獲物その四 賢者 前編



「魔王ガルマバーン!!!」


「ひやぁッ⁉︎」


 危うく玉座ごとひっくり返るところだった。

 そんな急に扉を開いたら壊れてしまうではないか、勇者エルドレッド・エルリークよ。

 

「どうだ。今日も暇してるか? はははー」

「貴様にせいで暇をしておる。どの口が言うておるのだ。しかし貴様も暇そうではないか」

「自主的に暇を作った!」

「要はサボっているのだな」

「別にいいだろー? 世界は平和なんだ。俺がいなくてもみんな笑ってるさ」


「ふん。知ったことか」


 それをワシに言ってどうしろと言うのだ。反省でも促しているのか。魔族には魔族なりの正義というものがあったのだ。貴様らもそうであろう? 人間よ。


「そんな拗ねるなよ。お前が弱くてみんな感謝してるんだぜ?」

「……」


 励ましているつもりか? 悪気はなさそうだが馬鹿にしてるようにしか聞こえぬ。その屈託のない笑顔はさぞ女にモテるだろうな。

 ……まあ確かに、為す術なくボッコボコにやられたのだが。


 そんなワシをボッコボコにした剣も携えず、本日の勇者もラフな格好だ。その服に描かれた『勇者』という文字は何と読むのだ。流行っておるのか? それ。


「なにしてたんだガルマバーン」

「魔導書を読んでおった……あ」


 ワシの手から魔導書が消えた。


「なになに……『これであなたも魔法使い! やさしく図解 魔法大全』!」

「こら! 大声で読むな! そ、それはボーンが用意したものだ!」


 何か暇が潰せる物はないかとボーンに頼んだところ、あいつはあの魔導書を持ってきたのだ。

 ワシも最初は抵抗があったが気がつけば真剣に読んでしまっていた。特に図解をサポートする妖精のグレイシアちゃんとやらが気に入った。


「お前魔術学園アカデミー一年生かよ。こんなもん読んでも魔力は戻らんぞー」

「うるさいぞ。封印した貴様がワシの封印を解けば良いだけの話だ。そうすれば晴れて魔王復活と——」

「そんなの出来るわけないだろ?」

「うぐ……」


 そんな殺気を放たんでもよかろう。冗談だ冗談。魔王ジョーク。ったく、持っておらんはずの剣が見えた気がしたぞ。

 しかし前回は「暇だから魔力回復したら復活しろ」とか言ってた気がするが。やはりあれは冗談か。まあワシも本気にはしとらんが。


「で、何か用なのか。何もないなら早々に帰るがよい。お前のサボりには付き合っておれん」


 ワシは魔導書の続きが読みたい。


「そんな冷たいこと言うなよー。俺とお前の仲だろー? 昨日の敵は今日の友って言うじゃないか」


 勇者よ、民衆が泣くぞ。


「エル! また公務の途中に抜け出して!」


 よく通る声と共に再び勢いよく扉が開かれた。だから壊れるて。

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