第31話 VSキマイラ2
「お二人とも、あの作戦で行きましょう!」
「分かった! 薫、お前は病み上がりだろ。あまり無理はするな」
「誰にモノ言ってんだ。このくらいなんでもない!」
マリの声に空見達は頷く。
彼らはもう片方のキマイラと戦っていた。
空見が前衛で、薫やマリが後衛だ。
薫の精密射撃が、キマイラの目に吸い込まれるように着弾する。
さすがに貫通はしないが、かなり痛いのか、キマイラは銃弾を警戒しているようだ。先ほどまでボロボロになっていた薫の両腕は、ケガが嘘のように消えていた。
今まで魔物退治で鍛え上げた腕を遺憾なく発揮している。
そんな薫とは反対に、マリの攻撃は消極的で、ほとんど攻撃していない。
ジッとキマイラの顔を見つめるマリは、何かのタイミングを計っているように見える。
「グルアアァッ!!!」
眼球を狙う銃弾が鬱陶しくなったのか、キマイラは薫へと突進し、そうはさせないと空見が立ちふさがる。
「ふんぬっ!!」
雄たけびと共に、小型バスほどの巨体を正面から空見は受け止める。
十分な加速の付いたキマイラの巨体を受け止めきれず、重々しい音が響き、空見の足が地面にめり込んだ。
力と力のぶつかり合い、その軍配はキマイラに上がった。
ずりずりと空見が後退していき、大地に足の轍を残していく。
だが、空見は体全体をつっかえ棒のようにして、キマイラの前進を邪魔する。
それを鬱陶しく感じたのか、大口を開いたキマイラは、空見の首筋へと迫る。
一息に首を食いちぎろうとする気だ。
とっさに空見は両腕で噛みつきを防ぎ、その口を閉じないようにする。
「マリ君! 今だぁっ!!」
空見の掛け声と共に、水の柱が空見の足元から立ち昇る。
マリは最初から水魔法を忍ばせていたのだ。
大量の水がマリの意思で、自在に形を変えて、キマイラのある一点を目指す。
狙うのはキマイラの口の中だ。
マリの操る水がキマイラの口の中に侵入する。
そのまま水の刃へと形を変え、キマイラの舌をズタズタに切り裂く。
激痛に怯むキマイラは、慌てて空見から距離を取るが、もう手遅れだ。
敵の口の中に水魔法を忍ばせ、内側から破壊する大物殺し。
マリはかつてのオーク・シャーマンを真似たのだ
小さな水刃の竜巻は、喉を切り刻み、食道を磨り潰し、胃に到達する。
キマイラの腹に水魔法が到達したことに気付いたマリは、さらに魔力を注ぎ、水刃の竜巻を巨大化させていく。
それは内臓の全てをミンチに変え、ついにキマイラの体を内側から突き破った。
「……うまくいきましたね」
「大丈夫かい? マリ君」
「ええ、もう慣れっこですから」
「そうか……」
少し気分が悪そうなマリを、空見が心配して声をかけた。
マリの強張った笑みを前にして、空見は何も言えなくなる。
例え魔物であっても、命を奪う行為に、マリは未だに慣れていない。
必要なことだと分かっていても、後味の悪さを感じるのだ。
「さて、信太郎君を助けに行こ……っ?」
皆を促そうと、声を上げた空見は膝から崩れ落ちた。
「空見さん!?」
「空見!!」
「だ、大丈夫さ」
心配するマリや薫に対し、空見は気丈な笑みを見せ、ゆっくりと立ち上がる。
だが、ふらふらとして空見の足元は覚束ない。
空見は短期間で魔力を使い果たしたせいで、精神的疲労が限界まで来ていた。
おまけに前日まで無茶な日程で魔物退治をしていたので、肉体的疲労もたまっている。これ以上の戦闘は無理だろう。
薫も出血のせいで貧血気味なのか、まるで死人のように青白い顔色をしている。
2人とも限界そうだ。
「マリ君。僕らのことはいいから、信太郎君を助けに行ってくれ」
「……いいんですか?」
「危険な奴はあのマンティコアだけだろ? 俺らは休んでるから、信太郎の所にいってやんなよ」
「ありがとうございます!」
空見や薫の言葉に甘え、マリは信太郎の元へと走った。
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