第18話 鬼の大軍
城塞都市モリーゼの中央広場には噴水があり、石畳で覆われた広場を取り囲むように石造りの建物が並んでいる。
そこで一際大きな建物が市庁舎だ。
今ここでは都市の危機をどう対処するか会議が行われていた。
「応援を呼べばいいだろう!」
「どこも手一杯だ! 来ると思っているのか!? 相手の大半はゴブリンだ。返り討ちにできるだろう!」
「奴らが無策で来るはずなかろう!」
「北の町にあの『魔導戦姫』が来てるらしいぞ! 籠城すべきだ!」
会議は一向に纏まらない。
籠城か交戦するか。
市長と取り巻き達は交戦派のようだ。
地の利を捨てたゴブリンなぞ野戦では脅威ではない。
おまけにゴブリンを倒せば奴らの土地が手に入って懐が潤う。
どうせそんなことでも考えているのだろう。
この町の兵長、ソルダートはそっとため息を吐いた。
「魔導戦姫?」
ちらりと視線を向けると、ここ最近ソルダートが目をかけている冒険者の一人であるガンマが首を傾げていた。
魔導戦姫というキーワードが気になるのだろう。
「そういう二つ名の魔法使いがいるのさ。とんでもない美人らしいぞ」
「へぇ」
ソルダートに気のない返事を返しながらガンマは頭を働かせる。
魔導戦姫についての情報も気になるが、今はそれどころではない。
鬼の大軍をどう対処すべきか考えねばならない。
こっちには『魔獣王ベヒーモス』の力を持った太郎がいるのだ。
最悪、一人で突貫してもらえば時間はかかるが殲滅できるだろう。
負けはしないとは思うのだが、気になる点が一つあった。
「ソルダート、あの臆病なゴブリン共が自分の縄張りから出てきたことあるのか?」
「一度もないな。罠を用意して迎え撃つのが奴らの戦術だ。つまり……」
「何か理由が、例えば必勝の策があるとか?」
「その可能性が高いと私は思っている」
「だよなぁ」
ゴブリンは自分が弱いことを自覚している。
だからこそ彼らは無策なことはまずしない。
だというのに攻めてくるということは勝てる算段があるということだ。
(信太郎がいれば負けはしないと思うが、何かうす気味悪さを感じるな……)
思考の海に沈むガンマ。
そんな時、市長の視線がソルダートに向いた。
「ソルダート兵長! 君はどう思うね?」
「……あの臆病なゴブリン共が無策で攻めてくるはずがないかと」
「たとえそうだとしてもだ! オークはともかくゴブリンなぞ野戦では雑魚だろう?
一息に攻め滅ぼしてしまえ!」
「敵の別動隊が町を襲うやもしれません」
「この町の城壁を破れるはずがない!」
「外と繋がる下水道から侵入してくる可能性もあります。ご安心を。すでに配下を向かわせ、バリケードを作らせています。ですが市長殿、この町の兵力では手に余ります」
ソルダートの言葉に市長は小さく唸る。
市長だって分かっている。
この町の兵力では撃って出るのは危険だということは。
だがうまくいけば、ゴブリン族の豊かな土地が手に入り、そうなればさらなる富と名誉が手に入ることは確実だ。
悩む市長に取り巻きが話しかける。
「市長、いっそのこと平民を徴兵するのは?ゴブリンくらいなら……」
「『気功』による身体強化も出来ない奴らが戦力になると思うのか!? 無駄に死ぬだけだ!」
ソルダート兵長は市長の取り巻きをどやしつける。
ゴブリンは鬼という種族の中で最弱だが、鬼の端くれである彼らは筋肉の塊だ。
さすがに気功による身体強化ができない村人が勝てるような敵ではない。
『気功』とはこの世界の戦士にとって必須技能だ。
外気功と内気功の2種類に分かれていて、外気功は体表の硬化、内気功は身体能力を2~10倍も強化できる。
強化状態を維持するのにも気力を消費するので長時間は使えないが、気功とは戦士の必須技能にして奥義でもあるのだ。
当然ながら気功は訓練もなしに使えるものではない。
市長の取り巻きならそんなことは知っているはず。
つまりこの男は遠回しに平民を肉壁に使おうと言ったのだ。
ソルダートに一喝され、市長にも白い目で睨まれた男は縮みあがる。
会議場が静まった時にそれは起こった。
突如、轟音と地響きが響いた。
「な、なんだ!?」
「敵襲か!? おい! 誰か人をやって状況を調べてこい!」
突然の揺れと爆発音に会議場のモノは混乱する。
そこにドタドタと足音を立て、蹴り破るように兵士が飛び込んでくる。
「大変です! 城門の一つが落とされました!!」
「はぁ!? バカな!どうやって!?」
「それが、すでに下水道から侵入していたみたいで……! 侵入したゴブリン共は打ち取りましたが、奴ら自爆しやがったんです! それで城門が!!」
「なん……だと」
兵士の報告に市長の顔が青くなった。
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