第7話

「旅って…… 本当にそれが目的なのか? 」

「そうじゃ! 」


 天狐は目をキラキラとさせながらこちらを見てくる。


「とりあえず、ここに転移させられる前のお前の状況を教えてくれ。そこで信用するか判断する。」

「な!? まだ信用してくれんのか…… 陰陽師だから仕方にともいえるが。わかった、一から説明するのじゃ。」


 森に横たわっていた木の上にソフィアさんと俺が座り、天狐が目の前に立ち話し始めた。

 まずこの転移させられることを知った出来事は、偶々俺が牛鬼と戦っているところに出くわし『予言眼』で観察したらしい。


『予言眼』とは、天狐のみが持つ目のことである。その目で見た人物や、物が少し先の未来でどんな状況になっているかが見えるらしい。伝承にある「この世を予期する力」とはこのことだろう。まさか存在していたとは……


 その時に俺が転移させられる状況を知り、異世界に行く準備を整えて当日クラスの中に紛れて一緒に転移してきたということらしい。


 そこで壮馬は疑問に思っていたことを聞いた。


「なんで俺はお前の気配を察知できなかったんだ? 」

「確かに黒い子であれば、ほとんどの妖怪の気配に気づけるであろう。しかし、わしらのような長く生きている者たちは『完全催眠』という技を使うことができるのじゃ。

「完全催眠とはなんだ?」

「その技を使うと、対象の人物の記憶を改ざんすることができるのじゃ。今回の場合は田中 良子というクラスメイトが『存在する』と改ざんして、その結果クラスメイトにはわしの姿がその架空の生徒に見えるから溶け込めた。そしてその技を使えば、いくらお主でも気づくのは困難になるはずじゃ。」



 こいつのように長く生きている妖怪というのはSSS級のことだろう。そして完全催眠という技、こんなのが使えるのがあと2体いるのか……。まて、その技を使っていたならなんで今解いているんだ? 生徒のほうがすんなりとこの場を制しただろう。


「じゃあ、なんでその技を解いているんだ? 」

「それは…… この世界に来た瞬間、妖力がなくなってしまってその技も目も今は使えないのじゃ…… 」


 この世界に来た瞬間に妖力の器が、魔力の器に返還されたのだろう。だから自分が持っていた能力が使えなくなったということか。


「こっちに転移してきて最初に目を覚ましたのは俺だと思っていたが、お前のほうが先だったのか。」

「そういうことじゃ。わしは人里に行くのが趣味でな。完全催眠を使えるようになる前にもよく忍んでおったので隠れる技術は一流なのじゃ! 」


 自分の自慢を語ったからなのか、仁王立ちでどやってくる。その体制の時は気分がいい時なのはわかった。段々とつじつまがあってきたな。


「それで俺の部屋に潜り込んで旅をすることを聞いたということか。」

「なんでもぐりこんだことを知っておるのじゃ!? 黒い子にもばれていたのか…… ちょっと自信なくしたぞ……。」

「いや、視線を感じていただけでお前だとは分からな…… まて、お前の存在に気付いていた奴がいたのか? 」

「うむ、一人だけいたぞ。お主の部屋にいた白髪の男じゃ。あの者は何か裏がありそうで少し怖かったのじゃ…… 」

「また叶かよ!! 」

「どうしたのじゃお主!? 」


 しまった、ついつい大声を出してしまった。まさかまた叶が関わっていたのかよ。あいつのことだから、こいつが天狐だってことも知っての上で俺たちと転移させたんだろう。何が目的なんだ。


「少しいいでしょうか壮馬様。」


 ふと、右横に座っているソフィアさんに話しかけられた。


「どうしましたか? 」

「その…… 話を聞いている限り、お二方は向こうの世界で敵対している種族同士だと、そしてそれは遥か昔から続いているものだと。ですがこの天狐という少女は、話を聞く限り私たちに敵対する意思はないように思われます。それに一緒に旅する人が増えればより楽しくなると思いますよ? 」


 ソフィアさんが俺に向けて、ほほ笑むように笑い、言った。

 その言葉で自分の緊張感や疑っていた気持ちが過剰だったことに気付き、そんな自分が少し馬鹿に思えて笑ってしまった。

 ソフィアさんの言う通りかもしれないな。よし。


「天狐、俺たちと旅をしないか? 」

「!? わしも旅について行っていいのか!? 」

「ああ、ソフィアさんが言うには旅は人が多い方が楽しいらしいしな。お前が良ければだが。」


 後、口では言わないが叶が関与していることだから、俺たちと旅をすることで何かしらの意味があるのだろう。


 天狐はその言葉を聞き返答する前に、目から涙がぽろぽろと流れはじめ、いつの間にか上半身の甲冑を脱いでいたソフィアさんが優しく包んだ。良い返事をもらえたようだ。

 何やともあれ、旅をする仲間が増えそれもSSS級妖怪か…… いやもうそう思うのはやめよう。目の前にいるのはただの狐の少女だ。

 涙が収まってきた頃合いにふと疑問に思ったことを聞いた。


「そういえば、お前名前はあるのか? 」

「天狐というお名前ではないのですか? 」

「いやそれは俺たちがつけた種族名みたいなものだ。もしあるならそっちで呼んだ方がいいと思ってな。」


 それを聞いた天狐が顎に手を添え首をかしげて考えていた。


「うーん…… わしはいつの間にか天狐と言われていたから、そう名乗っていたのじゃが…… そもそも名前をつけられたことがないの。」


 妖怪は、異界から突如として誕生するものであり、母や父のような存在はいないといわれている。完全に忘れていたな。

 なら、天狐でいい……

「そうじゃ、黒い子よ。わしに名前を付けてはくれぬかの? 」

「えっ、俺が? 」


 おい、誰かの名前を決めるなんてそんないきなり言われても……


「いいじゃありませんか壮馬様。」

「うむ、よい名前を期待しておるぞ! 」


 二人がこちらに圧としか思えない視線を向けてくる。

 壮馬は頭をカリカリと掻きながら考え、あまりにこの手に関して脳が働かず自分に失望した。そして唯一出た名前を恐る恐る口にした。


「テンはどうだ……? あまりにひねってなさすぎ感はあるが。」

「テン…… テンか…… うむ! いい名前じゃ! わしは今日からテンと名乗ることにしよう! 」

「ええ、とってもいい名前だと思います! 」


 二人の反応を見て、よかったと心から安心した。テンと何回も口ずさんでいるあたり、喜んでもらえているようだ。

 俺は、コホンコホンと咳払い、二人の注目を集めた。


「それじゃあ、気を取り直して自己紹介といこうか。俺の名前は土御門壮馬だ、この旅の目標は叶たちに底を尽きないほどのお土産を持って帰ること。」

「では次は私の番ですね。私はランゴバルト王国第二騎士団所属、ソフィア=クーレンスと申します。この旅の目的は、壮馬様とテン様の護衛と、この旅を楽しんでいただくことです。」

「わしが最後じゃな。わしの名前はテンというのじゃ! この旅の目的は、観たことないものをたくさん見て、食べて心の底から楽しむこと! 壮馬、ソフィアこれからよろしく頼むぞ! 」


 こうして俺たちの旅に狐の少女『テン』が仲間になった。



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現代最強の陰陽師は、異世界で自由に生きたい ~【勇者召喚】で呼ばれるが、その中で唯一の魔力なし【無能】であったため城を追いだされたので、気ままに旅をしようと思います。~ みなかな @minakana782

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