第50話 パンツと……


「おお! このパンツすげーぞ!」



 渡されたパンツを手に、信太郎は感心した声を上げる。

 その手にあるのは、地球で言うところのボクサーパンツだ。

 手触りも地球産の物と変わらない。



 信太郎はそのままボクサーパンツを履こうと、腰巻を捨てて全裸になる。

 その瞬間、リリアが弾かれたように顔を背ける。

 反対にマリは吸い付くように信太郎の体を凝視したが。

 パンツ一丁になった信太郎は喜びの声を上げる。



「すげえフィット感だぞ! マスター、アンタすげーぞ! 神パンツ! そう、神パンツ職人だ」



 渡されたパンツを履いてみてベタ誉めする信太郎。

 あまりにパンツ連呼するので、店にいる人々が何事かと見てくるほどだ。

 それを恥ずかしいと思ったのか、薫とガンマが止めに入る。



「お前さ、パンツ連呼すんなよ。恥ずかしいわ」


「声を落とせって。たかがパンツで少し大げさじゃないか? 」


「マジすげーんだって! 兄ちゃんたちも触ってみろって」



 そう言うと信太郎はテーブルの上に置かれたパンツを2人に差し出す。

 そして渋々といった様子で薫たちはパンツに手を伸ばした。



「あ、コレはすごいかも」


「手触りが日本産と同じか……」



 触ってみると思った以上の手触りに薫たちは驚く。

 パンツを手に持ったガンマが口を開く。



「マスター、これはいくらだ?」


「1人5着までならタダであげますよ。さすがにそれ以上はお金取りますけど」


「……さすがにタダで貰うわけにはいかない。少し値引いてくれれば全員分買うよ」



 あまり貸しを作りたくないガンマは金で払うことに決めたようだった。

 隣の薫も同じ考えのようだ。

 ふと、薫は先ほどからやけに小向とエアリスが大人しいことに気づく。

 2人の視線はリリアに釘付けだ。



(なんだ? 美人がいるから緊張しているのか? )



 確かに緊張するのはよく分かる。

 リリアはとんでもない美人だ。

 この世界のエルフも相当な美形ぞろいだったが、リリアは文字通り桁が違う。

 男の考える理想美女が現実に現れたかのような美貌とスタイルの良さなのだ。



(いや、同性のはずのエアリスまで緊張しているのはおかしい)



 それに小向達の視線は見惚れているのではなく、恐れているかのような顔つきだ。

 それを怪しむ薫だが、獣のような息づかいを感じ、そこに視線を向ける。

 そこには荒い息づかいのマリが立っていた。



「ねぇ、信ちゃん。そのパンツ、そんなに手触りがいいの……?」


「お? すごいぞ。触ってみろよ」


「じゃ、じゃあ遠慮なく……」



 荒い息遣いのマリは手を伸ばす。

 テーブルの上のパンツ――ではなく、信太郎の履いているパンツへと。

 そのままマリは変質者のような表情で、信太郎の形の良いお尻を撫でまわす。

 誰がどう見ても変態にしか見えないだろう。

 それを見たリリアは、マリの行いにドン引きのようで顔を引きつらせている。

 信太郎という例外を除き、全員がドン引きしていた。



「と、とりあえずあるだけ出すね?」



 妙な雰囲気を変えようと、マスターが明るい声を出し、テーブルにパンツを出していく。

 その中に見慣れないものを見つけ、信太郎は首を傾げる。



「お? マスター、それはなんだ?」



 信太郎が指さすものは、ヒモと布切れを合わせたものだ。

 どこかで見覚えがある気がして、信太郎はそれを摘まみ上げた。

 それを見た薫が驚いた声を上げる。



「おい、これってフンドシじゃないの」


「よく知ってるね。昔の知り合いに教えてもらって作ったんだけどさ、つけ方が分からなくて……。良かったらあげるよ」


「いや、俺もつけ方知らないし」



 マスターの言葉に顔路は表情を曇らせる。

 おしゃれを自称する薫にはふんどしが嫌なようだ。


「お? じゃあ俺貰っていい?」


「いいよ。つけ方は知ってるの?」


「いや、俺も知らねーけど。予備のパンツには使えるかなーと」



 その時だった。

 マスターと信太郎の会話を聞いていたマリの眼光が鋭くなる。

 まるで獣の眼光だ。



(ふんどし一丁の信ちゃん……。うへへ……すごくイイじゃない!)



 マリの脳内ではふんどし一丁の信太郎がポージングを取っていた。

 己の欲望を現実化しようと、マリは血走った目でふんどしを観察する。

 マリの聡明な頭脳に、欲望というガソリンが注ぎ込まれ、ふんどしのつけ方を推測しようと活性化していく。



(構造的におそらくつけ方は……。よし! 今晩部屋で信ちゃんに着けてもらおう)



 鼻息を荒くするマリは知らなかった。

 後に正しいふんどしのつけ方を編み出した者として、自分の名前が歴史に残ることを。


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