第2話 心配しなくても大丈夫
「何も書かれてない……」
パラパラとめくり、本の中を確認していく。夢の中と同じ、真っ白な本。驚きすぎて、ボーッと本を見ていると、リビングから、アカリを呼ぶ声が聞こえきた
「アカリ!遅刻するぞ!」
「えっ?」
聞こえてきた兄の声に時計を見ると、遅刻しそうな時間。大慌てて制服に着替えて部屋を出る
「お父さん、おはよう」
「アカリ、おはよう」
バタバタと音をたてて、テーブルに座って急いで朝ごはんを食べてく。アカリの向かいに父親も座って、一緒に朝ごはんを食べてく
「あれ?お兄ちゃんは?」
「もう出たよ。アカリも、遅刻する前に行かないとね」
「うん」
まだ少しだけゆっくり食べれる時間。学校の事や友達のことを話して、二人楽しく朝ごはんの時間が過ぎて、ご飯を食べ終える頃、ちょっと申し訳なさそうに父親が、アカリに話しかけた
「……ところでアカリ。今日からしばらく、仕事で帰って来れないかもしれないけれど……大丈夫かい?」
「うん。大丈夫!馴れてるし。お兄ちゃんも居るから」
「そうかい……」
「心配しないで。もう中学生だし!大丈夫だって!」
「そうかい。ありがとうアカリ」
心配させまいと、微笑むアカリにつられて一緒に微笑む。そんな二人の会話を遮るように、時計のカチッという音が聞こえて、アカリが時計を見ると、もう学校へ向かう時間になっていた
「遅刻する!」
慌てて食器を片付けて、バタバタと音をたてて、学校へ向かうアカリ。そんなアカリの姿を父親の顔は、どこか浮かない表情で見送っていた
「ヒカリね……あの本には似合わない名前」
「仕方ないじゃない?あの子は、なーんにも知らないみたいだもの」
「へぇ、知らないなんて珍しいじゃん」
アカリの家の屋根の上で、学校へ向かうアカリの後ろ姿を、クスクス笑い見ている影。朝日によって、持っているソフトクリームが溶けていくのも気にせず、アカリの様子を見ている女の子と、ウサギのぬいぐるみのようなものの影が二つ
「普通に育てたいって言って。私達にはこれが普通なのに、変なこと言って去っていったのよ……」
「ふーん……」
溶けて手についたソフトクリームをちょっと舐めて、アカリの後を追ってく。ガサガサと木に隠れながら、気づかれることなく、もうすぐアカリの学校に着きそうな頃、ソフトクリームも食べ終えて、学校からちょっと遠い場所から、アカリの様子をうかがっている
「ところで、あの子のお兄ちゃんは?どんな本を持っているの?」
「それは、秘密」
「なにそれ?」
質問に、笑って答えないウサギのぬいぐるみに、不機嫌になる女の子。そうこう話している間に、アカリは学校の中に入って見えなくなっていた
「ちょっとリリ。勝手にどこ行くの?」
ウサギの姿から本の姿になって、女の子から離れていく。本からふふっと少し笑う声が聞こえると、一つ言葉を残していつの間にか消えていった
「ちょっとお話にね。今日中には帰ってくるから。夕御飯よろしくね。ユイ」
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