これくしょんブック

シャオえる

第1話 本を灯し導くもの

「ここは……」

 女の子が一人ポツリと呟いた、その女の子が見える世界は、今は真っ暗。キョロキョロと辺りを見渡しても、明かりもなく道も見えない

「こっち、こっち」

 動けずにいると、どこからともなく声が聞こえてきた

「こっちよ」

 怯えつつも、ちょっとずつ暗闇の中、声のする方に歩いてく。数歩、歩いた先に真っ暗の中、床に置かれた本に目が止まる

「……本?」

 無造作に置かれた本を取る。表紙には、ネコの絵が書かれた真新しい雰囲気の本を、パラパラとページをめくる。中は一枚目から最後のページまで、何も書かれていない真っ白な本


「何も書かれてないけど……」

 ページにそっと触ると、触れた指先に触れた場所から、見慣れない文字が浮き出てきた

「えっ?今……」

 触れてすぐ一瞬で消えた文字。また真っ白な本に戻り、驚いて思わず本を落としてしまった

「やっぱりそう。ずっと貴女を探してた。力を持つ者」

 そんな怯える女の子の様子に、楽しそうな声がまた話しかけてくるが、未だに声の主の姿が見えないまま

「……なに?あなたは、どこにいるの?」

 恐る恐る返事をすると、床に落とした本が勝手に、パラパラと開きだす


「書いて、詠んで。貴女の力を」

 と言うと、ふわり浮いて話しかけてくる本。目の前でひとりでに浮いて話す本に、少し後ずさりする

「誰……?私の力……?」

 思わず辺りを見渡して、自分以外の誰かがいるのか確認する。相変わらず真っ暗で足音も聞こえない。本と自分しかいない状況に不安が増えていく

「ねぇ……本が喋っているの?」

「そうよ。貴女が願うから。貴女がそう言ったから」

 

「貴女、名前は?」

「……アカリです」

 本からの質問に答えると、パラパラとページをめくる音をたてていた本が、静かになった

「アカリ……アカリ……。本を照らすアカリ。素敵な名前ね」

 話始めると、楽しく笑うような声で喋る本に、更に後ずさりして逃げようとするアカリ。そんなアカリを止めるように、本がまた話しかけてくる

「ねえ、アカリ。今度は、私の名前を呼んで」

「あなたの?」

「そう……名前をつけて。素敵な名前を」

「でも……」

「早く、早く。時間が無いの」

 急に言われて戸惑うアカリを急かすように、パラパラとページがめくったり戻ったりしている。突然、名前をつけてと言われて考えるアカリ。暗闇の中でも見える本に、これだ。と名前が思い浮かぶ

「あ、あなたは……」


「……あれ?」

 名前を言おうとした時、目が覚めてしまったアカリ。また状況が読めず、ボーッとしている意識の中で、辺りを見渡す

「夢…?」

 今度は見慣れた自分の部屋にホッとする。時計を見ると、ちょうど目覚ましが鳴る。うるさい目覚ましを止めて、まだちょっと寝ぼけながら、ベットから降りて学校へ行く準備をしていく


「おはよう……お兄ちゃん」

 準備を終えて、リビングに行くと美味しそうな朝ごはんの匂い。カタンと椅子の音をたてて座る

「……おはよう。具合でも悪いのか?」

「ううん、大丈夫」

「さっさと食べないと、学校遅れるぞ」

「うん……」

 小さい声で返事をすると、ゆっくりとご飯を食べ始める。向かいに座って兄も一緒に、二人で朝ごはんを食べてく

「お父さんは……?」

「寝ているよ。大分遅くまで起きてたみたいだから、起こさないようにな」

 すぐ会話が止まって、黙々とご飯を食べ進めていく二人。先に食べ終えた兄が食器を片付けると、一足先に学校へ向かうため玄関に向かってく

「先に出る。片付けて行けよ」

「うん……」




「変な夢だったなぁ……」

 学校も終わって、のんびりと過ごしている夜。眠るためにベットに入ってゴロゴロとしている。ふと今日見た夢を思い出しながら、ウトウトと睡魔が襲う

「今日も見るのかな?」

 と、呟いている間に眠ってしまって夢の中。スヤスヤと寝ていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた

「……アカリ、アカリ。どこ?」

「呼んでる……昨日と同じ声だ」

 声がする方へ、暗闇の中ゆっくり歩いていく。昨日と同じく本がふわふわと浮いて、アカリが来るのを待ち続けていた本。また会えて嬉しいのか、ページがパラパラと開いたり戻ったりしている


「また来てくれた。やっぱり力を持つ者……」

「あの……あなたは……」

「早く呼んで。私の名前」

 質問をしようとしたアカリの言葉を遮って、名付けを急かす本。やっぱりかと思いつつも、昨日考え言おうとしていた名前を、ポツリ呟く

「あなたの名前は……ヒカリ……でいい?」

「ヒカリ……。素敵な名前。私は、アカリを導くヒカリ」

 嬉しそうな声とともに、再びパラパラとページが捲られ、本から眩しい光が溢れる

「アカリ、これから宜しくね」

「え?どういう……」

 意味を聞こうとした時、ハッと目が覚める。体を起こしてキョロキョロと辺りを見渡す。見慣れた自分の部屋に、ホッと一つため息をする

「また……変な夢だったな……」

 一人言を呟いて、少し動かした右小指にコツンと何かが触れて、驚いて指先を見ると、夢で見た本がアカリの側に居た

「えっ?どうして……夢で見た本が……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る