第45話 城塞都市への帰路



「お前さん、そんな装備で大丈夫か?」


「お? よく分かんねーけど問題ねーんじゃね?」



 兵士の言葉に信太郎は首を傾げる。

 ベヒーモスの力を持つ信太郎からすれば、武具など必要ないからだ。

 そもそも武具の良し悪しが信太郎には全く分からない。

 ちなみに信太郎が身に着けているのは、さっき貴族の上官に恵んでもらった布の服だけだ。

 そこらの兵士よりひどい装備である。



「まぁ、お前さんがそれでいいってんならいいけどよ」


「しかしお前、すごかったな! ほとんどお前1人で倒したし。軽い怪我人はかなり出たけど死人は出なかったもんな」


「お? そうか?」



 モリーゼへの帰路に就く信太郎は、兵士とはだいぶ打ち解けていた。

 どうやらオーガ族をほぼ単独で倒しきったのが評価されたようだ。

 大半の兵士の目的は生き残ることであり、信太郎のような一騎当千の強者は大歓迎だった。


「少し前にもリリアって美人さんがいたんだけどな。あの娘1人で魔物の軍勢を倒してたんだ。今は違う部隊にいるみてぇだけど」


「残念だよな~! あんな美人めったに見れねぇのに」


「今どこにいるんだろうな……」



 兵士達が口々に口惜しそうに話す。

 リリアと言えば、この前に信太郎が亜人キャンプであった少女だ。

 さすがの信太郎でも、命の恩人のことはまだ覚えていた。



「お? この前話したぞ」



 信太郎の言葉に兵士は目を剥く。

 周囲の兵士は目を血走らせて、信太郎に詰め寄る。



「どこにいるんだ!」


「無事なのか!?」


「お? 亜人キャンプって所にいたぞ」



 信太郎の言葉に兵士たちは顔を見合わせる。



「亜人キャンプ? なぁ確かあそこって……」


「アルゴノート王国所属の部隊だ。あそこなら彼女も安全かもな。良かった……」


「お? 一体どういうこった? なんかあったのか?」



 兵士の口ぶりを怪しく思ったのか、信太郎が追求する。

 その言葉に兵士達の顔が苦虫を咬み潰したような表情を浮かべた。



「彼女は俺たちの命の恩人なんだ。魔物の大軍から俺らを守るため、かなり無茶してくれてな……」


「リリア嬢ちゃんがいなかったら俺らはすでに死んでたろうな。命の恩人って奴さ! だというのにバカ貴族が彼女に妾にしようと迫りまくってな……」


「あの娘、とんでもない美人だからな。申し出は全て断ったらしいが、それ以来嫌がらせを受けるようになってさ」


「でもアルゴノート王国なら大丈夫だろ? なんせ勇者の国だぜ。そういうのには厳しいって聞いたことあるぜ」



 どうやらリリアは信太郎と出会う前に色々と大変な思いをしたようだ。

 やけに貴族や権力者を警戒していたのもこれが原因だろう。



「うひゃぁ~、美人も大変なんだな。……お?」



 吞気そうに呟いた信太郎の顔つきが豹変し、弾かれたようにある方向を見据える。

 その豹変っぷりに周囲の兵士たちが驚き戸惑う。



「どうした? 何かあったのか」


「おっちゃん! 何かすげー敵意持った奴がこっち来るぞ!」


「なにぃ!?」



 兵士たちが信太郎の視線の先を辿るが、そこは深い森の中だ。

 とても中までは見通せそうにない。

 これが他の兵士だったら、ただの気のせいだと笑い飛ばせたが、信太郎の場合は話は別だ。

 進軍中に何度か魔物が接近してきたが、一番早く気付くのはいつも信太郎だったからだ。



「そこの新兵、上官に伝令してこい!」



 ベテラン兵士が慌てて上官へと伝令を送った。




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