獲物その三 家具職人 前編
あー腰が痛い。
この玉座で眠る魔王スタイル。なんとかせねば。これにデンと構えておれば魔王らしく格好はつくのだが、一体誰に威厳を放てと言うのだ。封印された魔王城になど誰も用はなかろう。
今世界は『魔王は勇者さまに倒され、世界は平和になりましたとさ——おしまい』なのだ。
ワシには威厳どころか魔力もない。ワシなど用済み。魔王の出涸らし。魔王、魔王と過去の栄光にすがるただのバケモノ。
下僕には笑われるし。その下僕が魔力を取り戻すとか言ってくれてもすぐ調子に乗って全部使い切っちゃうし。あーあ。
……いかん。寝不足も相まってネガティブである。
この玉座、いっそのこと捨ててしまってもっとふかふかで寝そべれるやつに替えさせようか……いや、これは代々魔王に受け継がれる玉座だし。座面とか綿見えとるが。
捨てるなど、地獄の父上に怒られてしまう。
出口など見えんこの封印生活、もっと快適なものにせねば。
「魔王さま、なぜ頭を抱えておられるので?」
「はぅッ⁉︎」
そこには見上げる骸骨の姿が。そして今のでさらに腰が。
「ボーン……いつからそこに」
「目を瞑ったまま腰をさすられてる時から。何やらうなされておられましたが」
「もしやそれを見て笑っておったのではなかろうな?」
「ッ——?」
「笑いながら首を傾げるな」
貴様は楽しそうだな、ボーンよ。
「それはさておき魔王さま、お食事のご用意ができました」
「うむ。もうそんな刻限か。あまり食欲はないが」
と言っている間にボーンが配膳の押車を押してきた。
ワシサイズの巨大なワンプレートに山盛りの芋。輪切りにされた食用トードの肉、マンドラゴラサラダ、リザードテールスープ——そして麻布を被され、手足を縄で縛られた人間……人間?
「魔王さま、本日の獲物はこちらです」
「急に獲物感すごい!」
獲物とやらは縛られた足を振り回して大暴れしている。確実に今日のメニューの中で一番活きがいい。
「いや、食べないからワシ。暴れるでない。あースープが溢れる。縄を解いてやれボーンよ」
「はっ」
その刹那、獲物を拘束していた麻布と縄は弾けるように消えた。ワシに聞こえたのはボーンが四本の剣を同時に鞘に納めた音だけだった。
さすが旋風の四本腕。やるではないか。全然見えんかった。
「こやつは?」
「アクトロス城下で一番の腕と名高い家具職人で御座います」
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