偉い人に会うみたい
「坊主、おい坊主」
頬を叩かれる感覚が......。
って痛い痛い痛い!
「痛っ!」
思わず跳ね起きる。
え?跳ね起きる?
「起きたな坊主」
目の前には熊の様な巨躯と巨大な槍。
「だ、誰!?」
思わず後退るが、いかんせん腰が抜けて上手く動けない。
「おう、坊主がそう思っても仕方ないか。なら、説明しよう。私は、Sランク冒険者、ビート・パワルだ。気軽にビートと呼んでくれ」
巨大な体からだされた手が寄ってくる......。
って、何その笑顔は!食う気なんだな?その歪んだ笑みは、俺を食う気なんだろ!
あ、でも逃げれない......。
本能が安全だと言っている。
「僕は──」
「確かアリノだったか?」
ビクッ!
なんで知ってるんだ!?僕はまだ何も言ってない。身の回りに身分を証明できるような物も無い。
「アリモトから聞いたんだ」
あ!有元君のことすっかり忘れてた。
「そ、そうですか......」
「それにしても、何故こんな所に子供二人が武器も持たずにいるんだ?」
え?
「なあアリノ......いや、やっぱりお前は坊主だ。なあ坊主。お前たちはあそこで何をしていた?」
はたから見たらただただ真剣な表情なのだろう。でも、これは......完全に責めるような視線にしか見えない......。
嫌だ、怖い。寄ってくるな......。
ぴちゃ
体が強ばった。
今、何に触れたの?
僕の頭はこういう時にだけフル稼働する。
──助けに行った──紅い眼の中──槍──何も居ない草原──
紅眼の持ち主の......血......。
その瞬間、僕は目眩と吐き気を覚えた。
体が寒くなる。目の前の景色がドンドン白く塗り潰されて、白しか見えなくなる。
平衡感覚も狂い、上下左右がわからなくなり、倒れる。
それがどっちに倒れたのかはわからない。
────
「──ず!」
「有──!?」
石井君かなぁ?今の──
「──。有──。有野!」
はっ!
体がビンッてなった......。いてててて。
「起きたか?有野」
目の前になんか見たことあるような顔が......。
「有元君?」
うろ覚えだけどそんな感じだったはず......。
「よかった、起きたね」
よかった?ていうかここどこだ?
知らない天井......は見えないや。
何これ?よくある王族のお姫様とかが使ってる屋根付きベッドじゃない!?
服も制服じゃない!?有元君と一緒に誘拐された!?
「こ、こ、ここ、こ、どこ?」
なんかこのベッドが怖くなってきた......。
ゴリラみたいなお嬢様が
「よくも私のベッドに庶民の汚い体を置いたわね」
とか言われそう......。怖っ!
とりあえず降りとこ。
「実は、俺もよくわかってないんだ」
え?やっぱり誘拐じゃん!え?どうしよ、俺解体されるのかな?それとも奴隷にされる......?
それとも狼とかの餌?
鳥肌たってきた......。
「あ、大丈夫。あの熊みたいな人が連れてきてくれた場所だから。少なくとも安全ではあると思うよ」
熊の人?熊──がおー──むしゃむしゃ──
「食べられる!?」
「どうしてそうなった!?」
「アリモト、坊主起きたのか?」
2mを超えそうな身長が部屋の扉を開けて入ってくる。
「く、熊!」
「おい坊主、誰が熊だ?」
「ひぃ!」
ダメだ、あの目は絶対に何人か食ってる。
そして俺もあの目で見られたってことは捕食対象になった......。
「アリモト、坊主は怖がりなのか?」
「俺もよく知らないですけど、多分そうかと」
「うーん。アリモトを助けようとしてた時は勇敢だったんだがなぁ」
有元君と何か話してる......。もしかしてビビってる相手はご馳走なのか?
なら強気にいかなきゃ......
「ふ、ふーん!熊の人!ここはどこだ?」
やばっ、声裏返った。
「誰が熊の人だ。まあいいか。坊主、アリモトもちょっと来てくれ」
熊の人が出ていく。
有元君も?今から連れていかれるのは調理場で......どっちも料理するってこと......?
「いや、違うから。少しはその妄想をやめろ」
「え?なんで分かったの!?」
顔に書いてるのか!?
「いや、そんな鳥肌たててたらなんとなくわかるだろ。多分何もされないから、行こう」
あ、有元君行っちゃった。
僕も行かなきゃ......。うぅ、怖いなぁ。
友達の家とかは怖かったけど、ここもやっぱり怖い......。
高級品倒して弁償しろとか言われたら困るし──早く行こう......。
「アリモト、坊主、ここだ」
熊の人が手を振ってる。
「ここは?」
大きな門。隣に兵士?両開きで......中には赤い絨毯。左右にいかにも高級そうな鎧がちらほら。一番奥には豪華な椅子。
あれ?これまさか......
「玉座の間だ。2人とも、ここから私の動きを真似てくれ」
どうやら僕は王様とか、偉い人に会うらしい。
異世界で生き残る為に必要なのは臆病で勇敢な性格でした 希望の花 @teru2015
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