第47話 信太郎VSリッチ2


「ワシのナイフがっ!!? ワシのレッドグレイブちゃんがぁっ……!!」


「あっ、名前つけるほど気に入ってたんですね」



 魔道具を失い、頭を抱えて絶叫する上官を見て、部下が呆れた声を出す。

 いい年して何やってるのかと言いたげな表情だ。

 それがカンに障ったのか、貴族が怒鳴り散らす。



「知ってるなら拾ってこい!!」


「いや、今は全滅の危機なんで……。どうするんですかコレ」



 部下が爆音の中心を指さす。

 そこでは信太郎が暴れ狂い、手足を振るう度に周囲に衝撃波を飛ばしまくっている。

 なぜ効かないのに同じ手段を使い続けるのか、指揮官一同には全く理解できない。



「うぉぉっーー!! 気合いだぁっー!!」


「あいつの知能は猿以下か!?」



 同じことの繰り返しに、思わず絶叫する中年貴族。

 心なしか、リッチも動揺している気がする。

 というか、この場で動揺していたのはリッチだった。

 最初こそ、愚か者と信太郎を小馬鹿にしていたリッチだったが、だんだんと不気味になってきたようだ。



 リッチは非常に知能の高い魔物だ。

 そこらの魔導士より知識もあるし、少なくても信太郎の数倍は知能が高いだろう。

 だからこそ、こう考えてしまった。


 ――何カノ罠……囮カ? 



 警戒するリッチ目掛けて、信太郎は特大の拳を放つ。

 その一撃はまさに隕石落下の如く大地を揺らし、周囲の兵士を吹き飛ばす。

 衝撃波で巻き上がった土砂でリッチの視界が塞がれ、リッチが慌てる。

 この隙に何かしてくると思ったのだ。



(ッ!? ヤハリ此奴は囮カ!? 一度逃ゲルベキ!)



 深読みしたリッチは配下を連れて逃走していった。



 ◇



「バカモン!」



 幕舎に貴族の怒鳴り声が響く。

 当然ながら、怒られているのは信太郎だ。

 表向きは味方を危険にさらしたという理由だが、本当は信太郎の最後の一撃によって土砂が巻き上がり、貴族の服が泥まみれになったことが怒りの原因らしい。



「悪かったって! 次から気を付けるぞ」


「本当悪かったって思ってるのか!? 貴様には言いたいことがたくさんあるんだよ!! なにより……」



 そこで貴族は言葉を切る。

 そしてうんざりした顔つきで叫びだした。



「何で貴様はいつも戦闘後に全裸になるんだ!?」



 そう、信太郎は再び全裸になっていた。

 あの隕石落下のような一撃を放った際の衝撃波が原因だ。

 全裸の信太郎は涼しい顔つきで口を開く。



「さあ? でも俺、最近全裸でもそんなに気にならなくなってきてさ」


「聞いてないんだよ! そんなこと!」


「あ、貴族のおっちゃん。その豪華なマント貸してくんねーか?腰巻きにすっから」


「ふざけるな!!」



 信太郎の言葉に、貴族は頭の血管が切れそうな勢いで叫ぶ。

 それを見た信太郎は、なだめるような口調で笑みを見せる。



「貴族のおっちゃん、俺はこう見えてマナーって奴を分かってるんだぜ? 大丈夫、マントは洗って返すぜ」


「だから貸さねぇよ!!」


「ええ~! おっちゃんケチだな!」


「もう出ていけ!!」



 貴族の絶叫と共に騎士に促され、信太郎は幕舎から出ていった。

 もちろん全裸で。

 去り際に信太郎は、幕舎入り口で「あっ、これ使えそう」と落ちてた布を腰巻きにすると堂々とした足取りで帰っていく。



 それを見た貴族の副官が重苦しく口を開く。



「宜しいのですか?」


「仕方ないだろう! うかつに罰することは出来ん!」



 なんだかんだ言って信太郎はかなりの戦果挙げていて、命を救われた民や兵士からの人気も高い。

 下手に厳罰を下せば味方の士気が下がる可能性を考えると、簡単には処罰を下せなかった。

 歯噛みする貴族を、副官が言いづらそうに口を開く。



「いえ、そうではなくてですね。その、あの男は貴官の家紋入りの旗を腰巻きにしてましたが……」


「誰かあの無礼な猿から旗を取りあげろおぉっ!!」



 夕暮れに染まり上がる草原に、怒りで顔を真っ赤にした貴族の絶叫が轟いた。



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