第41話 亜人キャンプ3
「まあ、座りなよ。それで? どんな要件かな?」
マスターが人のよさそうな笑顔を浮かべて、目の前に置かれた切り株を指さす。
彼は決してブサイクではないが、周囲のエルフと比べると明らかに劣るレベルだ。
顔面偏差値は信太郎やマリと同レベルだろう。
魔導戦姫と謳われ、エルフ以上の絶世の美貌を持つリリアとは比べ物にならない。
だというのに、リリアはぴったりとマスターにくっつき、安心した様子で寄りかかっている。
(ずいぶんと心を許しているのね。親子にしては年が近すぎるし……。恋人なのかなぁ?)
関係ないことを考えていたマリは、やけに信太郎が静かなことに気付く。
隣に視線を向けると、信太郎は不思議そうに首を傾げ、周囲を見回していた。
「どうしたの、信ちゃん?」
「お? 透明な何かが動いた気がしてさ……。あっ、そうそう! 今日はお礼を言いに来たんだ。ほら、俺あの後すぐ気ぃ失ったじゃん。ありがとうな! おっちゃんの薬で助かったぜ」
信太郎はそう言うと、切り株に座り込み、マリもそれに続く。
ゴース戦の後、信太郎は丸一日寝こんだのだ。
その後もマモルの葬式などで時間を取られ、とてもお礼を言う暇などなかった。
能天気丸出しな顔で笑う信太郎の前で、マスターは苦笑いする。
「どういたしまして。それにしても、おっちゃんかぁ。 まだ二十代なのに……」
「ちょっとアンタ……!」
「すみません! うちの信ちゃんが……!」
リリアが文句を言う前に、マリが素早く頭を下げた。
とてもきれいで、素早いお辞儀だ。
謝り慣れてそうなその雰囲気に、日頃のマリの苦労が伺える。
「お? 俺何かやっちゃった? よくわからねーけど、ごめんな」
「いや、別に怒ってるわけじゃないから本当に気にしないで!」
マリに続いて信太郎も頭を下げ、マスターの慌てた声が周囲に響いた。
◇
「お~! このお茶、なんか落ち着く匂いだなー」
「すいません。お茶ご馳走になっちゃって……」
「気にしないで」
あの後、マスターにお茶に誘われ、信太郎たちは一緒にお茶を飲んでいた。
マスターのお茶の用意は手慣れた様子だったので、普段から自分で入れているのかもしれない。
どこから取り出したのか分からないが、このカップやティーポットは上品な感じがする。
地球で見た値打ち物のティーセットに似ていることを思い出したマリは、壊さぬように細心の注意を払う。
「そういやさ、ここってエルフや獣人の人多いよなー」
そういうと、信太郎はお茶請けに出されたクッキーを口一杯に頬張る。
濃厚なバター味とサクサクした食感がたまらない。
この世界ではあまり食べれない甘味に、マリの手もついつい伸びてしまう。
「ここはドワーフやエルフ、獣人のキャンプだからね」
「そういえばなぜ皆さんはこんな離れたところに? 町にも出入りしてないようですし……」
「町に近いとトラブルも多いのよ。エルフとか美形は絡まれやすいし、獣人は差別の対象だし。だから固まって行動してるのよ」
マリの疑問に対し、どこかうんざりとした顔つきのリリアが口を開く。
その表情から察するに、彼女自身も町で嫌な思いをしたようだ。
「差別……ですか」
マリが真剣な表情で呟く。
現代日本でも差別はどこにでもあったのだ。
地球で言うなら中世から近世にあたるこの世界ならあって当然かもしれない。
「軽いものだとお釣りを誤魔化すとか入店拒否、ひどいものだとそのまま連れていかれて行方不明らしいよ」
「お? とんでもねぇ話だな……」
マスターの説明に、珍しく信太郎は不快そうに顔を歪めた。
そういった差別は信太郎が嫌うモノの一つだ。
嫌な話を聞いて、マリの気分が沈み込む。
ふと視線を感じ、マリが顔を上げると、リリアと視線が合う。
どこか心配そうな表情で、言い辛そうにリリアが口を開いた。
「あなた、マリだっけ? この町にやってきた連合軍って、一部を除いてバカな男が多いのよ。路地裏とかに連れ込まれないように気をつけなさい。可愛い娘は特に狙われるわ。町に女友達がいるなら、彼女たちにも注意してあげて」
「え……」
その言葉にマリはゾッとする。
リリアの表情や態度から察するに、嘘は言ってなさそうだ。
今まで安全だと思っていた町が危険地帯になってしまったように感じて、マリは思わず体を震わせた。
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