紅眼の集団
「出席とるぞー。有野」
「はい」
今日から新学期が始まる。
上手く自己紹介できるかな......。
「今年一年、お前らの担任を務める、岩谷だ。よろしく」
さっきから教壇にたってたは...髪が薄い先生は担任だったのか。岩谷先生ね、覚えたぞー。
「今から自己紹介をしてもらう。有野から頼むぞ」
早速僕からか。
うー。人前はやっぱり緊張するなー。
みんなの視線が直に浴びせられて怖い......。
「えーと、有野 康太です。
よろしくお願いします......」
あぁ......言いたいこと何も言えなかった......。
って、そんなこと考えてる場合じゃない。
みんなの名前覚えなきゃ!
ふむふむ。あのショートカットの可愛い子が藤崎 美咲さんで、あの奥のとびきり美人の人が山本 由美さん。
そしてあの前に座ってるハーフみたいな子が──
って、女子しか覚えてないじゃん!
男子は......確か後ろの人が石井......優だったっけ?
「よし、終わったな。次は配布物配るぞー」
あ、あれ?不味いな......。男子に話しかけられたら誰の名前も覚えてないってバレてしまう......。
「有野、プリントくれ」
「うわっひゃあい!」
やべ、後ろから触られてまた驚いちゃった。
うわあ最悪......。石井(確か)君も笑うの堪えてるし......。早速やらかしたなぁ......。
「くすぐったかったか?」
あれ?笑ってはいるけど、引いてる感じはしない?
「う、うん」
プリントを回す。
「ごめんな、いきなり触って」
「い、いや、すぐ回さなかった僕が悪いんだよ」
え?何この石井(確か)君。めっちゃ優しい。
「先生、一枚多いです」
僕の列で一枚余った?そんなはずない。僕はしっかり人数分あるのを確認した──
「おお、すまんな」
「先生、取り忘れてました......」
羞恥で顔が赤く染まりそうだ。
なんて恥ずかしいんだ!周りからクスクス聞こえるし......もー本当最悪。
「全員に渡ったなー?それじゃ説明するぞー」
あれ?プリント、光ってない?
「先生、プリント光ってるんだけど、嫌がらせ?」
男子の最後......名前は確か......
「ん?そんなはずは無いと思うんだが......。あれ?光ってるなー?」
わかんないや。
あれ?みんなプリント凝視してる?
もしかして今大事な話してた!?
どこだ?てか光って見にくいな......。
「あれ?なんか、光が迫って来て──」
あれ?何も見え──
「ここどこ?」
「え?何?絵本の中の世界的な?」
「なんか中世っぽいような気もしなくないんだけど......」
「何、知識自慢?」
みんなの声かな?
てことは起きても大丈夫──
「ひぃ!」
「お、起きた。大丈夫か?意識あるか?」
お、起こし方酷くない......?
「う、うん大丈夫だよ石井君」
さっきまで後ろにいたのは石井君って名前だったはずだ......。
「有野?大丈夫か?石井は俺の後ろにいた奴だぞ?俺は有元」
ここでもやらかした!?
「ご、ごめんね有元君」
許してくれるだろうか......
「いいよ、それに状況が状況だしな」
状況?
「ひぇ!」
え?何あの暗闇に浮かぶ無数の目は。
そしてなんでみんな平然としてるの?
え?あれ狼とかそういう類のものでしょ?
「現在進行形で全員ピンチなんだ。今は建物の中にいるから光源と安全が確保できてるけど外に出たら多分一瞬であの世行きだ」
「食料とかは?」
「無かった。本当にただ俺らがいれるスペースしか無かった」
え?詰みじゃん。前門の紅い眼、後門の食糧難だよ。
「ほ、他に逃げ道は?」
「無い」
え?
「じゃあ、どうやって逃げたら──」
「知るか!」
ビクッ
「自分の頭も使って考えてくれよ......。
今は誰かに縋るんじゃなくて、自分の力が必要なんだって思ってくれよ......」
有元君が、膝をついて僕に......いや、みんなに呼び掛けてる。
誰かに頼るんじゃなくて、みんなで活路を見出そうと。そう呼び掛けてる。
なら、どんなにビビりでも、協力しないわけは無い──
「は?何リーダー気取ってんだよ?」
有元君の顔が横に飛んだ。
「な、何してるの!?」
髪を金色に染めたツンツン頭......橋本君!
僕の言葉は反抗ともとれたのだろう、
橋本君が睨んでくる。
「あ?気にくわない奴を殴っただけだ」
怖い。不良って対峙するとこんなに怖いんだ......。でも、今は逃げちゃいけない。
正しいのは、有元君だ。
正しい人が殴られて、悪い人の言うことが正当化されるのはおかしい。
怖い。でも、逃げたらいけない。
ビビりだから逃げていい訳じゃない。
ビビりでも、やらなきゃならない時は、勇気を持って踏み出さなきゃならない。
「何が気にくわないの?」
頬が引きつってるのがしっかりわかる。
愛想良く笑おうと思ったら恐怖に負けた不自然な笑みになってしまった。
「あ?全部だよ。勝手に指揮とってることも、俺に命令するのも、とにかく全部だ。」
「それは、嫉妬だよね?」
言え。言ってやれ。
「自分よりも早く、的確な行動をした有元君に、嫉妬したんだよね。そして、もう1つは八つ当たり──ガっ!」
痛い......なんだ?左の頬が痛い。
「ごちゃごちゃうるせえな殺すぞ?」
僕はその目に何も言えなくなった。
無理だ。やっぱり僕は何もできない。正しい行いを、それをした人を守ることも出来やしない。
「ったく」
不満そうな声だ。
「おい、優真。有元運ぶの手伝え」
「全員逃げ出す準備しとけ」
あれ?運ぶ?もしかして橋本君はいい人なのかな?さっきのは照れ隠しで、本当は優しいんだ。
優真君に運ぶのを手伝ってもらって、みんなで生き残る方法を試すのかな?
「合わせろ優真。せーの!」
「え?」
顔をあげた僕には、橋本君と優真君が、有元君を投げたようにしか見えなかった。
「行くぞ!走れみんな!」
その光景を、みんな無視する。無視して建物を出ていく。
幻覚かと思って見返しても、有元君の体は宙に浮いている。
全員が全員、一人を犠牲にして生き残ろうとしてる。
確かに、その方が生き残れるかもしれない。でも──
それは僕には出来ない。
だって、臆病だから。死ぬのが怖い。傷付くのが怖い。一人になるのが怖い。
でも!
「知人が死ぬのは、絶対に嫌だ!」
足を動かせ!前を向け!手を伸ばせ!
まだ可能性はある。
こんなことで、死んでもらいたくない!
空を舞う有元君の制服を掴む。
「はぁ!はぁ!はぁ!」
つ、疲れた。
けど、救出に全力を尽くしたのは間違いだったのかもしれない。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」
無数の紅眼が僕の体を貫いていく。
建物へ戻る時間は無い。
あ、あれ?おかしいな。
僕の計画だと、僕はこのあと生き残る予定だったのに...。
一時の血の迷い。
ああ、なんて最悪な性格だ。
臆病ならあのまま建物の中にいて助かったかもしれないのに......。
変に正義感が強いからこんなことになる......。
「グギャァウ!」
え?突然の暴風?
「見せてもらったぞ坊主。お前の勇敢な行動を!後は任せろ。お前は安心していればいい」
突然の風と共に、僕の目の前には、槍を持った巨体が現れた。
「え?」
僕には、何がなんだかわからないけど、
謎の安堵感が胸の中で広がってる。
僕の臆病な本能が理解した。
ここは、安全なんだと。
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