第30話 VSキマイラ


「兵長さんよ、一匹だけでいい。キマイラの相手頼んだぞ。ガンマ、兵長さんを手伝ってくれ。こっちのマンティコアは俺たちがやる」


「分かった。死力を尽くそう」



 マモルの言葉にソルダート兵長は力強く、ガンマは黙って頷く。

 ソルダートは町の防衛を主張する市長たちを説き伏せ、ようやく少ない手勢を率いてマモルたちと来ることができた。

 もっとも、町の防衛に人手を割いたため、50人もいないが。




「来たぞ! 作戦通り動け!」




 ソルダートの号令のもと、突進してきたキマイラを取り囲み、兵士達は四方八方から攻め込む。

 正面からは大盾持ちの兵士達が、彼らの背後から魔導士が風刃や氷刃を飛ばす。

 左右からは精鋭達がキマイラへと迫る。



 各々が自分の役割に徹した、見事な連携だと言える。

 だが、キマイラには首が3つ、尾にも一つ、全部で4つも頭がある。

 キマイラに死角などないのだ。

 三つの頭から、それぞれ炎、氷、雷のブレスを吐き出し、その攻撃を掻い潜ってきた兵士には爪や尾の蛇が叩き込まれる。



「ぐっ!!」


「諦めるな! もう少し待て!」



 ソルダートは声を張り上げる。

 兵士達はソルダートの号令の元、再び陣形を整えた。



 再び攻め込もうとしたキマイラだが、動物的直観でも働いたのか、足を止めた。

 魔物の中では知能が高いキマイラは、違和感を感じたのだ。

 ――何かがおかしいと。



 必死ではあるが、自分からは攻めてこず、防衛に徹している。

 キマイラは魔導士の部隊に目を向けるが、彼らからは強い魔力の波動を感じない。

 違和感がぬぐえず、困惑した様子で兵士を観察するキマイラの体が、いきなり炎に包まれた。



「間に合ったか」


「時間がかかるってことは知っていただろ? まだ終わっていない、気を抜くな」



 ほっとした様子のソルダートに、ガンマは釘をさす。


『炎熱の魔眼』。

 ガンマの能力『七つの魔眼』の一つであり、視界の中にあるモノを爆破炎上させる能力だ。

 強力だが、対象を10秒以上見つめる必要があるため、仲間がいなければ扱いずらい能力でもある。



 炎上するキマイラは苦し気に暴れまわる。

 キマイラはその体毛に、『物理半減』と『属性魔法半減』能力を備えているが、

 この攻撃は魔眼という特殊能力による攻撃なので半減できない。



「やはりこの程度じゃ死なねぇか。盾持ち! 集合しろ!」



 ガンマの元へと大盾を持った兵士が集まっていく。

 盾持ち兵士を壁にして、ガンマはキマイラへと突っ込む。

 自分に接近する兵士に気付いたキマイラは、ガンマの方へと視線を向ける。

 その瞬間、ガンマとキマイラの視線がバッチリ重なった。



「食らえ!!」



『停止の魔眼』。

『七つの魔眼』の一つで、目と目を合わせた相手を一定時間停止させる能力だ。

 アリスと違って、耐性がないのか、キマイラは石のように動かなくなった。



「動きを止めたぞ! 今のうちだ!」



 動きの止まったキマイラを、動ける兵士と冒険者でボコボコにしていく。

 ガンマの『炎熱の魔眼』によって、キマイラの体毛は焼け落ちているため、『物理半減』も『魔法半減』も失われている。

 魔眼の効果が切れるまでには倒しきれそうだ。



「火力不足で時間かかりそうだな」



 草原に座り込んだガンマは一人呟く。

 ソルダートは攻撃に参加しており、周囲には誰もいない。

 強力な魔眼には一日ごとに使用回数があり、攻撃用の魔眼はすべて使い切ってしまった。

 このまま信太郎や空見の加勢に行っても、足を引っ張るだけだろう。



「マモル。あとは頼んだぞ」



 ガンマは、遠くで戦う信太郎やマモル達へと祈るような視線を向けた。

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