第83話 刹那
リッチたちの《魔法反射》によって連合軍の放った全ての魔法が反射され、恐ろしいほどの力の奔流が迫ってくる。
この予想外の事態に対応できる者はほぼいなかった。
歴戦の戦士ですら動きを止める中、真っ先に動いたのはマリとエアリスだった。
エアリスは風の障壁を発生させ、跳ね返された魔法を受け流そうとしていたが、さすがに無理なのか押し込められていく。
ギシギシと軋み、砕けていく障壁を見る限り、持って数秒しか持ちこたえられないだろう。それを見たマリの反応は早かった。
「信ちゃんっ! パンチで穴を……!」
「おうよ!」
信太郎がマリの真意を正しく理解していたのかは分からない。
だが長年一緒にいたからこそ、信太郎はなんとなくマリが何をして欲しいか直感で察していた。
信太郎は腕を横なぎに全力で振りぬく。
その直後、衝撃波と共に長さ数キロを超える、深くて巨大な塹壕が出来上がる。
動物的直観に従い、信太郎は戦場に響き渡るほどの大声で叫ぶ。
「死にたくない奴はそこに飛び込めぇっ!!」
ようやく我に返ったのか、周囲にいた兵士らが慌てて塹壕へと飛び込む。
その光景を尻目にマリを抱えた信太郎が空見や薫たちを塹壕へと放り込むと、上空のエアリスたちへと叫んだ。
「エアリス! 小向っ! お前らも中に……!!」
「アタシたちは大丈夫だから先に入ってて!!」
「ぐぅっ……!! もう……無理っす……!!」
上空ではエアリスと共に小向が真っ赤な顔で魔力障壁を張り続けている。
小向もまたエアリスに倣って風の障壁を張り、みんなの避難する時間を稼いでいたのだ。だがそれも限界そうだ。
後輩の危機に信太郎が慌てだす。
「小向、今行くぞ!」
「ダメッ!! 子豚はアタシが守るからアンタはマリと避難しなさい! マリを死なせる気!?」
小向を保護しようと飛び上がろうとした信太郎をエアリスが慌てて制止する。
障壁は砕かれる直前で、もういつ飲み込まれてもおかしくはないのだ。
頑丈な信太郎ならまだしも、直撃すれば撃たれ弱いマリは確実に死ぬだろう。
我に返った信太郎はマリを壊さぬようにそっと抱き直すと、すぐに塹壕の中へと飛び込む。
「エアリスさん! もう障壁が……!?」
「子豚っ! アタシのそばに……!!」
信太郎が塹壕に飛び込んだ事を確認したエアリスは小向へと飛びつく。
その直後、エアリスたちの張った魔力障壁が砕かれ、反射された魔力の塊が大平原を吹き飛ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます