第3話
「あのさー、コンピュータ壊れたんですけどー」
とビクトリアが不意に話しかけてきた。この宇宙船には物理演算用の専用コンピュータが搭載されている。もともと、宇宙船では観測データのみを収集して計算は地球で行う予定だったが、付近の重力場の乱れを計算しないことには宇宙船の航行に影響が出るためだ。
「ワープ時の重力場の乱れを概算してみたんだけど、なぜか位相が逆なんだよねー」
ビクトリアは腕を組み首を傾けた。そして眉間にはしわを作っている。
「観測データの入力ミスだろ」
と言ってみるがビクトリアの表情は変わらない。
「十回くらい試したんだけど変わらないんだよねー、そういうわけで詳しく調べたいからルイスのコンピュータのリソース回して」
「いやだし」
「ケチ! だから結婚できないのよ」
といつも通りビクトリアは毒を吐く。自分に都合の悪い状況になると余計な言葉が増える。しかもその言葉が絶妙に触れられたくない所を攻めてくる。これもある種の才能なのだろうか。頭が良さの無駄遣いだ。
「うるせーよ! こっちだって今絶賛軌道計算中だぞ!」
「いや、このままだと帰りのワープ失敗するかもよ」
苛立つ気持ちをぐっと抑える。まあ言っていることは正しいが今は忙しい。
「分かった。接近観測が終わったらリソース全部回すから」
「ならいいけど」
とビクトリアの答えは歯切れの悪いものだった。意外と下手に出てみると扱いやすいのかもしれない。まあ、帰りのワープに問題が無いのであれば大丈夫だろう。
「ありがと」
「はいはい、でも何か引っ掛かるんだよねー」
ビクトリアは若干不満そうだが、諦めがついているようでもあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます