第81話 奇襲


「新種の魔物だ! 気をつけろ!」


「何をするのか予想できん! 魔導士部隊、防御魔法の準備を……!」



 突如現れた新種の魔物に、連合軍は驚き戸惑っていた。

 慌てふためく兵士と違って、信太郎たちはどこか呆けた様子で魔物を見つめている。



「これ、クラゲだよな?」


「クラゲっすね」


「これがクラゲ? 本物のクラゲってアタシ初めてみたわ……」



 銃で狙いをつける薫の問いに、小向が気の抜けた返事をする。

 連合軍の前に現れた魔物は二匹の巨大なクラゲだった。

 数十メートルはあるこのクラゲは何を行う訳でもなく、ただ涼しげに宙を漂っている。小向の頭に座り込み、ポカンとした表情で宙に浮かぶクラゲを眺めているエアリスを見て、空見が慌てだす。



「いやいや! これも一応魔物なんだろう? みんな、いくら何でも気を抜きすぎだよ! エアリス君、敵が何をしてくるか分かるかい?」


「アタシも初めて見る魔物なのよ? 分かるワケないじゃない。でも危険な感じが全くしないわよ、コレ。たぶん攻撃能力はないと判断していいと思うわ」



(攻撃能力がない……? ならどうして出てきたんだ……?)



「お? そーいやこのクラゲ、目の前に居るのに気配を感じねーぞ? なんか匂いもしねーな。そういやクラゲって食えるのか?」



 エアリスの言葉に考え込む空見の耳に信太郎の吞気な声が届く。

 その内容に空見はハッとする。



(人間をやめている信太郎君の知覚能力に引っかからない魔物? まさかコイツ、何らかの特殊能力を持っているんじゃないか!?)



「ガンマ! 鑑定の魔眼を……!」


「さっきからやってるっ!! クソっ、何でこんな時間かかるんだ!?」



 空見の叫びに腹立たしげにガンマが表情を歪める。

 この巨大なクラゲが出現した時からガンマは鑑定の魔眼を使っていたが、未だに能力を看破できていない。

 まるで壊れかけの機械みたいに動作の鈍い魔眼に、ガンマは苛立たしげに舌打ちをする。そんなガンマの視界に、ついに魔物の所有技能が映し出された。



 種族名:『要塞クラゲ』


 所有技能

《魔物収納》:体内に魔物を収納して運ぶ能力。最大で一万体収納可能

《気配遮断》:視認しない限り絶対に察知するのは不可能。

《物質透過》:あらゆる物質を透過して侵入できる能力

《看破妨害》:自身に対する鑑定、看破系の能力を妨害する



「気配遮断、魔物収納? 数は……一万体だと!?」


「なっ!?」



 ガンマの呟きに空見は絶句する。

 一万体の魔物を収納できる魔物が軍の最後方に二匹。

 つまり二万匹の魔物に背後を盗られた形になる。



「こ、こいつは体内に魔物を収納してる!! 魔法使い、さっさと倒せぇっ!」



 慌てて大声で叫ぶガンマだが、時はすでに遅し。

 次の瞬間、津波のように出てきたおびただしい程の魔物が連合軍を取り囲んだ。


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