第21話 鬼の大軍4 


「こうなったら信太郎! もうお前しかいない。頼んだぞ!」


「お?」



 ガンマの言葉に信太郎は顔を上げると、その口元には干し肉が咥えられていた。

 どうやらおやつタイムだったようだ。

 実にマイペースな男である。



「信太郎、お前なら一人でアイツら倒せるよな?」


「お? 問題ねーぞ」


「お、おい。こんなアホそうな奴で大丈夫か……?」



 ソルダートが慌てて止める。

 彼の目には残念な少年を時間稼ぎに突貫させるようにしか見えないからだ。



「こいつはこの町で唯一の金ランク冒険者だぞ」


「なんだと!?」



 金ランク冒険者。

 それは冒険者の上から3番目のランクであり、一国に両手で数えられるほどしかいない腕利きだ。

 太郎はこの2ヶ月間で多くの強敵を倒してきたため、異例の速さで金ランクの冒険者になっていた。

 太郎の冒険者ランクを知った兵士達が驚きの目で太郎を見る。



「嘘だろ、こんなアホそうな奴が……?」


「こいつ知ってるぞ! 確か今週だけで3回以上迷子になってる男だ!」


「俺、宿まで手ぇ引いて連れてったことあるぞ」



 どうやら信太郎はこの町では色々と有名なようだ。

 もちろん良くない意味で。

 信太郎が金ランクの冒険者と知ったソルダートは目の色を変えて詰め寄る。



「まさか君があの噂の……ベヒーモスの戦士なのか!?」


「お? なんだそりゃぁ?」


「ソルダート、どこでベヒーモスのことを?」



 怪しむガンマの問いにソルダートは答えにくそうに口を開く。



「その、本人を前にして言いずらいが、ベヒーモスは最強の魔物と言われているが、ほら! 頭脳が弱いだろ? だから強いけど頭脳が残念な者をこの辺りじゃベヒーモスと呼ぶんだ」



 どうやらこの世界のベヒーモスは相当に頭が弱いようだ。

 兵士達の信太郎を見る視線が生暖かいものに変わっている。

 妙な雰囲気を壊すようにソルダートは声を張り上げた。



「とにかく! ゴブリンが無策で攻めてくるはずがない! 何か切り札があるはずだ。それらしい罠、魔道具、危険そうな魔物。妙な動きをしている奴がいたら教えてくれ!」


「ちょっ!? ちょっと待てよ、おっちゃん! そんなたくさん言われたら覚えらんねーよ!?」


「……は? いやだから罠と危険そうな魔物と魔道具、そして妙な動きをしている奴を……」


「多いって! 俺覚えらんねーよ!?」



 誰もがこいつマジかという視線で信太郎を見る。

 信太郎はチートの代償で知能もベヒーモス並みになっているため、三つ以上の複雑な命令は理解できない。



「嘘だろ……?」



 ガンマは呆然と呟く。

 鑑定の魔眼で知ってたが、チートの代償がここまでひどいとは思ってなかった。



「信ちゃん! 私が一緒に行くよ」


「お?」



 口を開いたのはマリだ。

 彼女は信太郎の背中に抱き着くと、母親が幼子に言い聞かせるように、安心させるような口調で言葉を紡ぐ。



「いつもみたいに行けば大丈夫! 信ちゃんは私をおんぶする、そして何をやって欲しいか私が一つずつ指示するから、信ちゃんそれをこなせばいいの。ね、簡単でしょ?」


「おお! そいつは分かりやすくていいぜ! よーし、マリに全部任せた!」



 信太郎はマリを軽々と背負う。

 マリの豊かな双丘が背中に当たってる信太郎を小向羨ましそうに見つめる。



「ちょっと子ブタ、なにそれ? え? ワタシの掴んだとき無反応だったクセに!」



 額に青筋を浮かべたエアリスは小向の眉毛をブチブチとむしり取り、小向はたまらず悲鳴を上げた。



「ちょっと! エアリスさん痛いっす! 眉ナシになっちゃうっすよ!?」


「おいコラ、エアリス。小向イジメんじゃねーよ! 仲間なんだから仲良くしろっての」



 エアリスの行いをやめさせると信太郎はマリを背負い、城門から飛び出していく。

 そんな新太郎を見て兵士はポツリと呟いた。



「あ、あんなアホがこの町最強の冒険者なのか……?」 



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