂に満ちている。

 そんな平原にて苦しげに呻き声を漏らすものがいた。

 ほとんど首だけになったゴースだ。

 信太郎との激戦の結果、ゴースの体は無残に破壊されて頭だけになっていた。



 信太郎はゴースに止めを刺さずに疲れ切った様子で座り込んでいる。

 放っておいてもゴースが死ぬことを人並外れた直感で信太郎には分かっていたからだ。ゴースの近くで荒い息を吐いていた信太郎が顔を上げると、疲れ切った表情で周囲を見回す。



 大平原は見渡す限り魔物と人の死体で埋め尽くされていた。

 結果的に信太郎が勝ったが、ゴースの洗脳能力で潜在能力を引き出された魔物によって軍は壊滅し、無事なのは信太郎のみ。

 如何に信太郎でも、ゴースを相手にしながら数万の魔物から兵士達を守ることはできなかった

 この結果に信太郎は無言で項垂れる。その直後だった。



「っ!?」



 突如、思わずゾッとする何かを感じとった信太郎は慌てて振り返る。

 その方角を見ると数キロほど先で天に昇るほどの巨大な火柱が立っていた。

 間違いなくただの炎ではない。

 なにせその炎を見ただけで信太郎の体が恐怖で震え始めたのだから。

 信太郎の中にいるベヒーモスが怯えているのだ。

 あらゆるモノを滅ぼすおぞましい炎に。



「なっ……何だぁ、今のは? びっくりしたぜ~」


「あの魔力は……魔導戦姫か。どうやら毒の魔王は死んだようじゃの。ワシの目的は達成出来たし、これでよしとしておくか……」



 冷や汗を流す信太郎の耳に届いたのはゴースの声だ。

 ほぼ首だけになった状態で何故生きているのか分からないが、ゴースは飄々とした態度で呟いていた。



「ジーさん、何でそこまでするんだ? そんなに人が憎いのか? 何かされたんか?」



 自分の死すらどうでも良いという様子のゴースに信太郎が話しかける。

 すると瀕死だというのにゴースは朗らかに笑う。



「ほっほぅ! これは人と魔物の生き残りをかけた戦よ、憎しみなどないわ。ただ生きるために敵を屠るのみよ。まぁ、あのお方はそんな我らの姿を見て楽しんでおるそうだがな……」


「お? あのお方って……魔王じゃねーのか?」



 信太郎の疑問を聞いたゴースが笑い出す。



「まさか! 魔王も星辰教団もあのお方を楽しませる駒にすぎぬよ。そもそも、戦の最前線に王がわざわざ出てくるかの? 普通は将軍に任せるのではないか?」


「え、ダメなのか? 俺が王なら行くけど」


「安全せい、お主は絶対に王になれぬ。なれば即座に国が滅ぶわ。……おっと、話がそれたのぅ。人に例えるなら毒の魔王は将軍であって王ではないということじゃ」


「ん? んーと、もっと偉くて強ぇやつがいるってことか? 誰だ?」


「……お主はすでにお会いしてるはずじゃ、この世界に来たときにのぅ」



 意地の悪そうな笑みを浮かべるゴースの言葉に信太郎は首を捻った。

 信太郎はチート能力のおかげで体は最強だが、知能もベヒーモス並みになっている。

 昨日食べたものもはっきりと思い出せない信太郎の頭脳で当時の事を思い出すのにだいぶ時間がかかったが、どうにかある事を思い出す。



「……お? まさかそれって神様ガチャの……あれ? まさか神様が……」



 久しぶりに頭を使ったせいで混乱する信太郎は頭を抱える。

 一通り話し終えたゴースは満足そうにため息を吐く。



「……少し喋りすぎたのぅ。ああ、それと敵に情けをかけてはならん。狡猾な敵に時間を与えるのも論外じゃ。冥土の土産によく覚えておくがよい。生きておったらのぅ」


「へ?」



 我に返った信太郎の目の前でゴースの体が発光し、魔力が収束していく。

 ゴースが最後の切り札を使ったのだ。

 これぞゴースが転生者や転移者達から奪ってきた能力の中で最大火力の能力――《自爆》だ。

 術者の命と魔力を使い切って放つ渾身の一撃。

 完全に油断していた信太郎にその一撃を避ける術はなかった。



「えっ、ちょっ……ぬわあぁぁっ~!?」



 ゴースの命がけで放った特大の閃光が信太郎を呑みこみ、凄まじい熱量と爆発が平原そのものを消し飛ばした。


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