第1話 三つのガチャ

「さて、これで全員揃ったね」


 真っ白な空間に声が響く。

 信太郎が辺りを見回すと、数十人近い人々が宙に浮いているのが見えた。

 誰もが困惑した表情で何事かを叫んでいるが、不思議と声が聞こえない。

 隣で不思議そうに周囲を見回す信太郎に声をかけようとするマリだが、声が出ないことに驚く。


(何これ!? ここは一体どこなの!?)



 混乱するマリだが、能天気な表情の太郎を見て少しだけ落ち着きを取り戻す。

 その直後に再び声が響いた。



「僕は君らの考える神様みたいなものさ。混乱されて叫ばれるのも面倒くさいから声が出ないようにしたんだ。後で元に戻すから安心してね! さて、説明をしよう。君たちは若くして死すべき運命にあった人間たちなんだ。このまま地球に戻れば個人差もあるけど一週間以内に死んでしまう。でもそんなの嫌だよね? だから僕と取引しようよ」



 言葉の終わりとともに、この空間にいる全ての人々の目の前にスマートフォンが現れる。

 太郎やマリがそのスマホを手に取ると、その画面にデフォルメされたガチャが3台映っていた。

 左から順に赤色、黄色、青色のガチャが並んでいる。

 画面にはどのガチャを引く? という文字が浮かんでいる。



(取引って一体なによ? ガチャは3種類あるけど何か違いでもあるっていうの?)



 自分たちが死の運命にあるとか、質問したいことが山積みだが声が出ない。

 何が起こっているのか分からないが、自分たちの命を握っているのは間違いなくこの声の主だ。

 悲しいほど記憶力のない信太郎の分まで自分がしっかりと話を理解せねばならない。マリがそう気を引き締めるのと同時に神を自称する者の声が響く。



「赤色のガチャはハイリスクハイリターン! 必ずチート能力が手に入るよ。

 黄色のガチャはノーリスクで強力な能力がランダムで手に入る!

 青色のガチャは君らの望んだ能力が必ず手に入る!

 でもパワーは低めだから青ガチャで無双とかは無理だよ。

 取引っていうのは手に入れた能力で異世界を守ることさ! 簡単だろ?

 説明は以上だ、5分以内に異世界に強制転送するからさっさとガチャ引いてね~!」



 説明が終わると空間の真ん中に300という数字が表れ、一秒毎に数字が減っていく。

 周囲の人々は急な事態と適当な説明に困惑しているのか、不安そうに辺りを見回す者や何事かを考えこむ者に分かれた。

 当然マリは後者だ。

 彼女は先ほどの説明を思い起こしていた。



(赤のガチャはチートだけどハイリスク? どの程度のリスクか分からない以上選ぶべきではないよね。青のガチャは欲しい能力が手に入るみたいだけど弱い?

 なら黄色のガチャが一番安全なはず)



 マリはスマホ画面に映る黄色のガチャをタップする。

 するとスマホ画面が点滅し、光の玉が割れる演出が入り、文字が浮かび上がった。


「おめでとうございます! 『上級魔導士:全属性』がインストールされます」



 その直後、マリの頭に激痛が走る。

 ほんの数秒だったが、痛みで頭を抱えるマリの瞳には涙が溢れる。

 頭痛がなくなり、ほっとしたマリは異変に気付いた。


(これは……!? この知識は一体なんなの!?)



 今のマリの頭には身に覚えのない知識が存在した。

 体に満ちる魔力やそれの扱い方、そして魔法の使い方がなぜか理解できた。

 下級から上級までのあらゆる魔法の使い方がマリの頭にインストールされていたのだ。


(これがガチャで当たった能力!? 特にリスクはなさそうね。黄色のガチャで正解だったのかな? あっ! そうだ、信ちゃんは!?)



 慌てた様子でマリは信太郎の様子を見る。

 すると信太郎はよい笑顔でサムズアップをしていた。

 彼が見せつけてくるスマホ画面にはこう書かれていた。



 おめでとうございます! 『地の魔獣王ベヒーモス』がインストールされます。

 これであなたの肉体はベヒーモスと同等です。

 注意! あなたは赤のガチャを引きました。

 チート能力の代償としてマイナススキルが永続付与されます。

 あなたの代償は『知能もベヒーモスと同じ』になることです。



(チートの代償……? まさか信ちゃんってば、赤のガチャ引いちゃったのぉ!?)


 マリが頭を抱えるのと同時にカウントダウンが0になり、異世界転移が開始された。

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