5-5 夢見降魔のデイブレイク
「な、なんじゃこりゃ……」
出社直後。
クソデューサーからのメールを見た私――三厨天使は猛烈な頭痛に襲われる。
「ホライゾンのライバー全員を声優として起用? しかも収録締切は今日から一ヶ月以内? ムリムリムリ!!」
「なんだ三厨、朝から騒がしいぞ」
「プッ、プロデューサーなんですかこれ! 私なんにも聞いてないんですけど!」
私がそう叫ぶとプロデューサーは、ニチャアァ……と不気味な笑みを見せる。
「ああ、これか? 話が固まるまでは期待させたくなかったからね。形になるまでは黙っていたのだよ」
「それでもスケジュールというものがあります! せめて私だけには話を通してくれないとっ!」
「なにを言ってるんだ。キミだってユーグレラを持ち込んだ時、私に相談のひとつもなかったじゃないか?」
「そ、それは……」
痛いところ突かれ、思わず視線をそらしてしまう。
「夢見先生とも直接話したが、とても話の分かる青年だ。まだ成人してないとは思えない」
「夢見くんと……話した?」
「ああ、彼はこの話に大賛成でね。三厨に負担はかけると思うが、その分ボーナスに色は付ける。頑張ってくれたまえ」
そう言ってクソデューサーは「ほっほっほ」とフリー○ー様みたいな笑い声をあげて去っていった。
「……どうなってんの!?」
話を持ち掛けたのは、間違いなく次元くんだろう。
けど、いったいなんのために?
彼が参加させたがってたのはイガちゃんだけだったはずだ。二日前に話した時にもそんな話は一切出なかった。
あれか? 私がさーちゃんとのエモい会話をイジったから逆ギレしたのだろうか? いやいや、彼はそんなことでブチギレる若者じゃない。なにか事情があるはずだ。
次元くんに電話をかけようとスマホを手に取る――と、ちょうど着信画面に別の名前が表示される。イガちゃんだ。
「あ、みー先輩。メリクリです」
「メリクリ! めずらしいね電話なんて」
「はい。仕事中だとは思ったんですけど……電話しろって言われたんで」
「電話しろ?」
なにかイヤな予感がする。
というか命令口調な時点で大体お察しである。
「はい。和平さんの声で、夢見降魔って名乗る人から」
「……なんて言ってた?」
「なんか記憶が戻ったとかなんとか言って。で、ホライゾンみんなユーグレラに出演するって聞いたから、みー先輩に指示もらってこいって……」
勘弁してくれ。
頭がいまにも爆発しそうだ。
そこで先日、次元くんに告げられた話を思い出す。
クリスマスイヴ、夢見くんとして記憶が戻るとかなんとか。
……まさか次元くん、本当に消えちゃったの?
「ねえ、みー先輩。和平さん、どうしちゃったんですか? 記憶が戻ったってことは、和平さんはどうなったんですかっ!?」
「ちょ、ちょっと待って! 先に確認したいんだけど、イガちゃんはユーグレラに参加してくれるの!?」
「えっと、はい。なんか上手いこと言いくるめられたって言うか、逆らえなかったというか……」
「ああ、そりゃ間違いなく夢見くんだわ」
二年前の日々が蘇ってくる。
自分の思い通りにならないと気が済まず、必ず自分の要求を押し通す。
読者にウケないと編集に言われても、オレが書いたからウケると言って聞かないその性格。無理を通すことしか知らない、その性格は間違いなく夢見降魔そのものだ……
「そしたらイガちゃん、悪いけど一ヶ月分の空いてる日確認してメールくれる? 私はこれから夢見くんと話してくる」
「わかりました。……みー先輩、和平さん。いなくなったりしませんよね?」
「しない、絶対いなくならないよ」
「……ですよねっ! すみません、変なこと聞きました!」
それだけ言ってイガちゃんとの電話を終え、そのまま秒で次元くんに電話を繋ぐ。電話はワンコールで繋がった。
「もしもし? そこにいるのは夢見くん!?」
「ども三厨さん、二年ぶりで~す」
「……ユルくない!? っていうか、夢見くんの体になにが起こってるの?」
「わけあって体を借りてる。アイツに頼まれて追加シナリオ書くことにしたから」
「体を借りる? 追加シナリオ???」
もうダメだ。
情報量が多くて頭がパンクする……
「とりま速水社長と三厨さん三人のライングループを作っときます。会議とか時間の無駄なんで、投稿したことに目を通しといてください。それではまた」
「ちょっと待てやゴルァ! こっちには聞きたいことが山ほどあるんじゃ!」
「あ? ヒマなんすか?」
「ヒマじゃねーっての!! キミが余計な仕事増やしたせいでこっちは大変なんだから!」
「大変って、なにが大変なの?」
「……そりゃ収録予定の調整とか、演者への確認とかっ!」
「じゃメールボックスの共有と、全演者のスケジュール帳を開示してください。オレが代わりにやりますから」
「な、なに言ってんの。社外の人にそんなこと、できるわけ……」
「じゃ自分でやりますか? できますか? できないなら権限ください、手伝います。どっちがいい? ちなみにオレはどっちでもいい」
「う、うう……自分で、出来ます……」
思わずアシスタントだった時のことを思い出す。
夢見くんは仕事が早い。
我々アシスタントズに振った仕事も、時間を余らせて自分でやろうとし始める。
だがアシスタントにもプライドがある。一度任された仕事を先生(しかも年下)に手伝ってもらうのは、あまりにみじめだ。
だがそんなプライドも空しく、締め切り間際にはいつも手伝ってもらう羽目になる。
そして私たちの倍の速さで終わる仕事を見ていると、自分が生まれてきた意味を考えさせられることになるのだ……
「と、三厨さんに頼みたいことがあったんだ」
「なに?」
「紗々って女がいるよな、そいつに伝言を頼みたい。二代目は二週間後に帰るって」
「二週間? っていうか、どこにいるの? 紗々ちゃんの家じゃないの?」
「ネカフェ。執筆が終わるまではそこに居る」
「……会えないの?」
「細かいことはハショるが、無理だ」
「無理って、せっかくこうして話せたのに」
「亡霊に生きてるヤツの邪魔をする権利はないんだよ。とりあえずライングループには入っといてくれ」
それだけ告げると、夢見くんは一方的に電話を切ってしまった。
「……相変わらずのオレ様っぷりだなあ」
久しぶりに話せて嬉しい反面――モヤモヤとしたものが胸に残る。
これ、二年ぶりの会話だよ?
さすがに味気なさ過ぎない??
電話を折り返しても、きっと出ないだろう。
連絡のつかない彼にしつこく電話をして、着信拒否にされた過去もある。
年下ならもう少しくらい可愛げのあるとこ見せて欲しい、とお姉さんは昔から思っている。
「とりあえず、目の前の仕事をなんとかしないとね」
ビニール袋を漁り、エナジードリンクのタブを引く。どうやら年末年始も仕事に明け暮れることになりそうだ。
でも不思議と不安はない。
どんな形であれ、私たちには夢見くんが付いている。
夢見くんの登場は私たちになにをもたらしてくれるのだろうか。
そんな久しぶりのワクワクに……血が騒ぐのを抑えられなかった。
――――――
更新が遅くなってしまい、申し訳ありません!
なるだけ頻度を落とさないよう、精進いたします。。
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