第6話 騾馬に揺られりゃ、死も揺れる その3
「星那、お前の騾馬も貸してくれ。二頭立てで
「いいよ。アタシは飛べるし、その方が戦える。
ああ、そうだ、香輝くん、さっき『どこかでオレ、訓練したい』って言ってたね」
「言ったけど」
答えながら嫌な予感がした。
「もうすぐ後ろの奴等が追いつく。訓練だと思って戦ってみな。腰に下がっている剣を振り回すんだ。
悟蘭とアタシは突っ込む準備に少し時間が要る。時間稼ぎ頼んだよ」
「ええ……と、訓練というのは実戦じゃなくて」
オレが言いかけた時には、後ろからガサガサガサッとした音が近づき、さっきの五体が現れた。慌てて腰の剣を抜いた。剣からは火花が飛び散っている。
「やった!これが光の魔法か」
オレは肩の妙声鳥に聞いた。
「いえいえ、それはまだ使う前段階。敵と相対した時には火花が飛び散ります。でも、剣の魔力を使いたい時には、ライトニングと呪文を唱えます。貴方が成長し、魔力が備わるほどに威力を増すことでしょう。
香輝様!如意宝珠で授かった勇者の力を存分にお使いください。勇者としてのご活躍を信じております。
それでは、私は、念のために空から見守ります」
「オイッ、オレの力を信じるなら、肩に止まったままでいいんじゃないか」
「私の目を通して天女様も香輝様のご活躍をご覧になっております。」
「なに、天女様が見ている。そうか!」
俄然、戦う気迫が湧いてきた。ドローンでオレの活躍を見ているようなもんだ。いいところを見せるぞ!
……とはいえ、不気味な姿をした奴等へオレの方から飛び込んでいく勇気はもちろん無い。
「さあ、来い!」
ヘタレ心に負けまいと毒兵達へ叫んだ。奴等、オレから四メートルまで、ジリジリと近づいてきた。オレも自然と後ずさっている。
どいつから来る?奴等の一体一体の動きに目を配った。だが、それ以上、一向に近づいてこない。睨み合いになった。
「勇者様に臆したか!」
試しに前に一歩ドシッと出てみると、奴等、一歩下がった。
「オレの強さを恐れているのか?!勇者の力を感じるのか?!」
根拠の無い自信がドクドクとオレの体に
どうする?突っ込むか?
「香輝様、敵は貴方様の体中に付いている天の施しを嫌がっております」
「オレじゃないのか」
上から妙声鳥が言った。そうか、天の施しは単なる迷信じゃなかった。散々転んでオレの体中にこびりついている天の施しが奴等の接近を許さない。
そういえば、納豆菌が植物のカビ病殺菌対策で研究されていた。オレは大学の講義をちょっと思い出した。この納豆に似た物は、おそらく殺菌作用か浄化作用を持っているのかもしれない。
良薬鼻に臭し……、オレのバリヤーになっているわけだ。
ホッとしたら、臆病心がまたムクムクムクッと首をもたげてきた。突っ込まずに、じっとしていれば安全だ。いやいや、このままじゃ訓練にもならなけりゃ、オレの力がどれだけかを知ることもできない。駄目でしょう。
迷いながら額に汗を浮かべているところに声が掛かった。
「香輝、時間稼ぎご苦労。準備はできた」
悟蘭がオレと毒兵との間に割って入ると、あっという間に斧の背の方で毒兵五体を叩き倒した。
つ、強い。オレは何もできんかった。
後ろを見ると二頭の騾馬、その鼻面と胸、前脚、胴体と防具が施されている。オレが身につけている鎖帷子みたいなものだ。
そして、二頭の轡(くつわ)と胸に二本の銀色の鋼が張られ
「ミスリルの刃だ。最高に切れるぞ!
儂が奴等を切り倒しながら進み、奴等の群れの中に道をつくる。香輝、お前は後を死なないようについてこい!
戦いの間はこれで顔を覆え。お前の大好きな天の施しを染み込ませてある。ほらよ」
バンダナのような布が投げ渡された。
「後ろはアタシに任せな。戦うことに決めた女仙は強いよ!」
星那は
「突破しながら、魔鬼モウルドを倒す!」
ヘッ?それはいくら何でも虫が良すぎでは……
オレは、口の上をバンダナで覆い、大掃除中のサザエさんの姿になった。
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