第22話 ベヒーモスVS鬼族の軍隊!そして・・
「だらっしゃぁっ!!」
信太郎の回し蹴りとその風圧でゴブリンの群れが消し飛んでいく。
背負われたマリは自分と信太郎を結界で守りつつ、周囲に視線を向ける。
探知魔法で周辺を探るが、怪しい動きや魔道具の反応は感じない。
その時、マリの探知魔法に引っかかる生命反応があった。
(この感じ……シャーマンの群れだ!)
「信ちゃん! あそこにシャーマンがいるよ!」
「おう! 突っ込めばいーんだな!?」
マリが指さす方向へ砲弾のように信太郎は飛び出す。
その速度は亜音速にまで達していて、触れようとするモノを小石のように跳ね飛ばしていく。
自分を覆う結界がギシギシと悲鳴を上げるのを見てマリは肝を冷やす。
(結界はあまり長く持たないかも!? 早く終わらせなきゃ!)
信太郎の突進を阻もうと、ゴブリンやオークが陣形を作って迎え撃つ。
それをものともせずに蹴散らし、信太郎はシャーマンたちに接近する。
「でやあぁっ!!」
渾身の前蹴りが炸裂し、シャーマンどころか衝撃波で陣地ごと消し飛ぶ。
爆撃でも食らったかのような衝撃に大地が深く抉れる。
恐ろしい威力にゴブリンたちは思わず怯み、後ずさりしていく。
戦いは今のところ順調だがマリは焦っていた。
(このままだと魔力が持たないかも!!)
先ほど結界を二重に張り直したのだが、もう限界が近い。
信太郎の動きが激しすぎて結界が持たないのだ。
もしものことを考えて可能な限り魔力の消費を抑えたい
そんなマリの視界に鉄塊が目に入る。
オーク達の使っていた武器だ。
鬼族の死体と共にそこら中に散乱している。
「信ちゃん! そこにある大きな槍を拾って!」
「お? これか?」
信太郎は地面に刺さっていた2メートル越えの槍を手に取る。
「それをあそこに全力で投げて!」
マリが指で示すその先には魔法陣を展開したシャーマンの反応がある。
どうやらマリは近づかずに倒す方向にシフトしたようだ。
「おう! いっくぜぇっ!!」
信太郎は大きく振りかぶって槍を投げた。
その速度は音速に近く、戦車の主砲並みの威力で着弾し、シャーマン達を爆砕する。
(シャーマンらしき反応は消えたみたいね)
「信ちゃん、今のでシャーマンは最後みたい」
「お? そーなのか。じゃどーする?」
マリは周囲を見渡す。
鬼族の軍勢もほぼ壊滅状態だ。
探知魔法に何も反応はなかったし、一度報告に戻った方がいいかもしれない。
「信ちゃん、一度撤退しよっか」
「おう!」
◇
「ソルダートさん、特に怪しいものはありませんでした。一応魔法で探知したのですが魔道具もなくて……」
「魔道具もなし? 奴らの切り札は何だ? もしやこちらの考えすぎか?」
マリの報告にソルダートは納得いかない様子で考え込む。
今までの経験上、ゴブリンが策もなしにこんなことをしてくるとは思えなかったのだ。
「ソルダート兵長。君は考えすぎだ。見ろ! 連中を。仮に策があっても簡単に倒せるだろう! この機を逃す手はない」
「市長殿……」
確かにこの惨状では鬼族はなにも出来なさそうだ。
一部のゴブリンは撤退準備を始めているがその動きはのろい。
今攻撃すれば一網打尽にできるだろう。
「分かりました、市長殿。君、たしかマリといったな? あとはこちらに任せて休んでいてくれ。ご苦労だった」
「はい、それでは失礼します」
そういってマリは踵を返し、信太郎の元へと向かった。
「兄ちゃんたち、大丈夫かー? これ食う?」
マリが帰ってくると、信太郎は空見や薫と話し込んでいた。
2人は今来たばかりらしく、口元に干し肉を突きつけてくる信太郎を迷惑そうにあしらっていた。
空見達は体調が悪そうで、顔色も青白く、ふらついている。
「信ちゃん、体調悪そうだからやめたげて。あの、大丈夫ですか? お二人とも顔色悪いですよ」
「少し眠れたから大丈夫……と言いたいけど」
「正直キツイね。信太郎が敵の数減らしてくれなかったらヤバかったかも」
珍しく薫までもが弱音を吐いたことにマリは内心驚く。
その時、兵士達の雄たけびが轟いた。
振り返ると、どうやら鬼族の残党狩りに出るところらしい。
士気を上げようとしているのか、市長が大声で叫んでいる。
「諸君! 長年我らを苦しめてきたゴブリン共についに引導を渡す時が来た! 兵長! 魔導士たちに一斉攻撃させるのだ!」
すでに敵は壊滅状態で負けるはずがない。
市長も嬉しさを隠しきれない顔つきだ。
もうゴブリンの土地を手に入れた気分なのだろう。
「一斉射撃の後に全軍で突撃するぞ! 魔導士部隊、放てっ!!」
兵長の号令で魔導士たちから魔法が一斉に放たれる。
火球が、氷柱が、風刃が雨のように鬼族へと降り注ぐ。
(どうやら杞憂だったみたいだな。被害も無く、このまま倒せそうだ)
ソルダート兵長が胸をなで下ろした時だった。
戦場に轟音が響き、攻撃魔法の雨が消し飛ばされる。
まるで隕石でも衝突したような衝撃で大地は揺れ、誰も立つことができなかった。
信太郎を除いては。
「な、なにが起きたの……?」
衝撃で転んでしまったマリは鈍い痛みに顔を歪めながらも慌てて起き上がる。
彼女の目には信太郎の背中が映るが、それは見慣れた幼馴染とは別人のような気配を出していた。
「信ちゃん……?」
マリは困惑した様子で口を開く。
いつものお気楽な幼馴染ではない。
何かを警戒しているのか、信太郎の毛が逆立つ。
「マリっ!! 何かやべぇ奴が来たぞ! 下がってろ!!」
「え?」
背後のマリには振り返らず、砂煙の向こう側を睨む太郎。
太郎の体に宿るベヒーモスが吠えているのだ。
自分を殺しうる強敵の存在を。
そしてそれは現れた。
土煙の向こうから小さな人影が歩いてくる。
年齢は10~12才くらいだろうか。
赤いローブを着た可憐な少女だ。
だが平和ボケした日本人でも分かる。
彼女に染み付いた血と死臭に。
生物としての本能が訴えているのだ。
彼女はヒトの姿を被った化け物であると!
「こんにちは! 強いお兄ちゃん!」
彼女の視線は信太郎に向いている。
思わず見惚れるほど整った容姿だが、その視線は凡人でも分かるほど殺意を漲らせていた。
真剣な顔つきの信太郎はゆっくりとボクサーのような構えをとる。
「俺のことか? つーかなんだおめぇは? 敵か?」
「う~ん、一応は敵になるのかなぁ? あ、名前はアリスだよ~! 星辰教団で~、暴虐のアリスって呼ばれてるの!」
赤いローブの少女、アリスは可愛らしく微笑んだ。
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