第35話 覚醒のベヒーモス2
「グルゥアッ！！」
「ぬぅぅっ！？」
信太郎とゴースは正面からぶつかり合い、大気を焦がす一撃がゴースへと炸裂する。
唸り声と共に、ゴースの前足が千切れ飛ぶ。
その瞬間に、ゴースは回復魔法を一瞬で発動させる。
しかし、常人ならまだしも、今の信太郎の前ではそれは致命的な隙だった。
迫る追撃に対して、ゴースは毒トゲの弾幕を発射する。
一本一本がミスリル鉱石を穿つほどの鋭さを持つその攻撃は、信太郎に対してかすり傷すら負わせられない。
ゴースは回避を諦め、バリア使いのマモルを食い殺して得た能力『バリア』を張ってカウンターを狙う。
だが、それは悪手だった。
「ゴアアァァッ！！」
「ぐほっ！？」
信太郎の一撃は、バリアごとゴースの胴体に風穴を開けた。
今の信太郎はベヒーモスそのもの。
ベヒーモスにとってバリアが一枚張られたところで、それは薄紙と変わらない。
怯んだゴースへと、嵐のような連撃が胴体や足を爆散させる。
暴風に舞う木の葉のように、ゴースの体が殴り飛ばされ、削られていく。
毒ガスを煙幕代わりに吐き出し、バリアを二重に張ったゴースは回復魔法を使いながら、信太郎の攻撃を耐え凌ぐ。
そんなゴースを、信太郎は獣のような四足歩行で追い詰める。
その攻撃手段も、だんだんと殴る、蹴る、噛みつくなど動物染みてきている。
もはや人の言葉すら忘れている様子だ。
その攻撃は音を置き去りにし、周囲に衝撃波を撒き散らす。
常人が立ち入れば衝撃波で粉々にされるだろう。
とても近づけそうにない。
そんな衝撃波が飛び交う場所で、信太郎の衣服が耐えられるはずがない。
衝撃波の影響で、信太郎は生まれたままの姿――全裸になった。
それをまったく気にしないのか、気づいていないのか、依然変わらずゴースに迫る信太郎。
再度ぶつかり合い、お互いの攻撃が交差した瞬間、ゴースの肩が砕け散る。
返り血を浴びて興奮したのか、信太郎が大気を引き裂くような雄たけびを上げた。
「――――ッッツ！！」
「カカッ！ もはや人の言葉すら忘れたか！？ これではどちらが獣か分からぬのぅ！」
獣に堕ちた信太郎を嘲笑いながら、ゴースは瞬時に肉体の再生と攻撃を開始する。
ガトリング砲のように毒トゲを信太郎の目元へと発射していく。
少しでも信太郎を怯ませ、時間を稼ぐために。
これは持久戦だと、ゴースは理解している。
毒と出血、身に余る力で信太郎の体が限界を迎えるか。
それともゴース自身が死ぬか。
結末はこの二つしかありえない。
目元へ迫る毒トゲに対して、信太郎は煩わしそうに腕を振り下ろした。
その腕の振りは音速を軽く超え、そして音速を超えた大気は衝撃波へと変わる。
毒トゲの掃射は、信太郎の腕の一振りで軽く消し飛んでしまう。
「なんと！？」
「ルアァッツ！！」
「がはッ！？」
呆けたゴースへと信太郎の拳が突き刺さる。
そのままゴースの首根っこを押さえつけた信太郎は、ひたすら拳を叩き込んでいく。
信太郎の攻撃に対し、もはやゴースの再生力の方が追い付かなくなっていた。
一撃ごとにゴースの肉が裂け、骨が砕け、内臓が潰されていく。
苦し紛れで放ったサソリ尾の一撃はまるで効かず、ゴースは蹴り飛ばされる。
砲弾のように飛んでいくゴースは、森のそばへと叩き込まれた。
一方その頃……。
「危ないから下がるんだ！」
歩けるようになった空見はマリと合流していた。
近づくだけで死にそうな戦いからマリを遠ざけるためだ。
「ダメよ！ 信ちゃんは私たちのために戦っているのよ！ 人としての尊厳を捨てて全裸で戦っているの！ 全裸よ！？ その勇姿を目に焼き付けないと！ うへへ、もう目を離せないわ！」
悲痛な顔で言うならまだしも、目を血走らせ、欲望全開のマリの姿はまさに変態そのもの。
せっかくの美少女顔が台無しである。
「うわぁ……」
マリの表情に、さすがの空見もドン引きだった。
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