第4話
「美しい星だ」
そう口に出さずにはいられない程にその星は美しかった。白い雲の隙間に見える惑星の表面は柔らかい群青の海で覆われ、所々に浮かぶ陸地には暗い緑が生い茂り、まるで動き出しそうな程に生命力にあふれている。船長もビクトリアも画面にう映る景色に圧倒され言葉を失っている。この惑星は潮汐力の影響で常に片面を主星に向けたまま公転している。だからその環境は地球とは大きく異なるはず。この船が出発するときに地球の姿も見たが、その地球の美しさとはまた違う美しさだ。
「これは確実に生命体がいるだろ。というかあの緑っぽいやつは植物か?」
落ち着きを取り戻した船長が何か言っている。
「これは知的生命体の存在も有望ですね」
というビクトリアの声も聞こえた。
「おいルイス、それでこれからどんなルートで観測するんだ?」
船長の声で俺は呆然とした状態から引き上げられた。すこし驚いて体が震えてしまったが特に気にされているわけでもなさそうだ。
「はい、惑星の太陽面側の高度十万メートルから五十万メートルあたりで最接近した後離脱します。周回軌道に乗せるだけの減速ができないので」
「そうかー、でも十万メートルから五十万メートルって誤差が大きすぎないか?」
と船長は顔をしかめた。
「いや、姿勢制御用のスラスターではこれくらいが限界です」
と答えはしたものの正直かなり不安だ。接近においての誤差は致命的だ。もし惑星に近づきすぎてしまえば大気の抵抗によって地表に落ちてしまうかもしれない。いや、そもそもこの宇宙船は大気圏に突入することを想定していないから断熱圧縮で燃え尽きてしまうのが関の山と言ったところか。
「じゃあ、一番安全なやつで頼むよ。接近時は一番危ないんだから」
「はい、任せて下さい」
と答えるとふとビクトリアと目が合った。すぐに目をそらされたが、以前話した重力場の計算が合わないという話が頭をよぎった。
「最接近まであとどれくらい?」
とビクトリアが聞いてきた。
「あと六時間で重力圏に入る。最接近はその二時間後だ」
「ふーん、じゃあ私ひと眠りしてくるから」
ビクトリアはそう言い残すと部屋から出て行った。
「なあ、最近何かあったのか? アイツの様子おかしいけど」
と船長が離れるビクトリアに視線を向けつつ聞いてきた。
「さあ? まあコーヒーが切れてイライラしてるんじゃないですかね」
などと適当に答えてみたが船長の表情は険しいままだった。
「それならいいんだが」
船長はそこで一呼吸を置いて続けた。
「何か不安そうな感じがするんだよな」
そんな船長の言葉を内心大げさだと思いながらも、以前の重力場の計算が合わないというビクトリアの話が頭の中から離れないでいた。
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